カイゼンは「なくせないか」と考える
改善活動の着眼点を持っていますか?
1.金型を使用する時の留意点
モノづくりの醍醐味は顧客へ届けたいメッセージを製品で表現できることです。
目で見えるモノで表現できるので、達成感を感じやすいのではないでしょうか?
製造業では、生産工程を通じて顧客へ届けたい情報をメディア(媒体)へ転写します。
転写の手段のひとつが金型です。
プレス加工、鋳造、鍛造、射出成形等、様々な加工方法で用いられています。
3Dプリンティング技術が台頭してきた昨今ですが、生産技術の柱のひとつであり続けると予想されます。
金型を用いれば、3次元複雑形状の大量、安価な製造が可能です。
金型を用いた各種加工方法は、今後も技術の高度化が図られることでしょう。
3Dプリンティングと住み分けが進むのではないでしょうか。
繰り返し加工で使用される金型には、焼き入れ硬さや耐摩耗性、靭性を高めた合金工具鋼が使用されます。
(一般の炭素鋼へCr、W、Mn、Mo、V等の元素を添加した特殊鋼)
金型は転写機能を維持しなければなりません。
時々刻々と転写機能が劣化するようでは、1個目と1,000個目の製品は違ったものになるのです。
例えば、鋳造や鍛造の加工では高温域での機械的性質が求められます。
そこで、選択されるのが、高温での機械的性質に有利な熱間金型用鋼です。
このように材質の適切な選択によって転写の品質維持を図ります。
ただし、「繰り返し」という過酷な使用環境です。
ワレによる亀裂や摩耗による形状変化を完全には避けられません。
ワレによる「亀裂」が発生すると、亀裂という余分な情報が製品に転写されます。
知らずに製造を続けていると不良品の大量生産という状況になるのです。
また、摩耗のため、徐々に形状が変化すると、それに伴い製品寸法も変化します。
変化した製品寸法が公差内であるなら問題はないですが。
公差を外れた寸法の水準にまで金型が摩耗すると、それ以降に生産された製品は規格外となります。
この場合も、知らずに製造を続けていると不良品の大量生産という状況になるのです。
したがって金型の摩耗に起因した製品寸法変化の品質管理にはかなり気をつかいます。
一方で、摩耗度合いは目視で正常、異常を判定するのは困難です。
金型のコンディションを公差内で維持する工夫が必要となります。
- 金型の摩耗度合いを測る製品側や金型側チェック
- 摩耗分を修正する金型補修
- 補修後の金型が公差内にあるか否かのチェック
これらは現場のノウハウです。
2.カイゼンの方針「なくせないか」
製品の種類が増えると、当然、金型の種類が増えます。
仮に現場が保有する金型数が10セットあるとします。
従来に比べて製品の種類が増えると、具体的には下記のように構成が変化します。
従来:製品Aと製品Bが5セットづつ。
今後:製品Aと製品B、製品C、製品D、製品Eが2セットづつ。
金型で多品種少量へ対応すると金型管理が煩雑になるのです。
その結果、金型の摩耗に都度対応していてはいくら工数があっても足りない……。
金型を活用する現場にとって多品種化は少々辛いです。
さて、自動車部品工場の現場で製造技術を担当していた時の話です。
同様な事態に直面したことがあります。
アルミ合金鋳造用金型の凸部の焼き付き、摩耗による金型寸法変化への対応策が求められました。
この場合、課題は下記です。
- 金型の寸法変化をなくせないか
です。
技術課題は、
- 金型の該当部分での焼き付き、金型摩耗の現象を防止できないか
です。
ロスにつながる現場作業をなくすることが狙いでした。
従来から、あって当たり前と考えられていた現場作業をなくせないかと考えたわけです。
技術的には、金型表面へ施すセラミック粉末のコーティングに焦点を当てました。
通常、生産の都度、金型の表面へセラミック粉末をコーティングしています。
金型の保護、安定量産が目的です。
そこで使用されるセラミック粉末(塗型)を見直しました。
- 新たな成分の調合
- コーティング条件の新たな設定
この2点に着目し、新たなセラミックコーティング方法に知恵を絞ったことを覚えています。
100点満点の結果にはなりませんでしたが、幸いにも、成果を実感できる水準に到達できました。
3.現場の声を工学的、科学的に翻訳する
現場で発生している問題を解決するために必要なことがあります。
現場の声を工学的、科学的な表現に翻訳することです。
例えば、具体的には……。
現場は、金型の表面にセラミックコーティングが「のりにくい」と度々表現します。
- 金型表面の仕上がりが細かすぎる(硬度が高すぎる)
- セラミックコーティング材の希釈率が高すぎる
- 金型表面の油分除去が不完全である
など、こうした表現へ翻訳してから、具体的な対応策を考えるということです。
現場は毎日現物を見ています
したがって、変化に敏感です。
感覚的なこうした表現は意外と的確に現象をとらえています。
こうした情報を生かすも、殺すものエンジニアの腕次第ということです。
現場のエンジニアに求められるのは
- 現場で起きている現象に関する「声」を引き出すこと。
- 「声」にされた表現を工学的、科学的に翻訳すること。
帰納的な思考を実践することだとつくづく感じています。
当然、現場と十分なコミュニケーションを取れる環境をつくることが前提です。
トヨタの言うところの3現主義です。
4.カイゼンの原則は「なくせないか」から
カイゼン方針は4つあります。
1.なくせないか
2.いっしょにできないか
3.順序を交換できないか
4.簡単にできないか
注目すべきは、1項目の「なくせないか」。
この観点で現場を観れば、思考の過程で、他の3つの発想も浮かんできます。
先のアルミ合金鋳造用金型の凸部の焼き付き、摩耗による金型寸法の変化への対応事例。
多くのロスにつながる現場作業をなくすることが狙いでした。
そして、金型の焼き付きや摩耗をなくすることを目指しました。
「なくせないか」の発想でカイゼンのきっかけを見つけるのです。
「なくせないか」。
この1点に集中して現場を眺め、観察してカイゼンの糸口を探ります。
あるのが当たり前、存在するのが当たり前、やるのが当たり前、となっている対象こそ、考える機会を与えてくれるのではないでしょうか?
カイゼンの糸口が見えてきます。
「なくせないか」の観点で、改善活動の仕組みをつくりませんか?
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