コロナ禍とFAができること

コロナ禍とFAができること

世界各国でワクチン接種が本格的にスタートし、間もなく日本でも医療従事者や年配者などから接種がはじまる。感染拡大から1年超、世界が待ち望んだワクチンが完成し、ようやくコロナ禍を収束させる筋道が見えてきた。

だが喜んでばかりもいられない。ワクチンは冷凍保存が必要で搬送や保管は慎重を期さないといけない。また接種についても、どこで、誰が、どのように行うかなど、いわゆる接種の現場をどう作って運用していくかの仕組みづくりも必要だ。いま国や自治体の職員が取り組んでいるところだろうが、まさにここが正念場。ぜひ頑張ってほしい。

 

そんななか、スマートファクトリー構築や製造業DX推進を手掛けるFAプロダクツが、工場や生産ラインの設計シミュレーションソフト「プラントシミュレーション」を応用し、ワクチン接種会場の運用をパソコン上で予行演習・シミュレーションできるプログラムを開発した。

材料を投入して加工して次の工程へ送る生産ラインの仕組みをそのままワクチン接種会場に置き換え、受付から接種、退場するまでの流れを再現。1日で何人に接種できるかの単純な計算だけでなく、施設の広さはどれくらいで、どこに、どんな人員を、どれだけ配置して、1工程あたり何分かけるとどうなるかなど、さまざまな条件を変えながら会場内のシミュレーションができる。

さらに、イベントホールや公民館のような施設での接種、オフィスへの出張接種、クリニックなど地域の医療機関での接種などイメージした条件でシミュレーションし、それぞれの処理能力を把握して、それらの組み合わせを調整することで、その自治体の規模や人口、ワクチン接種に使える施設数などに合った最適な接種体制を導き出すことにも役立つという。

テレビでは、自治体職員がExcelや手書きで何度も計算したり、実際に人を使って接種会場を再現してストップウオッチで時間を計ったりする光景が報道されていたが、コンピュータやデジタル技術を活用すればもっと効率的に早く正確な予行演習が可能になる。いまは緊急事態。「いち早く多くの人にワクチン接種を実施する」という目的への最短距離に向かうチャレンジも必要だろう。

 

FA技術で人の体を治すこと、ウイルスを退治することはできない。しかし、開発・認証されたワクチンを大量に作る、不足していたマスクの生産量を増やして世界中に届ける、外出制限がかかるなか急速に増えたEコマースの商品流通に対応する、飲食店や工場等で人との接触を減らすために搬送をロボットにまかせるなど、コロナ禍の不便解消や新しい生活様式への適応、さらにはコロナ収束に向けた取り組みに対して、FA技術も間接的に貢献している。

FA技術はファクトリーオートメーションが専門だが、その外でも活躍できるポテンシャルを持っている。FA業界がこの世界的な苦境に対してできることはまだたくさんあるはずだ。そこへの挑戦によって新しく生まれるものもある。


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。趣味は釣りとダーツ。