作業研究=方法研究+時間計測がIEの全体像である
作業研究は、システム全体の設計を目指す方法研究と多様な目的で活用する時間を計測する時間測定で構成される。そして、現場の自主性を持って実施されるのが望ましい、という話です。
1.IE(インダストリアル・エンジニアリング)
カイゼンは現場が自主的に実践する活動であり継続性が重視されます。
思い付きの単発的な活動ではなく、目的を明確にした活動であるべきです。
IE(インダストリアル・エンジニアリング)はカイゼンの手法として体系立てて理解し、身に着ける価値がある手法であると考えています。
トヨタ生産方式で有名な大野耐一氏は下記のように語っています。
利益を上げるのは、くどいようだけれども、原価を下げる努力をすることによって、もちろん業績も上げる努力をして、利益を上げることにつきる。
ただ労働者を、昔の悪い言葉で言うと、こき使って、あるいは低賃金で使って設けるんじゃなくて、本当に合理的に科学的に、いわゆるムダをなくすことによって原価を下げていく。
そういう努力をするのが、とくにインダストリアル・エンジニアの一番大事な仕事じゃないかなんていうことを考えておる。
(出典:トヨタ生産方式の原点 大野耐一氏)
今から30年以上も前の言葉です。
今も昔も、モノづくりで儲けるネタは現場にあるということです。
そして、合理的に科学的に儲けよとも大野氏は語っています。
全体最適の視点を持ってIEのような体系化された手法を繰り出して、新たな価値を生み出す能力を持った現場を創出する。
これがモノづくり現場が目指すひとつの姿ではないでしょうか。
IEはワーク・システムを設計・確立することが目的です。
悪いトコロを直すや良くするという行為にとどまらず対象を(ここではモノづくり現場全体)を広く見渡して最適な仕組みを作り上げる手法であると考えたいです。
2.作業研究
作業研究はIEの基礎的な部分を形成しています。
そして、その作業研究では、方法研究と作業測定の各手法を用います。
この2つの手段の位置づけを理解しておくと作業研究、つまりはIEの全体像が描き易くなります。
作業研究 = 方法研究 + 作業測定
方法研究は望ましい作業方法自体を作り出すこと、あるいは望ましい仕組みを構築することが目的になります。
そして、作業測定とは、時間を評価して、その数値を多様な目的に資することです。
●方法研究
方法研究では対象となるシステム全体の設計を検討するところから始めます。
それから個々の作業の設計を行うのです。
個別の作業に焦点を絞る前には、必ず、システム全体を捉える努力をします。
システム全体とは具体的には工場全体であり、特定の生産ラインであり、場合によっては特定の複数工程となります。
例えばせん断工程から送られてくる材料をプレス機へセットする作業をカイゼンの対象とする時、そのプレス工程のみならず前工程となるせん断工程と次工程をセットで考え、全体最適ではどうあるべきなのか、まず知恵を絞ります。
システム全体の望ましい全体像が見えてから、困りごとであるプレス工程での材料送り方法について工夫を加える。
全体あっての部分であるという思考方法をIEで身に着けます。
●作業測定
作業測定では時間を計測します。
IEにおける成果の評価の多くは生産性によって表現され、生産性のインプットには工数(時間)が適用されるからです。
そして、作業測定で計測された数値はおもに3つの目的で活用されます。
1)分析の手がかり
2)管理に活用する標準時間
3)見積もりに活用する基礎数値
方法研究で設計された仕組みが効率的なのか、あるいはまだ改善の余地があるのかは、何らかの定量的な指標がないことには判断できません。
それが1)です。
無駄を除去して最終的にこれで良し、となったらこれがその作業の標準時間として管理します。
管理のために数値を活用するのが2)です。
そして、さらなる別のシステムを構築しようとして、そのシステムの工数を見積もる時、類似のシステムの実績を参考にできます。
基礎数値として見積もりに活用するのが3)です。
目的を明確にして数値を扱います。
3.IEのイメージ
カイゼンというと、「悪いところを良くする」という個別の視点に留まるケースが多くないでしょうか?
もう一歩、踏み込んでシステム全体(工場、生産ライン)を対象として考えたいです。
さらに、もう一つ、作業研究に欠かせないのは、現場のモラールです。やる気や士気のことです。
作業研究は、「私、調査する人。あなた、調査される人」という役割分担で取組んでも成果は限定的であると考えています。
調査されるという感覚は、自分の落ち度を暴かれるという感じに陥るからです。
ですから、実のある成果を目指すならば、自ら学んだIEの手法を活用して、自らの現場を調査するのが望ましい姿であり、その結果、自らの工夫がドンドン定着し、現場での成果を実感できるカイゼンが進む。
現場活動をやっていはいるが、形骸化していないだろうか?という懸念も、これで払拭できます。
つまり自職場でカイゼンを展開することがお得だ!という感覚を抱かせる環境づくりも、IEの事前準備として重要なのではないでしょうか。
このあたりは現場リーダーの腕の見せ所です。やる気を引き出したいのです。
ウェスタンエレクトリック社のホーソン工場で1924年〜1932年の長期間をかけて、照明問題を始めいくつかの実験が繰り返しなされ、結果として「モラール(士気、やる気)の存在が科学的に確認されました。
このやる気を大いに取り組みの原動力として活用したいです。
そもそも現場活動は自主活動であることが原則です。
ノルマやヤラサレ感たっぷりでは自主性が発揮されることがなく、創造的なアイデアは生まれにくくなるからです。
下記のようなイメージを描きたいです。
やる気を引き出すようにIEを展開する。
外部から「決められた」のではなく、自分たちで「決めた」。
外部から「やらされた」のではなく、自分たちで「やった」。
こうした姿勢で実施された現場活動であるからこそ納得性も高く、実のある成果が得られます。
カイゼンは技術イノベーションへ至るための現場での重要な取り組みです。
IEの手法をしっかりと身に着けたいです。
科学的な、工学的な思考を訓練する絶好の機会でもあります。
まとめ。
作業研究はシステム全体の設計を目指す方法研究と多様な目的で活用する時間を計測する時間測定で構成される。そして、現場の自主性を持って実施されるのが望ましい。
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