ロックウェル、コネクテッドエンタープライズと日本市場戦略

ロックウェル、コネクテッドエンタープライズと日本市場戦略

情報可視化しデジタル化支援
変化に対する即応力を提案

世界の制御機器大手のロックウェルオートメーション。このほど日本法人の新たな代表取締役社長に矢田智巳氏が就任し、日本市場における戦略を発表した。

これまで現場の勘・コツ・度胸に頼って局所最適になっていた日本の製造業企業に対し、情報の断絶を解消し、全体可視化によって変化に即応するダイナミックケーパビリティを実現する「コネクテッドエンタープライズ」を提案・推進していくとした。

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矢田智巳代表取締役社長

 

20年は日本市場へのビジネスを強化

同社は売上高67億ドル(約7400億円)、従業員数2万3000人、100カ国で事業を展開する世界トップの産業オートメーション企業。ハードウエアのFA制御機器に加え、デジタルエンジニアリングソフトの拡充や、CAD、PLMなど産業ソフトウエア大手のPTCに出資するなど、デジタル領域にも事業を拡大している。

日本法人は1981年にアレン・ブラドリージャパンとして発足し、デンソーとの合弁と解消を経て現在のロックウェルオートメーションジャパンに至る。日本でのビジネスは40年以上になり、これまでは日本に進出している外資系企業の日本法人が主な顧客だったが、近年は日本の製造業企業に対するビジネスを強化している。

 

日本市場で狙う業界について矢田社長は「自動車とタイヤ、ライフサイエンス、半導体製造装置を考えている。加えて食品や日用品の製造装置を手掛けている中小メーカーなども視野に入れている」としている。

すでに多くの実績があり、例えば平田機工の電気自動車用バッテリ量産ラインの装置納入では、シームレスなデータ接続をシステムに組み込んで、リモートメンテナンスやリアルタイムメンテナンスを実現。

トヨタ北米のアメリカ工場では空気圧縮システムの更新を手掛け、機器とプログラムを同社が提供し、工場の5台の大型遠心式エアコンプレッサの効率を向上。またプラント作業員と遠隔地にいるパートナー企業にリアルタイムでシステム情報にアクセスできるリモートアクセスを提供し、メンテナンス性を改善。年間100万キロワット、6万8000ドル分のエネルギー使用を削減するなど効果を上げている。

 

企業のダイナミックケーパビリティ実現を支援

同社のビジネス戦略のキーワードが「コネクテッドエンタープライズ」。激動の時代、何か変化があればそれに即応していく変革力のダイナミックケーパビリティが重要とされ、データ収集と活用、変種変量生産、マスカスタマイズ、デジタルトランスフォーメーションが必要となる。

しかし現状の製造業企業はERP、MES、PLMなどいろいろなシステムがあり、データもばらばらで情報が断絶しているのが実態だ。

それに対し同社は、従来のFA制御機器、設備、ネットワーク、セキュリティに加え、ソフトウエアを進めていくことで情報の断絶への対応を強化。ハード、ソフト、サービスを統合して変化に強くすることを推進している。

 

具体例ではMESの活用。作業の着工・完了管理に加え、プロセスのより具体的な情報、機械や作業内容、データ保存方法などを規定してライブラリ化しておくことで、組み合わせれば工程が迅速かつ簡単に構築可能になる。さらに全世界どこでも適用でき、矢田社長は「いわゆるマザー工場のデジタル化ができれば素早く工程のチェンジができるようになる」としている。

情報統合プラットフォームでも、製品番号やユニット単位の管理よりもさらに細かなシリアル番号をつけてERPやPLMなど全部のシステムと紐付けることで、どこからでも情報を取得して活用できるようになるという。

特にグローバル対応が進む製薬業界ではトレーサビリティの強化が不可欠になっており、シリアル番号で管理するシリアライゼーションや、包装や梱包、外注先の管理などサプライチェーン全体での対応が求められるようになっている。

 

矢田社長はコネクテッドエンタープライズでダイナミックケーパビリティを実現した事例として、新型コロナウイルスの発生と感染拡大を受けて製薬・医療機器メーカーが新製品立ち上げで緊急対応した事例を紹介。
 
世界的な製薬会社ロシュでは新型コロナウイルスが発生してすぐに新規でコロナ検査キットの生産立ち上げを行った。その時はMESでデジタルツインを作り、数週間で検査キットを市場に出すことができたという。

また元GEヘルスケアのcytivaは人工呼吸器の生産立ち上げに対し、移動制限がかかっていたことから専門家が立ち会えない状況だったが、情報統合プラットフォームとARを活用して工場外の専門家が現場に対して指示を行うことで素早い立ち上げができたという。

 

変化激しい時代の対応力向上を支援

今後に向けて矢田社長は「コネクテッドエンタープライズと、制御、ネットワーク、セキュリティの知見、さらにソフトウエア能力を加えた総合力を提供していく。日本の製造業に対してダイナミックケーパビリティの獲得を支援し、環境の激しい変化への対応力向上を提案したい」とした。

また同社は現在オンラインでバーチャルイベント「ROKLive Japan2020」を開催中(9月30日まで)。バーチャル空間でコネクテッドエンタープライズを体験でき、参加無料となっている。
https://www.ra-roklive-japan.com/index


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。趣味は釣りとダーツ。