工程能力に注目して不良品対策に取り組む

工程能力に注目して不良品対策に取り組む

不良品対策では工程能力に注目する。不良品発生と関連した技術要因を計測値化して工程能力の変化を追う、という話です。

1.工程能力指数に注目した品質管理

高品質を強みとしてきた日本製品の競争力において「品質」が現在も競争力の源泉になっていると考えているメーカー関係者は多いです。(品質意識を高めるためにトップが持つべき2つの視点

その一方で、日本製品の品質レベルが以前より低下していると感じている技術者も増えています。

品質管理を難しくしている経営環境の変化には、コスト削減圧力拡大、グローバル化など、さまざまあります。

 

そのなかで現場に直接影響が大きいのはベテラン従業員が減少することに起因する現場力の低下です。

目で見て、手で触って、音で聞いて五感で鋭く品質を判断できる「職人」が品質上の危険を察知し、事前に手を打って、品質トラブルを未然に防止する。

このような職人技に依存した品質管理は難しくなってきます。

 

今後、避けられない外部環境変化です。(変化に着目して品質管理の3つの見える化を実践する

品質は安全と共に現場で最優先で取り組まねばならない事項です。モノづくりの基本中の基本であることに異論をはさむ方はいないです。

コスト、利益ありきで品質がおろそかになり市場の不信を買っている昨今の自動車業界の一連の出来事を見るにつけ、改めてこの基本は徹底したいです。

 

品質トラブルは、外部的には商売の根幹をなす「信用」を棄損します。また内部的には損金としてお金が流出します。

品質では継続的で地道な活動が欠かせません。判断基準となる指標を設定して、その数値変化を見続けるのが効果的です。

ベテラン従業員が発揮してくれた職人技に頼れなくなっていく今後の現場で代わりに必要になってくるのが客観的な指標です。

 

数値の変化から品質状況を読み取り必要な手を打つ。数値の変化と品質状況との相関からノウハウを得ます。

不良品対策は不良損金や不良率を低減させることが直接の狙いです。そのために検査工程を効果的に組み込みます。(検査工程を生かして不良品による損金流出を減らす

そして、ここで検出された不良品は、主に公差と工程能力から決定されます。ですから、不良損金や不良率を分析し対策を進めると工程能力に至ります。

 

工程能力を意識した品質管理が不良品対策の本質です。

工程能力指数は公差と工程能力の相対関係を示します。

 

工程能力指数 = 公差 ÷ 工程能力 = (上限値 – 下限値) ÷ 工程能力

       = (上限値-下限値) ÷ 6σ

 

工程能力指数が1.00である時、公差は工程能力、つまり6σ相当を意味する。

1,000個で3個の不良品が発生することが予測されます。

工程能力指数が1.33の水準では、10,000個で7個程度の不良品が発生し、一般的に理想的な状態なので維持すべき水準とされています。(工程能力指数1.33で最低必要な検査コストを知る

 

つまり工程能力指数を向上させることが、不良損金や不良率を低減することにつながります。

工程能力指数を向上させる方法は2つあり、分母を大きくするか、分子を小さくするかです。

2.工程能力指数の分母を大きくする

公差はお客様と決定した規格の上限値と下限値の幅で示されます。

工程能力を現状維持で、検査工程における公差を緩和すると、工程能力指数が向上します。

以前に勤務していた工場では検査工程での公差をお客様との決めた公差よりも若干厳しく設定していました。

 

製品開発での目標をお客様と決めた公差ではなく、若干狭い公差に定めていました。

コストの配慮もした上での検査工程における「自主規格」です。対外的に不良品が流出するリスクは低くなります。

自主規格で狭い公差を定めた分、外部不良率は下がります。一方で、トレードオフの関係で内部不良率は上がります。

 

製品開発段階で工程能力を所定の水準にまで上げることができない場合もあります。

所定の厳しめの公差でそのまま量産へ突入すると、内部不良率がかなり悪い水準になります。

このような場合、初期流動段階で品質保証部門へ公差の緩和申請(工程変更伺い)を出すことがありました。

 

当然に、不良品を多発させるわけにもいかないからです。開発段階で自主規格を設けることでこうした対応が可能になります。

3.工程能力指数の分子を小さくする

公差を一定として、工程能力(±3σ)を小さくします。不良率を低減するために工程能力を小さくすると考えます。そのために不良品発生と相関のある計測値が必要です。

典型的なのは、計測器で数値計測が可能な寸法、質量等です。

評価が難しいのが、外観検査や感応検査です。概ね○か×判定で行われる検査では、工程能力を評価するのは困難です。

 

外観の良し悪しや見た目がきれかでそうでないかを10段階評価などで数値化することは可能ですが、かなり手間がかかり、生産タクトに追随しない恐れがあります。

現場の検査工程のタクトは、出荷前工程であることも踏まえれば、短く設定されているケースが多いです。

ですから、手間をかけて外観検査等を数値評価するのは、現実的な対応ではないです。

 

こうした場合、その不良品発生に直結する製造工程の要素技術へさかのぼります。

たとえば、外観の良し悪しは塗装工程の塗装吐出圧変動に関連している、切断工程の潤滑油供給量変動に関連している等……。

簡単に見つかることではないですが、こうした技術要因をひとつひとつ拾い出すことがモノづくり現場では欠かせません。

4.工程能力の把握には技術の理解が必要

不良品対策はモノづくり現場の柱となる活動のひとつです。
そのための仕組みづくりは極めて重要です。

 

1)不良品(不適合品)置き場と分析スペースを確保する

2)不良品(不適合品)の置き場への搬送ルールを決める

3)分析スペースでの分析作業の内容と担当者を決める

4)不良品への対応策を定期的に議論する場を設定する

不良品から情報を引き出すための仕組みはつくる

 

定期的な議論を通じて、コア技術が磨き上げられます。

こうした議論の場では不良品発生と関連した技術要因を探索します。そして、この技術要因を計測値化して数値変化をとらえます。

継続的な数値を積み上げることによって、工程能力も評価できます。工程能力の変化評価することで、先手を打てるようになります。

 

現場データを積み上げ、そこから有益な情報を引き出す仕組みを目指します。

情報通信技術(ICT)を活用したIOTです。

まとめ。

不良品対策では工程能力に注目する。不良品発生と関連した技術要因を計測値化して工程能力の変化を追う。

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)