[令和のFA業界を考える]ものづくり・FAの「楽しさ」 若者に伝える努...

[令和のFA業界を考える]ものづくり・FAの「楽しさ」 若者に伝える努力を

IIFES 国際ロボット展
業界に呼び込む工夫随所に

少子化によって労働人口が減り、国内では人材の獲得競争が激しい。学生にとってロボットやIoT、自動化に対して関心度は高いが、職業としての製造業、FA業界は決して人気は高くない。

一方でFAやロボット需要は年々拡大傾向にあり、案件は増えるばかり。需要増と人手不足、この構図は業界を挙げて解消すべき大きな課題だ。

そんななか2019年末に行われた「IIFES」と「国際ロボット展」では、主催者や各社ともに学生を業界に呼び込む工夫に注力し、いたるところで学生の姿が見られた。若者層へのFA業界の認知はもっと進めていく必要がある。

若手人材1
「IIFES」に参加した豊田工業高等専門学校と、元エンジニア漫画家の見ル野 栄司氏

 

学生と企業が協業 取り組みなど展示

IIFESでは例年、学生向け業界セミナー&ツアーを行っており、今回も実施された。前回2017年は1日だけで参加者は10人ほどだったが、今回は2日間それぞれ30人ほどの学生の参加があった。

20分ほどの業界セミナーの後、企画に協賛した企業ブースをガイド付きで見学し、最後は交流会ということでセミナーやツアーを通じて感じたことの意見を出し合った。

学生は理系だけでなく文系学部もいて、理系学生は業界俯瞰ができたこと、文系学生は実際の製品や技術を見て知れたことに満足度が高く、本や就職活動では味わえない体験を通じ、総じて楽しんでもらえたようだった。

 

また出展社でも学生との協業の取り組みを展示していた企業もあった。フエニックス・コンタクトは豊田工業高等専門学校とコラボし、学生が発案して同社の機器PLCnextコントローラを使って構築した制御システムのデモを展示。

センサで作った体重計に乗ると体重がパソコンに表示され、そこから押しボタンスイッチを押すと、そのデータがPLCnextからAWSクラウドにアップされ、さらにチャットツールであるSlackでメッセージが送られる。最近流行のOTとITを融合した制御システムとなっており、2人の学生が分担してシステムを構築し、同社は機器提供と技術サポートで支えた。

学生たちもラダーは少ししか触った経験がなかったり、プログラムのなかで変数が動いたり、インターフェースが違っていたりと普段とは異なる場面が多々あったが、技術サポートに加えて、不明点は同社の技術コミュニティで自ら英語で質問して回答を得たりと様々な経験を積むことができ完成後は自信になった様子。同社、学校、学生にとってもメリットは多く、今回以降も継続して行っていきたいとしている。

 

ロボットアイデア甲子園

国際ロボット展は、関心の高いロボット技術の専門展だけあり、学生や若い人の姿も目立った。そんななか学生向けイベントとしては、ロボットシステムインテグレーターの業界団体であるFA・ロボットシステムインテグレータ協会(SIer協会、久保田和雄会長)主催による「ロボットアイデア甲子園」の決勝大会が行われた。

ロボットアイデア甲子園は、高校や高専、専門学校の学生が参加できる、産業用ロボットを使ったアプリケーションのアイデアを競うコンテスト。全国10カ所で予選大会が行われ、決勝大会は勝ち抜いた11人で行われた。最優秀賞に輝いたのは、6軸の産業用ロボットにさらに6軸のロボットをくっつけるという斬新なアイデアを出した加藤勇典さん(山梨県立甲府工業高等学校)。準優秀賞はロボットの性能を最大限に活かす配置アイデアを出した山根朱由乃さん(熊本県立翔陽高等学校)が選ばれた。

大会は単に思いつきのアイデアではなく、実際に産業用ロボットを見て学んだ後、ビジネス的な観点も入れた発想も評価ポイントになる。決勝大会は会場を巡って多くの製品やアプリケーションを見た後で行われ、学生たちは多くの刺激を受けた様子だ。

ロボットアイデア甲子園集合写真_1200x525-1
若者の斬新なアイデアを披露

 

学生からは「今回の一連の見学では、普段できないような体験ができとても楽しかった」「世界の最先端の技術は、私の想像を絶する物で、感服致しました。次もこのような機会があればぜひ参加したい」「ロボットを動画で見るのと、直で見るのでは迫力が全然違った」「将来、ロボット関係の職業に就きたいと思っている為、とてもよい体験ができました」「自分たちがこうして何もせずに時間を過ごしてる間も、常に技術は発明、試作、改良を通じて進歩し続け、僕達が想像もしない未来を作り出そうとしていると考えるととてもわくわくする」「様々なロボットやそれらの利用方法を見て、改めて自分の知っている世界は狭いのだなと感じると共に、これからの計り知れない可能性の大きさを思わずにはいられなかった」「このロボットアイデア甲子園で見たこと経験したことを進学先でどんどんアウトプットしていき自分の知識とし、技術として得られるようにより一層の努力をしていきたいと思います。そして、将来日本の技術社会に自分も貢献できるようになっていきたい」などのコメントが寄せられた。

 

年間通して、業界挙げて

デジタル技術によって常識や価値観が大きく変わり、その方向性もVUCAと言われるように不確実性で予測困難な時代になるなか、常識と経験の延長線上にとらわれがちな経験者よりも、既成概念にとらわれない若い人材の方が適している場面もある。若い人材はこれからを支える労働力であると同時に、新しいアイデアの源泉となる立派な戦力。新しい時代のものづくりの仕組みを生み出し、競争力を高めるためにも、FA業界を挙げて若い人材の獲得と育成は不可欠だ。

しかしFA業界は、自動車や飲食料品、日用品などの製品をつくるための仕組み・製品を提供する裏方であり、学生生活のなかで触れる機械も少なく、縁遠い存在。待っていても興味は持ってもらえない。就職先の1つとして選択肢に入れてもらうためには、もっと彼らとの距離を縮め、FAに興味を与えるような取り組みを、展示会やイベント時に限らず、年間を通じて業界を挙げて行うことが重要だ。


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。趣味は釣りとダーツ。