三菱電機 半導体・デバイス第一事業部長 山崎氏に聞く、急伸するパワー半...

三菱電機 半導体・デバイス第一事業部長 山崎氏に聞く、急伸するパワー半導体

三菱電機 半導体・デバイス事業本部 執行役員
半導体・デバイス第一事業部長
山崎大樹氏に聞く

IGBT、IPMで世界を牽引

世界的にCO2削減や省エネに向けた制御の高度化が強く叫ばれるなか、そのキーデバイスとなるパワー半導体が活況だ。エネルギーを効率よく使うための電源制御に特化し、産業機器や家電、車載などで需要が急拡大している。

三菱電機はパワー半導体のトップメーカーのひとつで、特にIGBTに強みを持つ。三菱電機 半導体・デバイス事業本部 山崎大樹執行役員 半導体・デバイス第一事業部長に話を聞いた。

SONY DSC
三菱電機 半導体・デバイス事業本部 山崎大樹 執行役員 半導体・デバイス第一事業部長

 

世界的に強い追い風に乗る

–パワー半導体市場の市況について

半導体の最新市況について、WSTS(世界半導体市場統計)の調査では昨年は良かったが、今年はスローダウンすると予測している。しかしパワー半導体は強い需要が続いており、2022年までに年間平均成長率8%での成長が期待できるとしている。

自動車の電動化、電気自動車が本格的な普及期に入り、家電も省エネ規制が厳しくなって世界的にインバータ化の流れが強まっている。産業機器の高度化、発電や送電など電力インフラ系、途上国の交通インフラ整備なども中期的に見ても好材料だ。

足元の市況では、半導体の設備投資の一服感、スマートフォンの新機種の投入、データセンター建設等が一時期に比べてスローダウンしている。サーボアンプやサーボモータ、汎用インバータ向けといったモーションコントロール用途では需要の復活を待っている状況だ。

 

産業向けと家電に強み

–御社のパワー半導体事業について

当社はパワー半導体のなかでもIGBTモジュールに力を入れており、世界シェアでトップクラスの位置にある。市場は約半分が産業用途で、そのうちの7~8割がサーボモータ、サーボアンプ向け。残り半分が民生用途の家電製品、エアコンや白物家電、ビルのファシリティで占めている。さらに今は自動車が伸びてきている。

特に目立つ分野としては、再生可能エネルギー向けが活況だ。世界的に太陽光発電、風力発電のマーケットが拡大し、それにともなう送電システムのプロジェクトが動いている。再生可能エネルギーは不安定な電源なので送電と配電の安定性が強く求められ、そのためのパワーコンディショナーや蓄電池向けが好調だ。

また世界的に自動化への関心が高い。オートメーションの高度化にはサーボ化やインバータが不可欠であり、設備投資が戻ればこの需要にも期待できるだろう。中国の自動化市場はハイエンドとローエンドにトレンドが分かれ、特に低価格な汎用インバータの需要が活況でコスト競争が激しくなっている。当社はハイエンドを得意としているが、ローエンド市場向けにはモジュール化したDIPIPMの提案に力を入れている。DIPIPMは制御に必要な機能を1チップに収めたモジュールで、ユーザーは開発工数と部品点数の削減、サプライチェーン管理の効率化などいくつものメリットを享受できる。トータルでのコストダウンを切り口として拡大している。

 

–その他の分野では?

民生市場として家電向けも好調だ。エアコンや冷蔵庫、洗濯機など家電製品について、日本ではインバータ化率がほぼ100%だが、中国ではまだ60%程度。ここ数年でインバータ化率が上がると見られており、ASEANなどアジア諸国も同様の動きがある。ヨーロッパでも猛暑の影響でエアコンが好調で、世界的に省エネ強化のトレンドが進んでいる。IGBTの需要が期待できる。またインバータ化が進むと、同時にファンモータの制御も必要となり、パワー半導体がより使われるようになるだろう。

パワー半導体は全体的に追い風が吹いているが、一方で内部では競争がとても激しい。引き続き、エッジの効いた製品開発と、需要に応じたタイムリーな供給能力を提供していく。

 

社内の他部門と連携し製品開発

–三菱電機のパワー半導体の強みとは?

当社は半導体専業メーカーと異なり、産業メカトロニクス、重電システム、家庭電器という、実際にパワー半導体を製品に組み込んで使う事業部門が社内にある。彼らと連携して情報を得て、それを製品開発にフィードバックすることができる。一方で、社外との取り引きが売上の8割を占め、社内外のユーザーとも一緒に技術を磨いている。社内外で良いサイクルを構築しているのが強みだ。先端研究所もあり、先行的に製品開発を行うことができる。

当社はIPMで世界一、産業IGBTでも確固たる顧客基盤があり、車載向けデバイスも昔から自動車メーカーと取り組んできた経験値がある。これらの実績が次の製品開発につなげられている。

例えばSiCはディスクリート電源で普及しているが、モジュールは25年以降に本格化すると見ている。大容量では当社が一歩抜きん出ており、自動車でSiCモジュールが採用されれば量産効果でコストも下がる。そうなると車載から産業機器、インフラ向けへと大きく跳ねるだろう。

パワー半導体の需要は今後も拡大していく。今後も日本メーカーとして、日本のお客様の省エネや最適な制御をサポートしていく。


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。趣味は釣りとダーツ。