オリックス・レンテック 本格活用が目前、期待集まる3Dプリンタ

オリックス・レンテック 本格活用が目前、期待集まる3Dプリンタ

ものづくり企業を後押し

技術進化によって再注目を集めている3Dプリンタ。用途が試作から実用品の量産へ、材料も金属やエンプラへと広がり、世界の製造業で活用が進んでいる。

計測器やロボットなどレンタル事業を手掛けるオリックス・レンテックは、2015年から3Dプリンタ事業を展開し、大手製造業メーカーを中心に3Dプリンタを使った試作部品の造形受託を行ってきた。

その実績と経験から分かった3Dプリンタの現在地とこれからについて聞いた。

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左から袴田友昭氏、伊瀬年轄氏、小林剛輝氏

 

金属3Dプリンタを使った造形受託と機器レンタル

同社は、1976年に日本で初めて測定器のレンタルサービスを開始。以来40年以上にわたって国内外の製造業企業、特に自動車や電機、機械メーカーなどの研究開発や生産、検査といった製造現場での計測・測定ニーズを、機器レンタルという形で下支えしてきた。

3Dプリンタ事業は、ロボット、ドローンと並ぶ新規事業の一つとして2015年にスタートし東京都町田市の東京技術センター内に「Tokyo 3D Lab.」を開設した。顧客からのデータに基づいた試作品を製造する「造形受託サービス」、3Dプリンタを自社で導入するにあたり、造形データ作成、材料投入、サポート除去などの一連の造形作業について、技術員専属で体験できる「実機検証サービス」、機器の「レンタルサービス」の3本柱で展開してきた。

当時、3Dプリンタと言えば樹脂がメインだったが、同社は樹脂に先んじて、まだメーカーも少なく、機器と材料も高額だった金属3Dプリンタ(EOS社製)を導入。産業での利活用に特化して取り組んできた。

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「Tokyo 3D Lab.」で展示している造形品の数々

 

5年間で引き合い2000件以上

約5年間の事業実績について、得た引き合い件数が2000件以上。顧客の求めに応じた試作部品を製造し納品してきた。発注元のほぼすべてが測定器レンタルで取引のある大手メーカー。

彼らから受注できた理由について事業開発本部 新規事業開発部長 ロボット/3Dプリンタ/ドローン事業担当の小林剛輝氏は「メーカーにとっての試作品は超重要機密。その外部製造を受託できたのは、これまで44年間のレンタル事業での付き合いで積み重ねてきた信頼によるもの。品質管理やセキュリティに対して要求される高い水準をクリアしてきたのが認められた結果だ」という。

また同3Dプリンタ営業チームリーダーの袴田友昭氏は「はじめはゼロからのスタートで素人同然だった。3Dプリンタはデータを入れてボタンを押したら設計通りのものが出てくると思いがちだが、まったくそんなことはない。設計も加工も独自の技術が必要であり、本当に使いこなすためにはノウハウが求められる。造形受託を5年間やってくるなかで、実績を積み重ねそのノウハウを蓄積してきた」と振り返る。

 

金属3Dプリンタ導入・活用の注意点

ここ1、2年で機器メーカーと材料の種類が増えて、金属3Dプリンタへの関心が急速に高まっている。同社は早くから金属3Dプリンタを導入し、多種多様な試作部品を製造してきた経験から、導入・活用に際してのいくつかの注意点を挙げる。

例えば3Dプリンタへの誤解。3Dプリンタは材料を用意してデータを入れてボタンを押せば完成品が出来上がると思われがちだが、それは正しくない。製品として使えるようにするためには、従来の金属加工と同様、後処理工程が必要だ。

3Dプリンタにおける造形方式の一つである、材料粉末にレーザーを当てて焼結して層を重ねていく「粉末積層法」では、3Dプリンタで全体形状を作った後、焼結で熱が加わっているため熱応力を取り除く作業をし、その後、支柱となっているサポート材を除去と、バリ取りと表面処理のためにブラスト処理を行う。ここまでやって初めて実用に耐える完成品になる。

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EOS社製金属3Dプリンタ

 

また設備についても、金属3Dプリンタで造形するために必要な設備は、3Dプリンタ本体に加え、レーザー照射のための雰囲気ガスとなるアルゴンガスの供給装置、レーザー冷却用のチラー、加工後の残った材料粉を回収して再利用するためのリサイクル装置など周辺機器が必要だ。

材料が粉末状なので粉塵が舞う環境下での作業となり、作業員の健康を守るための安全衛生法、消防法、粉塵法の法令に応じた設備と運用も求められる。

運用時も注意点はある。少量多品種に対応できるのが3Dプリンタの利点だが、実際の段取り替えでは機器内部の粉末を除去するための洗浄に大きな手間と時間がかかる。前工程の粉末が残っていると品質不良の原因となるため、徹底した洗浄が求められる。

同3Dプリンタ技術サポートチームリーダー兼技術一部測定器チームの伊瀬年轄氏は「金属3Dプリンタは特殊な加工機で、材料となる金属粉末は可燃性物質で発火の恐れがあったり、作業者は定期的に特殊健康診断を受ける必要があったりと色々な運用上の注意点がある」という。

 

