コア技術では固有技術に加えて○○技術も注目する
管理技術もコア技術として欠かせなく、組織文化や風土へ影響を与え、また、そこから影響を受け、やる気を引き出す役割も担う、という話です。
1.株式会社小松精機工作所のコア技術
デジタル技術の進化で設備の「電子機器」化が進んでいます。
モノづくり現場での操作容易性が向上するのはイイことである反面、誰でもオペレーションできるようになるので、それまで、そこで発揮されてきた職人技やノウハウが強みでなくなります。
情報が媒体に「転写」される瞬間に着目して、現象を科学的、工学的に見つめることでコア技術を磨き上げます。(コア技術の工学的体系で競争優位性を維持する)
これはコア技術を構成する2つの技術のうち、固有技術のことです。
さらに管理技術もコア技術になり得ます。こちらは競合から見えにくいブラックボックスの強みです。
ジャストインタイムや自働化に代表されるトヨタ生産方式はトヨタ自動車のコア中のコアです。
カンバンを形式的に他社が模倣してもうまくいかないというブラックボックス的強みです。
固有技術とくらべて当事者も当たり前すぎて意識し難い強みですが、真似されにくい独自技術でもあります。
このコア技術になり得る管理技術を磨き上げることも大切です。
株式会社小松精機工作所は長野県諏訪市に本社工場がある精密プレス部品メーカーで、自動車エンジンの燃料噴射装置部品の世界シェア30%を誇ります。
世界を相手に商売をしている中小企業です。
(出典:『日本経済新聞』2016年5月9日)
資本金9,750万円、従業員250人で1953年セイコーエプソンの協力工場として設立されました。
腕時計部品の製造からスタートさせ、プレス金型製作-プレス加工-切削二次加工-熱処理・表面処理加工-組立 までの一貫製造体制を構築しています。
この一貫製造体制の構築はその後のビジネス展開を計る上で同社の強みとなっています。ここで、同社の固有技術が磨き上げられました。
同社の固有技術を以下のように紹介しています。
腕時計のムーブメント部品のプレス加工技術には、高品位せん断、微細穴抜き、絞り、曲げ、冷間板鍛造 等々の広範囲塑性加工技術の集大成が必要であり、且つ、微細エネルギで正確に駆動される機構という宿命から要求される寸法精度、性状精度 数μm を克服しなければならない。
この創世記に培われた金型製造技術、プレス加工技術、製造体制を基盤DNAとして、情報機器、医療機器、自動車部品業界への事業展開を図って行くこととなる。
「基盤DNA」と表現されているように、これらが同社のコア技術となり、その後の外部環境変化への柔軟な対応を可能にしています。
現在の主力製品は、「オリフィスプレート」です。中央部に2〜18個の穴が開いた直径1センチ前後、厚さ0.1〜0.2ミリの円形の金属部品です。
円形の金属プレートにそれぞれ「異なる方向」に穴が「斜め」に開いています。
エンジンの燃料噴射装置の先端に同社のプレートを取り付けると、燃料が穴から多方向に飛び出します。
同一方向から燃料が飛び出すよりも燃焼室での燃料の燃焼効率が高く、燃費の向上につながります。
「異なる方向」に「斜め」に開けることが技術課題でした。ドリルで開ければ穴側面の仕上がり状態やバリに、放電加工では穴位置精度に問題がありました。
そこで挑戦したのは垂直に動くプレス機で多方向に斜めの穴をあけることでした。
固定する治具に材料を斜めにセットすれば、穴も斜めになりますが全て同じ方向を向いてしまいます。
ここで、同社は時計部品で培った精密加工技術である「基盤DNA」となる技術で試行錯誤を繰り返し、「異なる方向」に穴が「斜め」に開けることを可能にする特殊な構造の金型を開発しました。
燃料噴射装置は制御技術が進化しても、部品の精度が向上しなければ、装置の機能向上は限定的です。
「オリフィスプレート」は燃料噴射装置の性能を左右する部品であり、機械的な精度の限界を上げることで付加価値が生まれる製品です。
顧客の最終製品の性能を左右するということは、顧客にとっても、その技術はコア技術となります。
顧客への影響度が高い部品は、付加価値が高いです。
広範囲の塑性加工技術はまぎれもなく同社のコア技術です。
2.管理技術も欠かせないコア技術
こうした部品を小松精機は月600万〜650万個生産しています。
この規模で安定量産を継続するには管理技術が必要です。生産管理や品質管理の基盤がしっかりしていないと顧客の信用を損ねる事態に陥ります。
小松誠社長は次のように語っています。
「(大量生産や品質管理でも)腕時計部品の製造体制が生きた。」
(出典:『日本経済新聞』2016年5月9日)
また、同社のHPの中でも小松社長は下記のように語っています。
60年の社歴を有しますが、必ずしも順風満帆であった訳ではありません。二度の大きな危機に遭遇しました。
腕時計業界の「成熟化」と情報機器業界の海外シフトによる「空洞化」。然しながら、それぞれの危機の場で、新しい業界への切り替えと、業績復活を可能としてくれた財産。
それは、創業期に取引先から教え込まれた腕時計部品の製造技術と管理技術でありました。
管理技術も同社の強みです。同社のHPのメインメニューに「管理力」があります。そこで、丁寧に説明しています。
管理技術も強みと捉えて、コア技術を磨き上げることで管理技術の進化が加速されます。従業員全員のベクトルが同じ方向を向くからです。向きがそろったベクトルの束は強力です。
固有技術へ直接に関与するのは特定の技術者や技能者に限定される場合が多いですが、管理技術の場合は関与する従業員が多い。
ほとんど全ての従業員が関わります。管理技術が強みであることを全員で認識します。
その事実を明確に掲げることで、全社の意識が高まりやすいです。当事者意識を持つ従業員が増えます。
管理技術は組織文化や風土へ影響を与え、また、そこから影響を受けるコア技術です。管理技術はやる気を引き出す役割も担います。
同社のHPの「管理力」の「こだわり」のページに下記の記述があります。
情報をリアルタイムに共有し、タイムリーな指示によるモチベーションの向上
納得です。
まとめ。
管理技術もコア技術として欠かせなく、組織文化や風土へ影響を与え、また、そこから影響を受け、やる気を引き出す役割も担う。