カイゼン活動では“悪さ加減”への「感度」を磨く

カイゼン活動では“悪さ加減”への「感度」を磨く

トラブルを未然に防ぐ視点で取り組んだ改善事例はありますか?

カイゼン活動で取り上げるテーマは“発生した”問題だけですか?

 

困ったことをテーマにしていることが多いよなぁ。

問題が発生してから動くことが多いから、自然とそうなるのだろう……。

たしかに、トラブルを防止する手間の方が、トラブル対応より時間はかからない……。

トラブルになりそうな問題に気づかせるにはどうしたらイイだろう?

 

“悪さ加減”への「感度」を上げるため、カイゼン活動に工夫を加えます。

カイゼン活動のテーマには2種類あることを意識させ、現場のカイゼン活動範囲を絞り、明確に線引きします。

問題は発生してから対応するモノではなく、防止するモノという考えを定着させます。

1.「感度」という言葉がふと浮かんだ新聞記事

高校生の化学や物理の時間に習った周期表で、113番元素に日本発の元素名が掲載される可能性があります。

2016年、年明け早々に、「新元素発見!!」という報道がありました。

2015年の大晦日に、世界の科学者で組織する2つの団体が理化学研究所のグループが見つけた113番元素を新元素に認定しました。

 

新元素探索は近代科学の発展とともに1800年代からその歩みが始まっていて、1901年に創設されたノーベル賞よりも歴史が長く、新元素の発見はノーベル賞をしのぐと評価している方もいます。

このような報道でもないかぎり、全く注目しない「周期表」ですが、今でも世界の科学者はこの周期表に掲載される新元素の発見にしのぎを削っています。

原子力のエネルギーにもなるウランは92番目の元素です。

 

この番号までの元素は自然界に存在しますが、ウランより番号が大きい元素は、既知の元素を組み合わせて作ります。

ですから、現在、新元素は見つけるものではなく、作るもの。

新元素を作り出すためにはサイクロトロンと呼ばれる「加速器」が必要です。

 

電子や陽子を光速近くまで加速させて、大きなエネルギーを発生させる装置です。

既存の元素と元素を衝突させて新しい元素を作り出すための実験装置です。

今回、原子番号30番の亜鉛(Zn)を加速させて原子番号83番のビスマス(Bi)を衝突させました。

 

両者が融合すれば原子番号30+83=113となり、原子番号113番元素が生まれる(このあたりは意外と理解しやすい!)

数字上は簡単そうですが、実験で成功に至るまで9年を要しています。

また、この元素は作り出すことに加えて、検出するのも難しかったようです。

 

原子番号104番以降は「超重元素」と呼ばれ、生まれてから消滅するまでの時間が短く、今回の理研の113番元素も寿命は500分の1秒です。

つまり0.002秒間で検出しなければならない。

新元素発見という快挙は、加速器と検出器の性能が両方そろって初めて達成できました。

 

検出器の「感度」がキーテクノロジー。

実生活に役に立つ研究ではありませんが、見方をかえればこれも究極のモノづくりです。

成否のカギのひとつは「感度」だったことには違いありません。

 

0.002秒の寿命しかないモノの検出に汗をかいた職人技に興味を感じました。

「感度」という言葉がふと浮かんだ、そんな報道記事でした。

2.“悪さ加減”への「感度」を上げるためにやるべきこと

工場運営で欠かせない視点は2つあります。

 

1)問題が発生するのは、現時点の“仕組み”が最適ではないからである。

原因は人ではなく、仕事のやり方にある。

 

2)問題は仕組みを通じて未然に防ぐものである。

問題は発生してから対応するモノではなく、防止するモノ。

 

未来志向であり、若手人財に働きがいを感じさせる風土づくりには重視すべきことです。
若手に働きがいを与えるように工場を運営する

このうち、2)項を実践するためには現場の「感度」の高さが必要です。

寿命が0.002秒の現象をとらえる程の高レベルな感度(?)は必要ないですが、一見普通に見えるが、実は異常であるということを感じるセンスは持ちたい。

 

今は起きていないが、このまま放置すると大きなトラブルを引き起こす。

こうした事態に気づくことが、ここで言う「感度」です。

そもそもカイゼン活動は問題意識をもつところからスタートです。

 

現場には、当然、標準作業に従った作業の習熟を求めます。

その次が各人に問題意識を持ってもらう段階であり、この段階は各人の「感度」に影響を受けます。

TQC活動では“悪さ加減”という表現が使われることがあります。

 

具体的なトラブルという形で表面化しているいないを問わず、何か思わしくない状態を指す表現です。

“悪さ加減”は放置していると重大故障を引き起こし、大きな損害に繋がる懸念があります。

気が付くべき対象は、「何か」思わしくない状態です。きわめて漠然としている状態です。

 

問題意識がなければ気づくことは無理でしょう。

したがって「感度」が肝要です。

そして、現場の“悪さ加減”に最初に気づくのは現場の作業者や管理者であって、経営者ではありません。

 

トラブルの前兆を把握できるのは現場のみです。

ですから工場運営上、現場の“悪さ加減”への感度は上げてもらいです。

ただ、本来、トラブルとか問題とかクレームは、業務として関わりたくないのが誰でも本音でしょう。

 

ですから、“悪さ加減”への感度を上げるということは、現場の作業者や管理者の本音と相対することです。

本音としては気の進まないことを業務としてこなしてもらうための工夫が必要です。

仕事として“自然に”処理できるよう仕組み化を図ります。

 

