労働安全衛生法の仕組みと食の安全
労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とした法律です。
安全衛生管理体制、機械や危険物・有害物に関する規制、労働者を危険や健康障害から守るための措置、労働者に向けての安全衛生教育、労働者の健康を保持増進するための措置などを定めた、快適な職場環境を作るための労働環境保全の基本ともいえる法律で、全13章および附則からなっています。
今回は、食品を取り扱う業界に向けた労働安全衛生法の仕組みについて解説します。
労働災害をふせぐため、企業の責任明確化を促す
労働安全衛生法自体は、食品業界だけに向けた法律ではないので、製造業を営む事業者全てに向けた総花的な法律となっています。
例えば第一条では「この法律は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)と相まって、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする」と掲げており、労働災害を防ぐために事業者の責任の明確化と自主的な行動を促しています。
一定の業種・規模の事業者に安全管理者と衛生管理者の設置を定める
また、第十一条では「事業者は、政令で定める業種及び規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、安全管理者を選任し、その者に前条第一項各号の業務(第二十五条の二第二項の規定により技術的事項を管理する者を選任した場合においては、同条第一項各号の措置に該当するものを除く)のうち安全に係る技術的事項を管理させなければならない」として安全管理者の設置を、次いで第十二条では「事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、都道府県労働局長の免許を受けた者その他厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、当該事業場の業務の区分に応じて、衛生管理者を選任し、その者に第十条第一項各号の業務(第二十五条の二第二項の規定により技術的事項を管理する者を選任した場合においては、同条第一項各号の措置に該当するものを除く)のうち衛生に係る技術的事項を管理させなければならない」として、衛生管理者の設置を定めています。
労働安全衛生規則に食品加工業界向け規定を追加
同法を実施するため、法律のもとに別途、労働安全衛生規則が定められています。
2013年からはこれに、食品加工用機械を使用して作業を行う事業者および食品加工用機械を製造する製造者に向けた規定を追加して、改正「労働安全衛生規則」が施行が施行されました。
今回とくに食品加工用機械関連の規定が追加された背景には、食品加工用機械による労働災害が多いことがあります。
休業4日以上の死傷災害は年間2,000件近くにもなり、他の産業機械による災害に比べると特に多い状況にあり、身体部位の切断や挫滅(組織がつぶれること)により労働者の身体に障害が残る可能性のあるものが4分の1に達しているとのことです。
加工機械の覆いや、原材料取り出し時の運転停止などを定める
こうした状況をふまえて、加工機械のなかの危険な部品に覆いを設置することや、食品の原材料の送給・取り出し時の運転停止、用具の使用などが義務付けられました。
具体的には以下のような規則が定められています。
安衛則第130条の2(切断機等の覆い等)
事業者は、食品加工用切断機又は食品加工用切削機の刃の切断に必要な部分以外の部分には、覆い、囲い等を設けなければならない。
安衛則第130条の3(切断機等に原材料を送給する場合における危険の防止)
1.事業者は、前条の機械(原材料の送給が自動的に行われる構造のものを除く)に原材料を送給する場合において、労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、当該機械の運転を停止し、又は労働者に用具等を使用させなければならない。
2.労働者は、前項の用具等の使用を命じられたときは、これを使用しなければならない。
安衛則第130条の7(粉砕機等から内容物を取り出す場合における危険の防止)
1.事業者は、第130条の5第1項の機械(内容物の取出しが自動的に行われる構造のものを除く)から内容物を取り出すときは、当該機械の運転を停止し、又は労働者に用具等を使用させなければならない。
2.労働者は、前項の用具等の使用を命じられたときは、これを使用しなければならない。
安衛則第130条の8(ロール機の覆い等)
事業者は、食品加工用ロール機の労働者に危険を及ぼすおそれのある部分には、覆い、囲い等を設けなければならない。
安衛則第130条の9(成形機等による危険の防止)
事業者は、食品加工用成形機又は食品加工用圧縮機に労働者が身体の一部を挟まれること等により当該労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、覆い、囲い等を設けなければならない。
まとめ
食の安全を守るためには、まずは業界で働く労働者の作業環境の改善と快適な環境の維持から始めることが重要です。
食品を取り扱う業界にとっても、労働安全衛生法の仕組みを知っておくことは重要性を増しています。
出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング