【失敗しない!中国ものづくり|第3回】勝手に変更される金型

2018/9/28 ロジ

【失敗しない!中国ものづくり|第3回】勝手に変更される金型

これまでの連載記事
第1回:『中国での不良品やトラブルの原因は60%日本人にあり
第2回:『中国人の「問題ない」に潜む3つの意味

 

先回のコラムでは「没問題(問題ない)」に込められた中国特有の意味についてお伝えしました。それは次のようなものでした。

「ちょっと問題ありだけど(今は)気にするほど大きな問題ではない(と私は思う)。」

希望的観測による「今は」と、勝手な自己判断による「と私は思う」が特に特徴的と考えます。今回は後者の勝手な自己判断による「と私は思う」に関してお伝えします。

突然、量産ラインに不良品

ある日のこと、プロジェクターの製造ラインから突然連絡が入りました。外装部品のトップカバーが完全に取り付けることができないというものでした。すぐざま製造ラインに行き、その状況を確認することになりました。一般的にこのような嵌合の問題は、トップカバーに発生したバリや反りが原因で、取り付けにくくなっている場合がほとんどです。今回もそのようなことだろうと思いながら製造ラインに急行しました。しかし原因は違いました。プロジェクターの内部の部品がトップカバーの内側の面に当たって取り付けられないのでした。

図1_トップカバーが取り付かないプロジェクター(この写真は取り付いた状態です)

図1 トップカバーが取り付かないプロジェクター(この写真は取り付いた状態です)

 

量産中のラインをストップさせ、問題となった製品を分解して検討することになりました。プロジェクター内部の部品を分解してみると、原因は簡単に分かりました。プロジェクターの内部にはランプがあります。約1,000度近くの温度を維持しながら点灯します。しかし、そのランプの周りにある樹脂の部品の耐熱温度は高いもので約220度、低いもので約80度です。つまりランプの温度で樹脂は簡単に溶けてしまうので、ランプの周辺の部品には冷却が必要です。そのためにプロジェクターの内部にはファンと送風ダクトが設置されています。今回の問題の原因は、適切に嵌合するはずの2つのダクトの嵌合状態が悪く、2つのダクトを組み合わせた外寸が大きくなってしまっていたのでした。

どちらかのダクトの嵌合部分の寸法に変化があったと推測されました。片方の部品は流用部品で他の製品にも使用しており、問題は起こっていませんでした。よってこの部品が原因ではなさそうでした。そうなると今回の製品のために新規に作製したもう片方の部品の嵌合部分の寸法に何らかの変化があったと推測されたのでした。

早速この問題の部品と量産開始時の承認部品を持って、この部品を製造している成形メーカーへ行くことになりました。持ってきた2つの部品とこの成形メーカーにある現在生産中の部品の3つを、3次元測定器で測定しました。結果は、承認部品と他の2つの部品の嵌合部分の寸法が異なっていたのでした。

勝手に変更された金型

図2_嵌合部分の寸法が変わってしまったダクト

図2 嵌合部分の寸法が変わってしまったダクト

 

次に、なぜ寸法が変わってしまったかの調査が始まりました。営業兼日本語通訳に成形担当と金型担当、そして品質保証担当を呼んでもらい、話し合いを行いました。原因はすぐ判明することになりました。

承認サンプルのダクトの嵌合部分の壁の厚みは0.5mmしかありませんでした。この寸法でしばらく量産を行っていたのですが、0.5mm厚の壁に樹脂が流れにくくなること(ショートショット)を懸念した成形担当が、金型担当に金型変更の指示を出したのでした。

私は成形担当に質問しました。「何故、設計者に確認しないで金型変更をしたのですか?」
返ってきた答えは、「問題ないと私が判断しました。」というものでした。

金型は基本的には設計者の会社の所有物です。よってその変更には部品の設計者(依頼者)もしくは設計者の会社の承認が必要です。また量産途中の変更は、他の関連部品への影響はもちろんのこと、製品の仕様、製造性、法規制などにも影響を与える場合があります。よって設計者は量産中の製品の部品変更の際には、変更前に必ず変更予定品を試作して、事前に問題がないことを確認します。今回のように成形メーカーから変更要望があった場合にはその旨の連絡をもらい、設計者が検討を行い問題がないことが確認された後、設計者から変更指示を出します。今回はこの行程を全く経ず、成形担当の独断で金型を変更してしまったのでした。絶対にあってはならないことでした。

図3_「問題ないと私が判断しました」と言う成形担当

図3 「問題ないと私が判断しました」と言う成形担当

 

中国人の国民性による「勝手な自己判断」

金型を変更する場合には金型変更連絡書というフォーマットが存在し、これを設計者が発行することによって初めて金型が変更されます。そしてこのルールはこの成形メーカーにはもちろん伝わっており、成形担当も知っていました。それではなぜ金型の変更指示を出してしまったかというと、それは中国人の国民性の代表的な一つである「勝手な自己判断」に起因します。今回の金型変更はたったの0.2mm金型を削るだけです。とても小さな寸法なので、きっと問題が起こるはずはないと楽観視していたのでした。

今回の問題の反省点

金型変更のルールは認識されていたので、今回のこの問題を事前に防ぐことは困難だったと思います。対策としては、私の会社の部品保証部を通して金型変更のルールの再徹底をする程度のことしかありませんでした。

中国の部品メーカーとの協業で明確なルールのない業務には、このような「勝手な自己判断」が至る所に存在します。しかし私の中国駐在中に、中国人とトラブルを起こしにくい人もいました。そのような人は、必ずルールとフォーマットを作っていました。単にサンプルの発送の場合でも、サンプルの名称、個数、発送希望日、発送者などをEXCELで一覧表にまとめて、メールに添付して送っていました。決してメールの文章だけや、電話だけでの依頼はしていませんでした。中国人との情報の行き違いによるトラブルを無くすためには、ルールとフォーマットを作ることがとても大切ということです。

下の表は私の見積もり依頼のフォーマットです。行き違いが無いように「部品名称」、「USD」、「部品単価」、「金型費」、「税含/税不含」が明確に指示されています。このように明確に指示しないと、何度もメールのやりとりをすることになってしまいます。是非ご参考ください。

図4_見積もり依頼のフォーマット

図4 見積もり依頼のフォーマット

 

今回は中国人とのトラブルの原因として「勝手な自己判断」をお伝えしました。しかしその背後には、私たち日本人の情報の出し方にも問題がある場合が非常に多くあります。日本語通訳が理解できないような言葉での会話、日本人独特の曖昧な表現を用いたメール、明確な指定のない図面による指示などです。私たちは中国人に「誤認識」を与えない情報の出し方に注意を払う必要があります。

次回以降のコラムでは、これらを詳細にお伝えしたいと思います。ご期待ください。

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ソニー(株)に29年間在籍し、メカ設計者としてモニターやプロジェクター、プリンターの合計15モデルの商品化を行う。ソニー退職直前には駐在を含み7年間わたって中国でのモノづくりに携わり、約30社の中国メーカーで現地部品の立ち上げと、それに伴う製造現場の品質指導を行う。このときに、中国で発生する不良品やトラブルの60%は日本人の設計者に原因があることが分かり、その対応方法を広く伝えるべくソニーを退社し、2017年に「中国不良ゼロ設計相談所」ロジを設立する。 専門領域:CAD設計、商品化技術ノウハウ、冷却技術、防塵技術、部品メーカー品質指導ノウハウ、中国メーカーとのコミュニケーションノウハウ