コストとデリバリーから生まれる信頼性
製造業の基本ともいえるのが、品質(Quality)、価格(Cost)、納期(Delivery/Time)の頭文字をつなげた「QCD」です。
元々は、品質管理の基本として製造業で始まった言葉ですが、現在は製造業だけでなく、あらゆる分野でビジネスの基本として使われています。
この頭文字が表すものにひとつずつ目標を定め、解決するための手段を講じることが業務の基本になる場面は、世の中のあらゆる業種において多いものです。
また、日常生活において、「QCD」を説明するうえでもっともわかりやすいのが、某牛丼チェーンの宣伝文句「早い、安い、美味い」でしょう。
「早い」が納期(Delivery/Time)、「安い」が価格(Cost)、「美味い」が品質(Quality)と考えれば、その意味が非常によく理解できるのではないでしょうか。
品質(Quality)、価格(Cost)、納期(Delivery/Time)の3つのバランスが大事
製造業で最も大事なのは、製品の品質の安定化です。
例えば、何か製品を作る際に、同じ材料を同じ量入れたとして、今日は70個の製品ができたけれど、翌日は30個しかできなかったというのでは、大量生産を旨とする近代の製造業においては、生産計画が立てられずに困ってしまいます。
そのため、「QCD」の頭文字も、品質(Quality)の「Q」となっているのです。
次いで、重要視しなくてはいけないのが、コストでしょう。
製造業で、大量に製品を生産していくのであれば、歩留りの向上は必ずネックになる課題です。
品質(Quality)を重視しつつ、価格(Cost)のバランスを抑えていかなくては、実際のビジネス上では成り立ちません。
また、納期(Delivery/Time)も現代のビジネスに非常に大事な要素です。
何か製品を購入する際に、いつまで経っても商品が納入されないようでは、販売計画が狂ってしまいます。
こうして、品質(Quality)、価格(Cost)、納期(Delivery/Time)の3つがバランスよく円滑に実現することで、製品への信頼性が生まれるのです。
事業戦略の一環として、Q・C・Dそれぞれに優先順位を決めることも
しかし、一方でビジネス上の戦略として、品質(Quality)、価格(Cost)、納期(Delivery/Time)の比重をあえて変える場合もあります。
例えば、先に挙げた「早い、安い、美味い」の牛丼チェーン。
この場合は、「早い」(Delivery/Time)、「安い」(Cost)を重視し、それでいてそこそこ美味しい(Quality)ので、提供スピードや価格を重視する顧客をつかんでいます。
逆に同じ味でも、値段が倍だったり、提供までに1時間かかったりすれば、既存の顧客は逃げていくでしょう。
この牛丼チェーンの真逆を行くのが、いわゆる高級ブランド品です。
例えば、一点ものもブランド品バッグであれば、納期まで数か月かかる(Delivery/Time)代わりに、非常に高い品質(Quality)が保証されているので、非常に高い価格(Cost)でも、顧客がつくのです。
このように、製品によってはQ・C・Dそれぞれに優先順位を決め、それをどの程度優先するのか、戦略的に計画しておく必要があります。
品質管理、生産、調達、製造などすべての部門に等しく責任と発言権があるべき
「QCD」を実現する上で、製造業を営む企業ではQCDそれぞれの責任部門として、品質管理部門・生産技術部門・製造部門を設けている企業が大多数でしょう。
製品の品質を向上させる設計開発・生産技術部門が技術の向上を図り、品質をチェックする品質管理部門が出来上がった製品の品質をくまなくチェックし、さらには購買部門は製品のコストを管理し、製造部門は製品の納期を責任もって管理する――これら、生産工程の一連の流れが一つでも欠けていたら、信頼性の高い商品を作ることはできません。
そのため、各部門は等しく発言権を持っている必要があります。
また、QCDを高めるには、「人」「モノ」「金」「情報」という、企業内にある資源をすべてうまく使っていくことも重要になります。
最近では、高度化するQCDの要求に応えるため、生産管理にITシステムを導入することも増えています。
PLMと呼ばれるツールでは、設計品質を向上させるCAD/CAEや情報共有ツールなどを提供し、製品のライフサイクル全般を支援します。
ほかにも、川上から川下までの製品の流れを最適化するためのSCM(サプライチェーンマネジメント)、工場での生産工程を管理するための製造業向けERPパッケージなどがあります。
ライバル企業との厳しい競争を勝ち抜くために
以上、信頼性の高いものづくりに欠かせない品質(Quality)、価格(Cost)、納期(Delivery/Time)について説明しました。
製造業だけでなく、あらゆる分野で応用できる考え方だということがおわかりいただけたのではないのでしょうか。
ライバル企業との厳しい競争を勝ち抜くために、社内のそれぞれの部門が協力してQCDの質を高めていくことは当然ですが、Q・C・Dそれぞれに優先順位を決め、それをどの程度優先するのか計画しておくことも、事業戦略的に大切なことになります。
責任のあるものづくりのためにも、「QCD」を必ず心にとめておくようにしたいものです。
出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング