工場内外での満足度を高めて付加価値を高める
付加価値を拡大する視点として、工場内では従業員満足度、工場外では顧客満足度の最大化があり、両者ともに人間を研究することに他ならない、という話です。
1.現場作業者目線を重視したIE手法の事例
IE(作業研究)の柱は方法研究と作業測定の2つであり、作業者が行うすべての動作を調査、分析し、最適な作業方法を求めるための手法の体系となる動作研究は方法研究のひとつです。
作業者の「動作」はIEの研究対象であり、無駄を省いて作業者の作業を効率良くお金に変換することは、昔から重要視されていたと考えられます。
作業者の動作を観察することで現状の動きを把握するところからスタートします。
すべての検討に必要なのは、まず「今」です。
そして、今を把握した後、望ましい状態と比較することが次のステップとなります。
「今」の分析結果の検討方法や改善着眼点について、動作分析固有のものとしてしばしば使われるのが「動作経済の原則」です。
身体の使用、作業域、工具や設備の設計の3つのグループから構成されている最も合理的に作業を行い疲労を軽減させる経験則ですから、現場へ新たな生産設備を導入する時、現場のレイアウトを変更する時、デザインレビュー(DR)で議論での論点を与えてくれます。
現場の管理者をやっていた時、新たなプレス機を現場へ導入する機会がありました。
そこでは新たなプレス機を中心にして5工程の作業をワンマンでこなせることを目指しました。
新たなプレス機を中心に複数の設備を配置するのですが、「工具や設備の設計に関する原則」に関連して検討を要する案件があり、現場より作業者の負荷を減らして欲しいと要望が出ました。
新たなプレス機で、オペレーションのためのステップを設置をしなければならないことに対してでした。
新たなプレス機の作業足場をF.L.(フロアー)よりも高く設計せざるをえなかったため、他の設備との兼ね合いでステップの設置はどうしても避けられない状況でした。
ステップを設置してしまうと、作業者は2段で400mm程度のステップを3~5分サイクルで作業の度に上り下りをしなければならず、作業負荷が高まり、疲労のもとになることが考えられました。
最悪、労災へつながりかねない事態を引き起こす懸念があります。
現場リーダーから、こうした懸念を払拭したいとの要望が出たわけです。
この事態を根本的に解決しようとするならば、作業域のF.L.(フロアー)全体を底上げする必要がありました。
かなり大掛かりな、追加検討項目となりましたが、作業者の負荷増にかかわる重要項目として捉えて、生産技術部門の関係者が知恵を絞り、作業域全体を底上げする上手い足場レイアウトを考えてくれました。
こうした対策を事前に打つことで、現場の納得感も高まり、その生産ラインの立ち上げも計画通りに進みしっかり稼ぐラインとなりました。
現場からの要望に対応するために追加の費用が発生したわけですが、短期間に回収することができました。
IEでの動作研究は研究対象が作業者であり、その作業者の動作の効率を最大化させることが狙いですが、作業負荷を軽減するという「作業者に優しい職場」という視点でもあります。
作業者の動作を研究対象にするのは、作業者の動作の無駄を省く、あるいは作業者の怠慢を見過ごさないというマイナスからの発想ではなく、作業者の負荷を減らし、作業のしやすい環境を整備することで、一生懸命に現場で汗をかきたいと願っている現場のやる気を引き出すプラスの発想にするためであると考えています。
モノづくり現場でどれほどに情報通信技術(ICT)が発達しても、現場作業者との関わりがなくなることは考えられません。
工場オペレーションとしては現場作業者の要望を聞き続けること、IEとしては動作分析を通じて作業者の負荷や疲労の軽減を図ることが現場のやる気を引き出すことへつながりことに注目します。
作業者視点に立ち、現場作業者のことをよく知ることは、現場作業者の働き甲斐を高める機会を増やし、従業員満足度を高めます。
つまり、従業員満足度への投資は、職場での生産性を向上させることで十分に回収できることを示唆しています。
IEの本質は儲かる工場経営を実現させることであり、そのためには現場を舞台に活躍している作業者のことをよく知ることです。
2.米GE社の利用者の目線に立った開発
工場内では現場の作業者を検討対象としました。
それでは、工場外での検討対象は?
産業機器の分野で利用者の目線に立って使い勝手の改善を重ねて成果を出しているのが米General Electric社です。
(出典:日経ものづくり2016年7月号)
使用者の使い勝手をとことん追求して人気を得ている「iphone」「iPad」などの事例のように、消費財の分野では、利用者の使い勝手の改善が競争力のカギとなることは指摘されてきました。
一方で、産業財としての産業機器の開発サイクルは消費者向け機器よりもずっと長く、いったん購入されると10年単位で使用されることも珍しくなく、使い勝手の改善は消費者向け程には早くないです。
GE社はここにメスを入れて産業機器の使い勝手に目を向け、利用者目線に立って徹底的に使い勝手を改善することに注力しています。
例えば、GEが開発した海底油田などを掘削する船舶向けコンピューターベースの制御システムがあります。
掘削船は荒れた海でも同じ位置にとどまり続ける必要があり、同システムは潮の流れや波の大きさ、風の影響などの状況と、船の速度や向きなどをセンサー検知、スクリューや推進装置を動かして掘削船の位置を自動制御します。
このシステムを開発するために開発チームは、掘削船に実際に乗り込んで、船長や乗務員の働き方を長時間にわたって観察し、課題や要望を直接に聞き出して、どうしたら使い勝手が向上するのか約8ヶ月かけて考えました。
開発責任者は次のように語っています。
とりわけ人間観察に時間をかけた。
業務をシンプル化することを重視し、船長や乗務員が必要な情報を簡単に入手でき、直観的に操作できるようなシステムを開発した。
(中略)
利用者の目線に立って徹底的に使い勝手を改善した結果、同製品の市場で3位にとどまっていたGEのシェアはナンバーワンになった。
(出典:日経ものづくり2016年7月号)
顧客視点に立って顧客満足度の最大化を図る商品開発によってライバルとの差別化を図った取り組みです。
GE社の事例は、機器の仕様、性能の競争以外にも差別化の論点が存在することを示しています。
利用者の使い勝手を徹底的に追求すれば、結局はマスカスタマーゼーションの体制が求めらると考えられます。
3.人間の研究につきる
付加価値を拡大する機会は工場の中と外にあります。
そして、検討の切り口のひとつは「人」です。
工場の中では現場であり、従業員。
工場の外では消費者であり、利用者であり、顧客。
それぞれ、両者の満足度を上げる観点が付加価値を向上させることにつながります。
従業員満足度であり、顧客満足度です。
どちらも検討の対象は人間です。
人間の行動を徹底的に分析すること、つまり人間を研究することも儲かる工場経営で欠かせない論点であることに注目です。
特に、顧客満足度のみならず、従業員満足度を高めることも儲けにつながることには注目です。
IEは無機的な分析手法ではなく、「現場」満足度を最大化することでやる気を引き出す思想が根底にあると考えています。
まとめ。
付加価値を拡大する視点として、工場内では従業員満足度、工場外では顧客満足度の最大化があり、両者ともに人間を研究することに他ならない。
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