中小企業の知的財産はどこに

中小企業の知的財産はどこに

「大」から「小」の時代へ

時代は大量生産大量消費の時代から少量生産少量消費の時代に移っており、製造業では少量生産への対応を迫られています。
例えば自動車業界では、画一的なモデルばかりではなく、特別仕様車をラインナップして内装などに手を加えた一味違う製品を展開しています。自動車業界といえば多くの下請け製造企業に支えられている業界ですが、この特別仕様車も例外なく下請け業者が部品を作るわけです。これまでの下請け業者は大量の同一仕様品を納入すれば済んでいたのですが、高付加価値の特別仕様車が増えれば、部品の種類を増やしてそれぞれを少量でということになってきます。従来の製造方法からすれば手間のかかることですが、この少量生産の仕事が多くなってきていると実際には聞きます。

こうして書くと悪いことのようにも思えますが、一方で、少量生産少量消費というのは、フットワークの軽い中小企業にとって勝負しやすい環境であるともいえます。大企業ではやり方や作るものを変えようとすると影響が大きくフットワークが鈍くなりがちです。それに対して中小企業では規模が小さい分、新しいことへのチャレンジに舵を切りやすいのです。

必ずある知的財産

少量生産の中で利益を上げるためには価格の維持が重要です。そして価格の維持のためには他社による類似品を防がなくてはなりません。そこで活躍するのが知的財産です。

中小企業の経営者と話していると「(自社に)知的財産なんてないよ」と言われる方がいます。そんなことはありません。知的財産は目に見えないので気づきにくいのですが、少なくとも物を作るような会社にはたいていあります。知的財産とは「アイデア」です。企業活動の中でいろいろと思索し、工夫し、実行しているのであれば、何かしらのアイデアは生まれているのではないでしょうか。

中小企業の知的財産はどこに

「信用」を守る商標権

知的財産にもいろいろあるのですが、今日は「商標」を紹介します。商標は商品やサービスに付ける名前やマークです。販売主のロゴマークであったり、商品自体の名前であったりします。商標登録という手続をすることで、その商標には知的財産としての権利「商標権」が発生します。

さて、この商標権が守っているもの、それは形式上は商品やサービスの名前やマーク(商標)なのですが、本質的にはその商標が持っている信用が守られているのです。いい商品やサービスを長年にわたって提供しつづけることで、その商品やサービスに付けられた商標には信用が蓄積されます。リピーターの獲得や、評判の向上などにその信用が働きます。

ブランドと呼ばれる企業では、商標権を上手くつかってその名の信用を確固たるものにしています。中小企業では、商品名などは権利を取るようなものではないと思われるかもしれませんが、何らかの商品やサービスを継続して展開していこうと考えているのであれば、その信用を守るためにも商標権を取得した方がよいでしょう。どれだけ良いものを作っても、名前の信用が失われれば、利益の確保は難しくなります。

商標のほか、発明(特許)・考案・意匠など、知的財産は目です見えない財産です。気づきにくい物ですが、探せばたいていは存在します。これからの少量生産・少量消費の時代に、知的財産を上手く権利化して事業の足元を固めてはいかがでしょうか。

出典:『中小企業の知的財産はどこに』(発明plus〔旧:開発NEXT〕)


弁理士。コスモス国際特許商標事務所パートナー。名古屋工業大学非常勤講師。1980年愛知県生まれ。名古屋工業大学大学院修了。知的財産権の取得業務だけでなく知的財産権を活用した製品作りの商品開発コンサルタントを行う。知財マッチングを展開し、ものづくり企業の地方創世の救世主として活躍している。著書に『社長、その商品名、危なすぎます!』(日本経済新聞出版社)、『理系のための特許法』(中央経済社)等がある。 特許・商標の活用を応援するWEBマガジン「発明plus Web」( https://hatsumei-plus.jp/ )を運営している。