工程分析で物の「停滞」は親の仇のごとくヤッツケロ

工程分析で物の「停滞」は親の仇のごとくヤッツケロ

フロー・プロセス・チャートでは物の「停滞」と人の「手待ち」に注目して、工場のムダを認識し、工場にイイ流れをつくることを目指す、という話です。

1.カイゼンのスタートはオペレーション・プロセス・チャート

どんな工場にも素材を加工して高付加価値化する「流れ」があります。

工程分析(プロセス・チャート)はその「流れ」を見える化する手法です。

 

製造プロセスや製品(商品)の本質を理解するのに有効です。

流れを表現するためには、2つの見方があります。

  • 物に注目する
  • 人に注目する

 

まずは、物に注目し「加工」と「検査」に絞った流れを把握します。

オペレーション・プロセス・チャートです。

工程分析で製造プロセスの本質を見える化する

カイゼンでは対象とする商品(製品)や製造プロセスの本質を理解し、その情報を現場で共有することから始めるべきです。

これを抜きにして、いきなり細部の検討をしていませんか?

目つく「問題「のみに焦点を当てていませんか?

現場活動で多くみられるのがこのパターンです。

全体最適を全員で共有する前に、部分最適を考え始めてしまう……。

 

たしかに現場では「毎日」、そこで作業を行いワークを見ていますから、対象となっている製造プロセスも製品も十分に理解していると考えがちです。

メンバーは皆「うん、俺(私)は、それを十分に分かっている。」と言うことでしょう。

しかし、本当にそうでしょうか。

「本質」はひとつです。

その商品(製品)や製造プロセスの本質を本当に共有できているでしょうか?

 

そのことを確認し、異なる見解があれば修正します。

全体最適化で描ける望ましい姿、あるべき姿を全員で理解するために、オペレーション・プロセス・チャートを活用します。

 

まずは、全員で製造プロセスや商品(製品)の本質を共有します。

鳥の目からスタートです。

全体像の把握から始めます。

全体最適を理解してから部分最適です。

大から小への移行がポイントです。

カイゼンの目的、意義が明確になります。

 

2.フロー・プロセス・チャート

オペレーション・プロセス・チャートで本質を共有した後で、いよいよ、詳細部分の検討です。

森から木へ。全体から部分へ。鳥の目から蟻の目へ。

カイゼンの対象となる商品(製品)の製造プロセスに含まれている全ての要素工程の系列を整理します。

フロー・プロセス・チャートと呼ばれます。

目的は現状の整理と把握です。

 

工程分析では要素となる工程を4つに分類しています。

  • 加工
  • 運搬
  • 停滞(貯蔵と滞留)
  • 検査(数量と品質)

複雑に見える現場も4つの要素工程で全て表現できるということです。

現状を一目で把握することができるのがイイところです。

 

さて、流れを表現するためには、

  • 物に注目する
  • 人に注目する

の2つがあります。

上記の4要素工程は「物」の流れに注目した場合です。

 

「人」の流れに注目した要素工程は下記の4つです。

  • 作業
  • 移動
  • 手待ち
  • 検査

物も人も、現場でのフローが、4つの要素工程で表されるという事実は興味深いです。

シンプルで理解しやすいです。

 

3.物でも、人でも、流れで注目したいところは同じ

カイゼンの対象にかかわらず、現状把握の視点から考えると、物の流れと人の流れは両者をセットで分析するべきです。

生産ラインでは人と物は相互に作用しており、現象の因果関係を把握しやすくなるからです。

 

製品別ラインで完全自動化ラインの要因が多ければ多いほど、人的要因は減ります。

ただし、中小モノづくり現場で多くみられる機能別ラインであるならば、人的要因は小さくありません。

物への人的要因の影響は無視できないです。

ですから、現場での現状把握は物の流れと人の流れをセットにすることをお勧めしています。

 

もうひとつ、セットで現状把握することをお勧めする理由があります。

それは、「ムダ」を物、人の両面から整理する絶好の機会にもなるからです。

付加価値を生むことに関係のない工程がいかに多いかに気付きます。

この気付きこそが工程分析の目的であることを何度か申し上げてきました。

工程分析で、価値を生まない工程が多いことに気づく

工程分析で製造プロセスの本質を見える化する

工程分析の重要性をお伝えしたくて繰り返し申し上げています。

特に機能別レイアウトの工場では有効だからです。

 

