人と機械の能力を引き出す理想の工場

人と機械の能力を引き出す理想の工場

電気自動車の市場を切り拓く尖兵となり、今も市場をリードするテスラモータース。パナソニックと二次電池で協業するなど日本企業とも関係が深いが、ここ最近は株価も下落し、風向きが怪しくなっている。特に量産型セダンモデル3の製造遅れが深刻化し、2017年末に週5000台の生産としていた予定が、18年3月の段階で半分の2500台に止まっている。会長兼CEOのイーロン・マスク氏が工場に泊まり込んで対応するなど、かなり苦労しているようだ。

▼モデル3の工場は、ロボットをはじめとする自動化装置をふんだんに使った最新の自動化工場としてスタートした。溶接や塗装だけでなく、最終組み立て工程もロボットで自動化したと言われている。マスク氏は、発表当初は強気でイケイケだったが、最近はテレビのインタビューで製造の遅れを認め、「私のミスだ。人間の能力を過小評価していた」と反省の弁を口にしている。複雑なコンベアネットワークがうまく機能せず、皮肉にもオートメーション技術の使いすぎが生産遅れの原因となってしまったという。2月末には1週間ラインを止めて対策にあたり、6月末までに週産5000台を目指すと計画を修正している。

▼機械やロボットは、同じ動きを繰り返し、設定通りに動いてムラがない。裏を返せば、融通がきかず、変化に弱い。一方で人間は、再現性は弱く、ミスもする。体力的な問題から稼働時間も限られる。生産に携わるものとしては不十分に見えるが、柔軟性に優れ、変化に対応し、修正する能力は高いというメリットがある。工場や生産ラインは生き物であり、改善を通じて変化を繰り返して成長していくものだ。シミュレーション等で精度の高い事前検証はできても、そこはあくまでバーチャルな世界。リアルは何が起こるか分からない。イーロン・マスク氏はそこを少し見誤ってしまったようだ。人の作業を機械が代替するのが自動化工場ではない。人と機械の両方の能力を引き出し、協調して最大の生産性を実現する。さらにリアルで発生した問題を解決しながら成長していく。それが理想の工場の形なのだろう。


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。趣味は釣りとダーツ。