ホンダから学ぶ温故知新の技術イノベーション
温故知新という言葉は、技術イノベーションにも当てはまるという話です。
1.ホンダが開発した世界最軽量AL製サブフレーム
「人とくるまのテクノロジー展」という展示会が、毎年、初夏の横浜で開催されています。
自動車部品の最新技術が紹介される展示会で、私もかって、自社製品を展示するため何度かプレゼンターで参加したりもしました。
自動車部品の最新情報に触れるにはとても有益な展示会のひとつです。
その展示会の報告が日経モノづくり2016年7月号に掲載されていました。
今、自動車業界で多くの企業が開発に力を入れているのは、「運転支援技術」と「軽量化技術」であると説明されています。
出典事例のひとつとして、ホンダが開発した世界で最も軽いアルミ製サブフレームが取り上げられていました。
低燃費のための永遠の技術課題となる軽量化技術としてです。
加工方法は、アルミダイカスト。
ポイントは、中空断面を得るために使う中子にある。
サブフレームは大型部品のため、アルミ合金の溶湯を金型に流し込む際の圧力が高い。
この高圧に耐え、かつアルミダイカスト品を成型した後に(この中子を)排出しやすくするために、中子の表面にコーティングを施した。
すなわち、圧縮荷重に強いが、もろい中子にするコーティング材だという。
ただし材料名は明かさない。
これに対し、従来のアルミ合金製のサブフレームは、中子を作ることが難しいため、中空ではなく中実工場のアルミダイカストした造れなかった。
新しいアルミ合金製サブフレームは従来よりも質量が20%軽い。
平均の肉厚は3mm程度である。
(出典:日経モノづくり2016年7月号)
部品の軽量化手法の一つに「中空構造」化があります。
従来の中実構造(あんこがびっしりつまったたい焼き)
↓
中空構造(あんのみが抜けた皮だけのたい焼き)
部品に求められる強度は「枠」構造体のような中空構造でも十分に満たす場合があります。
ただし、製造技術や製造コスト上の制約条件のため、あえて実の詰まった構造に甘んじているケースはかなり多いです。
ホンダはダイカストという製法において、その点に挑戦しました。
中子という部材を活用して鋳造加工で中空構造の製品を成形すること自体は、珍しい手法ではありません。
ただし、この中子を使うための前提条件があります。
中子は砂を粘結剤で硬化させて事前に作っておく部品です。
これを鋳造用金型にセットして中子をくるんだ(鋳ぐるんだ)状態の成形品を造り、その後、中子を崩します。
ですから、アルミ合金の溶湯を金型に流し込む際に中子が壊れてしまっては正常品が造れません。
したがって、製造中に高圧がかかるアルミダイカストで中子を使用することは、難しいとされていました。
なにせ中子は「砂」で造られているわけですから。
- アルミ合金の溶湯を金型に流し込む際に中子が壊れないこと。
- 成形後、中子を崩す際に鋳ぐるまれた中子が壊れやすいこと。
アルミ合金の溶湯を金型に流し込む時に「高圧」がかかる環境で、上記2つを両立させることが技術課題です。
ホンダはこれを中子の表面に塗布する新たなコーティング材(粘結剤?)開発で達成しました。
鋳造加工は「歴史」のある加工技術です。
鋳物の歴史は古く、紀元前4,000年ごろ、メソポタミアで始まったといわれています。
加工法の基礎となる「凝固現象」はかなり昔から研究されてきたテーマです。
そのような事情もあり、コアとなる技術やその周辺技術では研究開発はやりつくされ、技術イノベーションや開発の余地は少ないのでは?と考えられる傾向にあると感じます。
同じ技術分野でもITやバイオ等の分野が一見華々しく、大学でもこうした分野に学生の人気が集まっているようです。
技術の世界では最先端分野もあれば、こうした成熟分野もあります。
成熟分野の技術開発では未知の開拓領域は確かに狭いかもしれません。
しかし、技術が成熟分野であることと、産業へ果たす貢献度の大小は無関係です。
なければならない要素技術であるならば、裾野を広げて適用分野を広げるとか、安定した生産を実現するとか、技術の完成度を高めて儲かる技術に仕上げていく余地はまだまだあるはずです。
ホンダは中子の表面に塗布するコーティング材(粘結剤?)に注目しました。
中子の粘結剤などは必要な機能およびそれを実現させる仕様はある程度の「定番」があります。
一般的な解説書にも説明されているとおりであり、成熟した、開発の余地がなかろうと思われる分野です。
しかし、そのような分野でも、飛び抜けた目標を掲げることでブレークスルーを実現させました。
……「高圧」の環境下で加工するダイカストで適用する中子。
粘結剤メーカーと共同で中子の基本に戻り、研究開発を重ねた結果の成果であると推測します。
その分野に関連した業者、メーカーと意見交換することが、新たな気付きのきっかけにもなり、成熟した技術分野と考えられていても、基本を見直した研究開発を進めることで新たな発明も可能であるということです。
自動車部品工場の現場で製造技術を担当していた時、金型摩耗防止のため、金型の表面に塗布するセラミック粉末(塗型)を見直し、新たなセラミックコーティング方法を考えたことがあります。
ホンダの中子コーティング材開発と状況が類似していると感じました。
付加価値を高める余地が見つかったら、成熟分野を対象にした技術開発であっても開発の余地は見つかるものだと考えます。
2.古きを温め新しきを知る
モノづくり現場には必ず強みとなっている要素技術があります。
長い時間をかけて経験や実績を積み上げて築き上げた技術であるだけに、今さら開発の余地など残っていないと考えるケースがあるかもしれません。
しかし、そうした分野でもまだまだブレークスルーの余地がある。
ホンダの中子コーティング材開発の話は、成熟分野と考えられる技術領域での、新たな発明の可能性を教えてくれます。
定番技術で成熟分野と考えられる技術領域を対象にして、高付加価値化の可能性を探ります。
古きを温め、新しきを知ります。
現場で常識とされる技術を体系的に理解し整理する絶好の機会にもなります。
まとめ。
温故知新という言葉は、技術イノベーションにも当てはまる。
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