そこで、要素工程のうち、

  • 物の流れでは「停滞」
  • 人の流れでは「手待ち」

に注目です。

 

工場の役割は「生産活動」を効率良く「お金」に変換すること。

滞りなく商品(製品)を製造し、お金の形で回収することです。

経営資源を工場へインプットし、生産物をアウトプットしているのですから、物が「停滞」し、人が「手待ち」していたら、それはお金の流れが滞っていることを意味します。

ですから、この「停滞」や「手待ち」は付加価値を生まない除去を目指すべき項目であることを認識したいです。

私たちが目指しているのは工場での良い流れであり、この事実を現場で共有したいです。

 

物が「停滞」し、人が「手待ち」していたら、これらもカイゼンの対象と考えます。

同じようなことを申し上げていますが、重要なので繰り返し説明しました。

 

4.特に物の「停滞」は親の仇のごとくヤッツケロ

物の「停滞」で特にマークすべきは工程間にある仕掛品です。

そして、仕掛品は2種類あります。

  • 意図を持って仕掛品を置くケース
  • 意図せずに仕掛品を置くケース

意図せぬ仕掛在庫品が増えてしまう2つの理由

 

戦略上、意図的に仕掛品を置くケースは当然にあります。

前後工程の緩衝的役割を担う意図せぬ仕掛品の存在も避けられない現状にあるかもしれません。

ただ、それでも、やはり工場での良い流れを目指すならば仕掛品はゼロを目指します。

滞りないお金の流れを作りたいのです。

工程間に仕掛品が存在するのは、現場をステージアップさせるイイ機会と考えます。

 

板金組み立て工場で生産管理業務をやっていた時、次のようなことがありました。

タレットパンチプレス → ベンダー → 塗装

の工程での話です。

工程間の仕掛品の存在が常態化していました。

せめて仕掛品の先入先出ができるような管理体制があれば望ましいのですが、そのような仕組みもなく、現場での都度対応で乗り切っていました。

 

ある時、塗装工程から連絡がありました。

「今日、塗る予定になっている製品Aの材料が見当たらないです。」

現場へ駆けつけて、ベンダー加工済の材料を探しましたが、見つからず……。

ベンダー工程の責任者に尋ねたところ、加工済とのこと。

「どこにいったのでしょうね……」と現場メンバーと一緒に探していたら、

「あった!!」の声。

奥の奥にひっそりと、塗装待ちの状態で加工済品が置かれていました。

 

後日談ですが、その製品Aのベンダー工程を担当していた作業者はその日たまたま休みであったので、「捜索」に時間がかかってしまった模様。

担当作業者の話では、生産計画上の予定より早く、製品Aのタレットパンチプレス工程が完了し、材料が届いていたとのこと。

そこで、隙間時間でにさっさとベンダー加工を済ませて奥へ置いたようでした。

ですから、現場としてはやるべきことをやっていたことになります。

計画に先行して工程が進んだ場合、このように加工済品が「行方不明「になる事態が往々にして起こります。

 

多くの中小現場ではそうであると思いますが、前工程からプッシュ型で材料が送り込まれる生産ラインで、先入先出が徹底されない場合は、特にそうです。

加えて、生産管理体制上、

  • 現品管理
  • 加工工程の生産能力を把握

が為されていなければ、仕掛品に関連する混乱を助長します。

 

仕掛品の存在は流れが滞っていることへの緩やかな警告です。

仕掛品の存在が常態化している現場では、その存在の異常性に気づきにくいですから、フロー・プロセス・チャートで見える化する意義があります。

人に関する「手待ち」も同様です。

長年、やっている作業で気付きにくいムダを見える化します。

 

フロー・プロセス・チャートで注目したいのは、「停滞」と「手待ち」です。

特に計画外の意図せぬ「停滞」は放置せずに、必ず手を打ちます。

 

全ては工場に良い流れをつくるためです。

全体最適として、お金の流れをイメージすると意欲が沸きそうです。

 

まとめ。

フロー・プロセス・チャートでは物の「停滞」と人の「手待ち」に注目して、工場のムダを認識し、工場にイイ流れをつくることを目指す。

 

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出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)