情報の流れを俯瞰してIOTでの品質活動を考える

情報の流れを俯瞰してIOTでの品質活動を考える

品質活動を「転写」と「変形」の視点からながめる。「情報」の流れで品質活動を整理すれば「IOT」のキモも見えてくる、という話です。

1.モノづくりを「IOT」の視点で整理する

あらゆるモノがインターネットでつながる「IOT」を推進する2つの団体が手を組むことになったとの報道がありました。

ドイツのインダストリー4.0とアメリカのインダストリアルインターネット。互いに進める実証事業の情報を交換し、規格の標準化に向けて協力します。

既にドイツの自動車、家電などの小型センサー最大手であるボッシュは米シスコシステムズなどと共に実証実験に着手しています。

 

自社の電動工具や作業員のユニフォームにセンサーをつけ、工具の稼働状況や作業の進捗を世界で把握するシステムを構築しようとしています。

こうした報道に触れると、欧米企業の取り組みのスピードを感じます。

「IOT」のキーワードは「つながる」です。これまでの「系列」「囲い込み」よりも、顧客や協力企業など「生態系」の広がりや多様性が重要です。

(出典:『日本経済新聞』2016年3月22日)

 

技術の世界は先手必勝です。先行者利益を狙います。

「IOT」をいかに儲ける手段や道具にするか、今後は製造現場でも問われます。独自技術を独自のやり方で生かし、勝ち残る戦略があります。

一方、「IOT」の発想で、外部とつながり新たな付加価値を生み出す戦略もあります。

 

情報通信技術(ICT)の進化がモノづくりの現場を変えます。何をどう生かすか、それぞれの工場によって異なります。

「今」をしっかり把握して、将来構想を描くことで見えてきます。したがって、モノづくりを「IOT」の視点で整理することが大切です。

情報通信技術(ICT)を現場にどう展開すると儲かるか?

 

この論点を取り上げるならば、モノづくりの現場を「情報」の視点で把握する必要があります。

情報通信技術(ICT)で取り扱えるのはデジタルデータであり、モノづくりの現場をそれで翻訳するのが事前準備になるからです。

製品を情報の束ととらえ、製造工程を情報の転写と変形の過程と考えます。

 

金型でプレス加工する工程Aと穴あけツールで穴あけ加工をする工程Bを想定します。

プレス加工での転写1と変形1、穴あけ加工で転写2と変形2です。ここでは、プレス加工に注目します。

原材料の鋼板がプレス加工されて仕掛品になる工程から得られる情報は、下記の4つに整理できます。

 

①プレス加工時のプレス機、金型の異常の有無
②鋼板に転写された情報Aの品質
③媒体(メディア)としての鋼板のコンディション
④塑性変形過程の異常の有無

 

これらはフィードバック情報に生かせます。

2.品質を「IOT」の視点で整理する

現場で優先すべきは安全と品質です。昨今、インダストリー4.0に対応した安全の概念も生まれています。

Safety2.0です。ロボットと人の協働作業を可能にする新しい安全の考え方です。(インダストリー4.0に対応した安全のコンセプト

時代とともにあらゆるモノやコトが進化し、変化します。

 

常に自社工場の業界における立ち位置を相対的に把握しておくこと。そして、外部の変化をどのように生かして自社工場を成長させるか目指すべき状態を設定すること。

これまでにも増して、こうしたことが重要になると予想されます。

従来の考え方を大切にしつつも、変えるべきところは変えて、柔軟性良く外部変化に対応する姿勢が求められます。

 

品質も同様です。

安全と同様に「IOT」の視点で品質を整理します。品質には設計品質と製造品質(適合品質)があります。製造品質に注目します。

製造プロセスを転写と変形の視点でとらえた時に、製造品質を管理・改善する具体的な手段は、大きく4つに分類できます。

①製品側で受信された情報が発信された情報と一致するか事後的参照
②転写や変形のプロセスで発生するノイズの除去
③情報発信源である機械、作業者および情報受信側であるメディアの質の維持
④そもそもプロセス全体、設計情報をノイズに強くすること

(出典:『生産マネジメント入門Ⅰ』藤本隆宏先生 をもとに作成)

 

効果的で漏れのない品質管理・改善活動を推進するには、生産プロセス全体を俯瞰することが欠かせません。全体を統一した視点で眺めます。

 


①製品側で受信された情報が発信された情報と一致するか事後的参照

出来上がった製品には顧客へ届けたい「コト」情報が束になって埋め込まれています。「コト」情報が水準でメディアに転写されたか、メディアは設定どおりに変形したかを事後的にチェックします。

つまり検査のことです。意図せず発生した不良品を外部へ流出させないことが目的です。

 


②転写や変形のプロセスで発生するノイズの除去

不良を流出させないことから、不良を発生させないことへ発想を上流側へ移行させます。

情報の発信源からは正しく情報が届いているが、加工中に発生するノイズで不良品が発生します。情報が転写され、変形していくプロセス(加工作業)でノイズが混入するのを防止します。

加工作業中のノイズにはごみ、切粉、油、振動、電圧変動、変形等があります。また、作業者の作業のバラツキもノイズの誘因です。こうしたノイズを除去します。具体的にやることは、作業改善や5S等です。

 

③情報発信源である機械、作業者および情報受信側であるメディアの質の維持
不良が発生する場合、発信された情報が不良情報であることがあります。

また、受け側のメディアが「コト」情報を受信、吸収し難いこともあります。

具体的は作業の教育訓練や設備点検、製品材料改良等です。

 

④そもそもプロセス全体、設計情報をノイズに強くすること
実地の生産活動から得られた情報をフィードバックして製品設計に反映させます。

そうすることで造りやすくなります。

 

この水準の活動が継続できる状態を目指したいです。具体的にはデザインレビュー(DR)等です。

品質活動を「転写」と「変形」の視点からながめます。「情報」の流れで品質活動を整理することができます。

まとめ。

品質活動を「転写」と「変形」の視点からながめる。「情報」の流れで品質活動を整理すれば「IOT」のキモも見えてくる。

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)