導入支援サービスで金属3Dプリンタの知見を還元

金属3Dプリンタは応用可能性が大きく、期待できる技術だが、運用面から見ると想像以上に手間がかかり、設備投資も大きくなりがち。同社もそれで苦労した経験があり、今はそれをなるべく減らせるような導入支援サービスを強化している。

具体的には、3Dデータの作成から造形、仕上げまでを同社の技術者と一緒に実機で検証できる実機検証サービスと、ユーザーがレンタル期間を自由に設定し、できるだけリーズナブルな価格でレンタルできるオペレーティングリースサービス「Lレンタル」を提供中。実機検証サービスを通じて3Dプリンタの一連の工程を体験してもらい、導入メリットを感じればレンタルやLレンタルを、導入までは必要ない場合には造形受託という道を示し、3Dプリンタ活用の間口を広げている。

袴田氏は「3Dプリンタを使っている製造業はごく一部。多くの人にとっては未知のものだからこそリスクを下げる必要がある。装置価格はハイエンド機になると樹脂で数千万円、金属では1億円を超える。しかも技術革新が早く、機器が陳腐化しやすい。周辺設備も揃えなければならず、使いこなすにはノウハウも必要だ。そこに対して当社が蓄積した知見と、レンタルや造形受託という仕組みを提供して導入を促進していく」という。

 

実用品や高付加価値製品への活用でリードするヨーロッパ

3Dプリンタの導入と活用について、日本の状況はどうなのか? 小林氏は「海外に比べて3Dプリンタの活用は遅れている」と分析する。実際ヨーロッパに出向き、メーカーや受託製造事業者、ユーザーなどと意見を交換するなかで、そう感じたという。

「日本の3Dプリンタ活用はホビーや試作品が中心だが、ヨーロッパでは航空や軍事、医療機器など3Dプリンタでしか作れない実用品をたくさん手掛けている。例えばヨーロッパの鉄道車両製造の大手企業は、ひとかたまりで完成品だったバンパーを3つの部品に分割して3Dプリンタで作れるようにした。従来は傷がついたらバンパー総取り替えだったものを壊れた部分だけ取り替えられるようにし、在庫を持たずに効率化している。自動車の旧車のパーツを3Dデータ化し、メーカーの供給期限が切れても独自にパーツを作って提供できるようにしているという例もあった」(小林氏)。

ヨーロッパでは試作だけでなく、実際の製品の製造に使われ、受託製造業者もたくさん存在する。しかも彼らは3Dプリンタに適した設計・製造力を生かしてオリジナルの高付加価値製品を作り、メーカーとしてのビジネスも成立させている。従来の下請け構造、受託製造が多い日本とはここが大きく異なっているとしている。

 

現状維持で停滞気味の日本だが「試す」から「使う」へ変化も

ヨーロッパでは3Dプリンタを実用化しているのに対し、日本は試作用途に限定されている。その理由は、昔から続く日本の現場の考え方にあるとしている。

小林氏は「ヨーロッパの人々と話して感じたのは、彼らは『やってみよう』という意識が強い。それに対して日本は慎重で決断できないケースが多い。日本は従来の工法で優れたものが作れ、3Dプリンタの必要性を感じていない。従来のやり方に慣れたベテランの意見が強く、新しい工法に挑戦できない。従来工法で作ったものとまったく同じ強度や品質が作れないとダメだという意見が根強い。こうした風潮が3Dプリンタ活用を阻み、技術革新を阻害している」と指摘する。

とはいえ、日本でも「試す」から「使う」へと少しずつ変化してきているのは事実。袴田氏は「造形受託でも、溶接や研磨、強度を求める依頼が出てきた。実製品で使われる例が増えてくると普及が進むだろう。いまコロナウィルス対策として医療従事者向けのマスクやガード、人工呼吸器の部品製造などで3Dプリンタを使う動きが世界中で広がり、日本でも一部出てきている。人の命を救った技術としてもっと有効性の認知が広がっていけば、これからに期待できるだろう」としている。

また下請法の運用厳格化によって、発注元となる大企業が下請け企業に長期間の金型保管を強いることができなくなる。3Dプリンタでの金型製造や部品製造の金型レス化が進むと見られ、これも普及の追い風になるという。

 

3Dプリンタの相談窓口として

2013年のオバマ大統領(当時)の演説で言及され、メイカーズと相まってブームとなった第1次ブームが終わり、いま産業利用では試作工程で広く使われている。同じ歩みを刻んだ同社にとって、ここまでは事業の第1フェーズ。これからはさらなる普及と実製品への活用拡大、新しい加工技術として定着させていく新たなステージと位置づけ、一層の啓蒙活動に力を入れる。

小林氏は「これまでの5年間で多くの取引を通じてたくさんの知見と技術を手に入れることができ、第1フェーズとしては成功した。今後は普及を加速させるため、3Dプリンタをより深く理解してもらうと同時に、当社が3Dプリンタでここまでやっているという活動を知ってもらわなければならない。そのための啓蒙活動に力を注ぐ。当社は3Dプリンタのノウハウと実績があり、造形受託からレンタル、導入支援サービスまで展開している。3Dプリンタならまず当社に相談してほしい」としている。

 

■オリックス・レンテック


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。趣味は釣りとダーツ。