ワコーテック岡田和廣社長が語る、「力覚センサ」新市場の創出

ワコーテック岡田和廣社長が語る、「力覚センサ」新市場の創出

人手不足・自動化で追い風
開発から12年製品と技術が浸透

力覚センサはフォース・トルクセンサとも言われ、協働ロボットの安全制御や産業用ロボットの微妙な力加減のコントロールに欠かせないセンサとして採用が進んでいる。力覚センサはいまロボット業界ではビジョンと並んで大注目のセンサだ。国内90%と圧倒的なシェアを持つワコーテック(富山県高岡市)の岡田和廣社長に聞いた。

ワコーテック岡田和廣社長

ワコーテック岡田和廣社長

 

ロボット高度化 欠かせない製品

産業用ロボットは、原則としてプログラムされた座標通りに動くが、センサで外部の情報を付加し、コントローラで処理をかけることによって動きに幅を持たせることができ、さまざまな作業に柔軟に対応できるようになる。ロボットの高度化にはセンサ技術が欠かせない。

岡田社長によると、センサには化学量センサと物理量センサの2種類があり、FAやロボットで使われるのは光や温度、圧力、加速度などの物理量センサが主だという。一番市場規模が大きいのが2兆円と言われる光センサで、新しくニッチな技術の力覚センサの市場はこれから。しかし近年、製造業における人手不足と技術継承が深刻化し、産業用ロボットの技術進化と市場の盛り上がりによって力覚センサに大きな関心が寄せられるようになっている。

 

「6軸加速度」を業界で初の開発

力覚センサとは、その名の通り力の量を検知するセンサで、フォース・トルクセンサとも言われる。同社が開発したのは6軸力覚センサで6方向の力成分(Fx、Fy、Fz、Mx、My、Mz)を同時に検出することができる。

ロボットの軸や手首に搭載し、接触した(している)時の力の量をフィードバックし、人間の手のような微妙な力加減を可能にする。安全制御のほか、嵌合や組立、押し当てなどの用途で使われている。

岡田社長が初めて力覚センサの開発に着手したのは1988年で、サンプルを作り市場調査を行ったが、全く反応はなかった。開発の軸足を、MEMS技術を利用した加速度センサに移し、力覚センサの開発を再開したのは2007年。当時、ひずみゲージや光センサを使った力覚センサは存在したが、価格が高い上に、使うのが難しく、耐久性も低い。生産ラインに使える産業用スペックには程遠く、大学等の研究開発用でしかなかった。それに対し同社は、産業用に使える耐久性を持ち、価格も抑えた6軸加速度センサを業界で初めて開発した。

「力は物理学の教科書の第1章に出てくる基本中の基本なのに、それを正確に測れるセンサがなかった。ひずみゲージの力覚センサは、正確に測るためには何枚ものひずみゲージ(24枚~48枚)を正確に貼り付けなければならない上、過負荷が力覚センサに作用するとひずみゲージが剥がれてきてしまう。産業用に使えるものとして、静電容量型の6軸力覚センサを開発した。現在、スマートフォン、自動車、ゲーム等に使われている加速度センサは全て静電容量型である」

 

産業用スペック満たした信頼性

同社の6軸力覚センサ「Dyn Pick」は、2の電極基板を平行に重ねるだけで、力の方向と大きさを静電容量の変化で検知するもの。構造がシンプルなので安価に作れ、耐久性にも優れている。IP65の防水防塵性も備えた産業用だ。

「当社の力覚センサは産業用で使うことを想定して設計し、2000万回の繰り返し耐久テストをクリアしている。構造が単純で壊れにくく、価格も抑えて購入しやすい」という。サンプル価格は~20万円(200N品)、無償貸出も行っている。

国内外の主要ロボットメーカーにはすでに採用され、ロボットアプリケーションの開発や検証等に使われている。まだ市場ができあがっていないとは言え、力覚センサの国内シェアの90%を同社が握っている。

6軸力覚センサ「Dyn Pick」

6軸力覚センサ「Dyn Pick」

 

あと3年以内に全世界へ普及を

岡田社長は力覚センサの第一人者だが、それだけではない。3軸加速度センサを世界で初めて開発し、5000億円の市場が生まれる基礎を作ったのが岡田社長その人だ。加速度センサと力センサ関連で350件もの特許(日、米、欧、中)を持っており、加速度センサとジャイロセンサは全世界で12社にライセンスを提供している。唯一、ライセンスを許諾しなかったのが、今取り組んでいる力覚センサだ。

「力は物理量の基本であるのに、それを測定できるセンサがこれまでなかった。力覚センサだけは自分で事業化したいと思ってライセンス許諾をしなかった。力覚センサの本格的な開発から12年が経ち、ようやく製品と技術が認知されてきた。ロボットユーザーやシステムインテグレータ等からの問い合わせも増えてきており、今後も啓蒙活動を続けていく」としている。

とは言え、協働ロボットの進化や産業用ロボットの普及によって強い追い風が吹いており、岡田社長は「あと3年以内に全世界に普及させたい。そのためにも低価格で高性能な力覚センサの開発を進めていく」と話している。

参考:ワコーテック


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。趣味は釣りとダーツ。