最終的には、常に“悪さ加減”について意識するよう現場がしつけられ、見つけた“悪さ加減”をみんなで称賛できる組織風土を目指します。

通常の生産活動に加えて、意識を持ってやらねば絶対に進まないことです。

ですから、仕組みにする必要があります。

3.“悪さ加減”への「感度」を上げるためには避けたいコト

“悪さ加減”報告があったにもかかわらず、それが放置されたり、“悪さ加減”への対応が一時的な号令にとどまったりしていては、現場のやる気は失せます。

最も避けたい対応は、言いっぱなしでフォローをしていないにもかかわらず、トラブルが発生してから、“悪さ加減”に気が付かなかった現場を追及することです。

これでは現場の「感度」も下がるのみ。

 

何とかしたいと思っているものの、外回りに忙しくてついつい現場任せになりがちな経営者の方々……。

思わずこうした対応をとってしまうことがありませんか?

そうしたことを避けるためにも、“悪さ加減”に気づく、感度を上げる仕組みを作りたいのです。

 

経営者は、仕組みに仕事をさせればイイわけです。

カイゼン活動では、今起きている問題は当然のこととして、将来起こりうる問題も取り上げられるレベルを目指します。

4.“悪さ加減”への「感度」が上がる仕組みをつくる

既にカイゼン活動を現場で展開している工場が多いです。

ですから、今のカイゼン活動の仕組みに、若干の工夫を加えます。

“悪さ加減”にも焦点が当たるような工夫です。

 

加える工夫のポイントは2つあります。

1)カイゼン活動のテーマには2種類あることを意識させる
2)現場のカイゼン活動範囲を絞り、明確に線引きする

 

カイゼン活動のテーマには2種類あることを意識させる

  • 現在すでに発生して困っている問題を解決すること
  • 将来、困ることに繋がりそうな何か思わしくない状態を解消すること

 

当然、後者の方がゴールに至るまでの工数は少ないはず。

なぜなら、まだトラブルは発生していないからです。

これらを切り分けて取り組みます。

 

切り分けることで発生した問題と発生しそうな問題について区分する考え方が身に付く。

そして、前者の取り組みを重視するのか、後者の取り組みを重視するのか、これは、経営者の想い次第です。

前者のみならず、後者の情報も現場全体で共有することに価値があります。実際に活動すると実感できます。

 

現場のカイゼン活動範囲を絞り明確に線引きする

既に発生した問題にしても、“悪さ加減”にしても、それが発生する箇所は大きく3つに分類できます。

 

1.現場の各工程内
2.工場全体に共通箇所
3.前後の工程間

 

改めて役割分担領域を明示します。

そうして、現場は自工程に専念します。

焦点を絞った活動になるよう後押しします。

 

さて、ここで強調したいのは3項目です。

カイゼン活動で「感度」を上げたい領域として、前後の工程の“工程間”という領域があります。

具体的に言うと“仕掛品”です。

 

一貫生産ラインではない限り、一般的な機能別のレイアウトを敷いている工場の工程間には“仕掛品”があります。

これをターゲットにします。

仕掛品がある場合、その管理者は、その仕掛品の前工程ですか? それとも、後工程ですか?

 

こうした決め事が不明確な事例は多いです。

したがって、3項目は経営者自らが取り組むのがベストです。

なぜなら、そもそも“仕掛品”はゼロを目指したいモノでもあるからです。

 

貴重な資金がモノの形で現場に眠っている状態です。

ですから経営者直々に取り組み、ゼロにする勘所も把握することが狙いです。

“仕掛品”にまつわる問題は多いです。

 

  • 工場にとって貴重なスペースを減らします。
  • 置いておくことで正常な状態を保ちにくい(キズ、サビ等)。
  • 紛失する恐れがある。
  • 先入れ先出しがしにくく、その搬送にはかなりの工数を要する。

 

等々。

 

問題が多い割には、手つかずに放置されているケースが多い。

工程と工程の間での問題であり、両者への調整作業が発生するというのも背景にあります。

こうした横断的な問題は、経営者自ら動くことが必要です。

 

この手の問題には経営的な判断を伴う場合が多いからです。

とはいっても経営者の多くの方は多忙です。

ここまで現場に入り込んだ活動は時間的にムリ!! という方も多いです。

 

こうした現場の取り組みを進めるためにチームオペレーションを機能させます。

カイゼンをはじめ工場運営全般にいえますが、現場での活動には現場リーダー、各工程キーパーソンが必要です。

部分最適と全体最適のバランスを考えるためです。

 

現場はまず自工程に専念し“悪さ加減”に気づくための「感度」を磨きます。

こうしたことの積み重ねが、現場の地力になります。

 

そして、

問題は仕組みを通じて未然に防ぐものである。

問題は発生してから対応するモノではなく、防止するモノ。

という考えがあたりまえになることを目指します。

まとめ

トラブルになりそうな問題に気づかせるにはどうしたらイイだろう?

 

“悪さ加減”への「感度」を上げるためカイゼン活動に工夫を加える。

カイゼン活動のテーマには2種類あることを意識させ、現場のカイゼン活動範囲を絞り明確に線引きする。

問題は発生してから対応するモノではなく、防止するモノという考えを定着させる。

 

カイゼン活動では“悪さ加減”への「感度」を磨く。

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)