【失敗しない!中国ものづくり|第2回】中国人の「問題ない」に潜む3つの意味
第1回:『中国での不良品やトラブルの原因は60%日本人にあり』
中国人と会話をしていると、「没問題(メイ ウェン ティー)」という言葉によく出会います。「没」の意味は「ない」です。つまり「問題ない」という意味になります。
私は製造現場で作業方法や設備の確認をするときや、部品の日程作成やその段取りの調整をするときに、中国人とよく会話をします。これらの会話の中で、私がちょっとした懸念を抱きそれを指摘すると、たいていの返事は「没問題」つまり「問題ない」です。そしてそれを鵜呑みにしてしまうと、それが後々問題点として発展していく場合が非常に多くあるのです。
私は4年半の中国駐在中に、多くの中国人と様々の場面で会話をしてきました。これらの経験から、この「没問題」の本当の意味は次のようになることが分かりました。
「ちょっと問題ありだけど(今は)気にするほど大きな問題ではない(と私は思う)。」
日本でも「問題ない」と言う場合に、発言者の意図は「かまわない」や「気にしない」という「問題ではあるが、大きな問題ではない」の意味も含みます。しかし、中国人との会話で使われる「没問題」の場合は、この意味合いがより強いことが多いのです。さらに上の文章の括弧で示した「今は」と「と私は思う」の意味合いが含まれていることにも注意が必要なのです。
あのときは「没問題」だったけど、今は問題あり
私がダイキャスト部品を扱うメーカーを訪問し、技術リーダーと打ち合わせをしていたときのことです。私はこのメーカーにプロジェクターの鏡筒の製造を依頼していました。この部品は「鋳造→切削加工→表面処理(アルマイト)」の3つの工程を経て作製されます。量産開始が近くなってきたころ、設計的な変更が原因となり、この部品の量産導入が3日間遅れる事態が発生してしまいました。
私はこの部品の技術リーダーに3日間の日程を縮める交渉をしました。なかなかできるとは言ってくれません。鋳造と切削加工、表面処理の担当も交えて打ち合わせを行ったのですが、やはりちょっと無理があったせいか日程の短縮はできないということとなりました。
技術リーダーは帰宅し、私は一つの会議室でどうしたものかと同僚と2人で思案に暮れていました。そのとき突然、この部品メーカーの社長が現れたのでした。私は事情を説明しました。この社長は任せてと言わんばかりに携帯電話を取り出し電話をかけ始めました。帰宅してしまった技術リーダーに電話をしたのでした。
技術リーダーとの10分ほどの電話を終えた社長は、私に向かって「没問題!」と言いました。技術リーダーとの話し合いで、段取りなどを変更することによって日程短縮ができたとのことだったのです。私たちはこれで安心し、その社長は、「私に任せてくださいよ!」と言わんばかりに、私たちと握手をしてその会議室をさっそうと出て行きました。
それから数日後、この部品メーカーを再び訪問しました。もちろん私は日程が短縮されていることを前提に訪問したのでした。私は技術リーダーに会い、はじめに日程の話をしたところ、「日程短縮はできません」と言ってきたのでした。私は社長と技術リーダーとの電話の話を持ち出し、「社長と電話をして、日程短縮はできたのですよね?」と確認をしたところ、次のような返事でした。
「あのときは、できると判断したので『できる』と言いましたが、今はできません。」
社長を通して日程短縮を依頼したことに多少の強引さがあったかもしれませんが、技術リーダーは悪びれもせず、ごく当たり前のように言ったのでした。
他の場面でもこのような回答をもらうことは非常に多くあります。つまり、「以前は問題ないと言いませんでしたか?」と言う私たちの問い掛けに対して、「あのときは『没問題』でしたが、今は問題ありです。」となる場合が非常によくあるのです。
このように中国人がよく会話で使う「没問題」に、私たちはどのように対応すれば良いのでしょうか。中国では「今」を重要視する国民性があります。今回の事例での私の反省点は、社長もしくは技術リーダーに、「何の段取りをどのように変更して日程短縮をするのか」を確認していなかったことでした。なぜ、「問題ない」、「できる」と判断したのかを確認せず、ただ「没問題」を鵜呑みにしていたのでした。
私は「没問題」と思った
新しい板金メーカーで部品を作製してもらうことになり、設備の確認のためその工場を訪問することになりました。そのメーカーは昆山(こんざん)にあり、上海の私の職場から車で1時間半のところにありました。工場の正門で待ち合わせをし、私が到着したときには私がコンタクトをとった通訳兼営業の方は既に到着していました。
車を降り挨拶をしたところ、その営業の方は心なしか申し訳なさそうな顔をしていたのでした。彼は、「今は工場が引越し中なのです。」と言い始めました。全ての設備は見られないということなので、「まあ、とりあえず見られるものだけ見せてください。」と工場に入りました。そうすると、なんと設備が50台以上はあるはずの広さの工場の中に、まさに今搬出しようとしている設備がたった1台あるだけでした。
この営業の方は、「引越しするとは聞いていましたが、今日の見学には『没問題』と私は思いました。」と私に言ったのでした。
この「私は『没問題』と思いました。」のように、その瞬間の自分の判断で「没問題」と発言するケースが非常に多いのです。先の事例のように「今(の状況)」を重要視することに加えて、「私(の判断)」を重要視する、自己主張の国民性があるからです。
この事例での私の反省点はとても難しいですが、あえて挙げるとすれば、訪問の前日などに、当時から状況が変わっていないかを確認することに加え、事前に設備一覧表を送ってもらうとか、工場内部の写真を送ってもらうなどの対応方法があったかもしれません。
「没問題」への対応方法
今回の2つの事例でお伝えしたとおり、「没問題」と言われて、後から問題が発生する場合は非常に多くあります。冒頭で紹介した通り、あくまでそこには「(今は)」、「(と私は思う)」のニュアンスが含まれているのです。大切なことは、自分でも「ちょっと問題あるかも」と懸念を抱いた内容に関しては、「没問題」の言葉を鵜呑みにしないことです。そして自分が納得するまで妥協せず質問したり、自分で調べたりすることです。「没問題」をそのまま鵜呑みにしていたら、自分も同じく楽観的であるということになってしまうのです。
次回も、実際に起こったトラブルをお伝えしながら、問題点の原因とその対策をお伝えしていきます。
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