年功の設備
使い古した設備を活用していますか?
株式会社ミズキは売上高13億円、従業員50人規模の中小製造企業です。
神奈川県綾瀬市に本社工場があります。
精密ネジ、異形ネジ、シャフト、スクリューなど精密締結部品が主力製品です。
「日本発、世界に通用する部品メーカー」をコンセプトの掲げています。
同社の売上高に占める製品別の比率は、自動車用照明向けが40%、デジタルカメラ向けが30%、ハードディスクドライブ向けが20%。
国内外の電機・光学メーカーなどが顧客です。
出荷先は東南アジアを中心に世界に広がっています。
売上高に占める海外比率は70%を超えており、まさにコンセプトを体現している中小メーカーです。
(出展:日本経済新聞2018年2月4日)
自動車部品やデジタル機器部品は価格競争が激しく、顧客は少しでも安価なものを求めてサプラーヤーを探しにきます。
同社のネジなども例外ではありません。低価格での納入が求めらています。
そうした中で同社は競合他社と比べて、特殊ねじを最大40~50%安価に提供できるとのこと。
競争優位性を維持できている要因のひとつに、使い古した設備の活用があります。
同社の水木太一社長は次のように語っています。
「技術者が償却済の機械に手を加え、微細なネジを高効率で加工できるようにしている。」
(出展:日本経済新聞2018年2月4日)
現場で稼働しているネジ加工機の中には40年を超える“ベテラン”もいるようです。
モノづくりの世界は技術で戦っています。
ですから、自社のコア技術(固有技術と管理技術)をブラシュアップし続けなければ競合先に遅れを取るのは火を見るより明らかです。
現状維持もあり得ません。
相対的な衰退です。
情報通信(ICT)をはじめ、あらゆる技術分野で進化速度が加速されていることを忘れてはなりません。
モノづくり事業では勝てるコア技術を持つことが求められます。
それがないと、貴社は「その他大勢」に巻き込まれ、価格競争を避けられません。
規模の経済を味方にできない中小製造現場では絶対にやってはいけない戦略が価格競争戦略です。
したがって、付加価値額を積み上げる意識でモノづくりをすること欠かせません。
付加価値額の積み上げを可能にするコア技術(固有技術と管理技術)のブラシュアップが貴社の命脈を保つカギなのです。
コア技術のブラシュアップ方法は現場独自であり、唯一のやり方があるわけではないですが、弊社がご指導のなかで経営者へ問いかけるひとつに「技術の深耕」があります。
文字通り、技術の深掘りです。
現場の固有技術は、切削技術と研削技術というように、複数の要素技術で構成されており、そこに焦点を当てて「極める」のです。
「極める」ため、外部の先端技術を導入するのもいいでしょう。
また、徹底的に既存設備をしゃぶり尽くすこともいいでしょう。
まずは、後者を通じて工学上、技術上の限界に直面し、それを知恵と工夫で乗り越えましょうとお伝えしています。
コア技術ブラシュアップの初手です。
かつて伊藤が自動車部品を製造する工場で技術開発の責任者を担っていたときの開発方針もこれでした。
既存設備へ徹底的に手を入れ、直面する技術課題をクリアし、競合に先んじた技術を手にしようと日夜奮闘していたのです。
株式会社ミズキの「使い古した設備の活用」は大いにうなずける戦略です。
経理的、会計的な価値云々の前に、その設備に蓄積された知恵、工夫、ノウハウに焦点を当てます。
現場でモノづくりに携わっている皆さんとなら、このあたりのフィーリングを共有できるのではないでしょうか?
「トヨタ生産方式」を著わした元トヨタ自動車副社長大野耐一氏は、その著書の中で、「年功の設備を大切に」と説いています。
設備の価値とは本当に下がるものなのだろうか。
人間の場合、年の功はそれなりに人間に深みを加えさせ、むしろ価値は高まるものだが、機械の場合は、人間とちがって個性がないがゆえに、一般に年功の機会は捨て去られてしまうのが現状ではないだろうか?
私は人間と同様、年功を経た機械も大事に大事に使うことを提唱したいのである。
(出典:大野耐一著 トヨタ生産方式)
そうして、大野氏は原価償却費、残存価格、簿価という会計上の用語を取り上げて、これらはあくまで会計上、税法上、便宜的に定めた人為的なものだと喝破しています。
実質的な機械の使用価値とは何の関係もありません。
ですから、
「この設備はもう償却がすんでいる。元は取っているのだから、いつ捨てても損はない」
「この設備の簿価はゼロに等しい。こんなものに改造費をかけるのは損である。むしろ新鋭の機会に置き換えたほうがよい」
という発想は貧しく、そもそもまちがいだと語っています。
設備投資の経済性計算があります。
設備投資の投資機会を評価するものですが、具体的には正味現在価値法(NPV)、内部収益法(IRR)、回収期間法などいろいろです。
それぞれの詳細は省きますが、そこで必ず算出されるのが、投資による経済効果です。
正味で獲得できるキャッシュフローとも言い換えられます。
この数値を算出するとき、いわゆる節税効果を加味するために減価償却費分が「プラス」されるのです。
損益計算上の減価償却費は、いわゆる現金支出を伴なわない数字上の費用なので、こうした処置がなされます。
したがって、この考え方によると、償却済みで簿価ゼロの設備が経済効果を評価するとき、節税効果を加味するための減価償却費分の「プラス」がありません。
結果、設備投資で資金投入された新鋭設備のほうが、結果として、経済効果が大きく、有利であるとなります。
かつて管理者として、こうした設備投資の投資機会を評価したとき、そこになんとも違和感を感じました。当時、なんとなく現場で感じている感覚との差異を感じていたのです。
設備の新規立ち上げを複数回、経験していますが、当然のことですが設備規模が大きくなればなるほど、設備立ち上がり時に、不具合に直面し、当初計画の稼働率、良品率、サイクルタイム等を達成するのが難しかったことを何度も経験してきたからです。
つまり、新規設備を立上がるとき、価値を安定して生み出すことがなかなかできませんでした。
古くて、長年稼働してきた設備のほうが、癖も熟知しているわけですから安定稼働が普通になっています。
既存設備と比べ、新規設備の方が、立上がり時期、一定期間で生み出す経済効果は低いというのがしっくりくるわけです。
ただ、HPVにせよ、IRRにせよ、そもそも、算出ルールがそのように統一されていましたからどうしようもなかったわけですが。
大野氏の言葉を受けて、既存設備の価値を低く評価するやり方に対する、かっていだいた違和感をご紹介した次第。
当然のことですが、新規設備を垂直立ち上げできる手法や体制を考えることが、上記への本質的な対応です。
設備の稼働年月が長いからと言って、その設備の価値がなくなるわけではありません。
しっかりメンテナンスや修繕を重ねた設備はかえって使いやすく、小回りが効いたりします。
多品種少量生産を極めたい中小製造現場では大きな役割、つまり大きな価値を生み出すのです。
中小ならではの付加価値額を積み上げる手段となります。
ミズキの「使い古した設備の活用」戦略、大野氏が語る「年功の設備を大切に」をかみしめませんか?
まずは、徹底的に既存設備をしゃぶり尽してください。
貴社の強みを現場から、まだまだ、発掘できます。
既存設備で付加価値額を積み上げる仕組みをつくりませんか?
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