[インタビュー] 三菱電機 名古屋製作所、人とロボットの共存進める

[インタビュー] 三菱電機 名古屋製作所、人とロボットの共存進める

三菱電機 名古屋製作所
ロボット製造部ロボットテクニカルセンター長
荒井 高志氏に聞く

三菱電機荒井様

自動車・電機業界 微妙な力加減を「自動化」
三品業界 作業工程の“一員”として

スマートファクトリーは自動化によって工場が進化した理想の姿。それはロボットだけでは実現できず、さまざまな技術の組み合わせで初めて成立する。

三菱電機は2003年から「e-F@ctory」を提唱し、FA機器とロボットの両方を手掛けてスマートファクトリー化を提案してきた。

三菱電機名古屋製作所ロボット製造部ロボットテクニカルセンター長 荒井高志氏に話を聞いた。

 

シーケンサとの連携性

—— 最近のロボット市況について

市況は厳しい状態が続いているが、自動化ニーズ、人手不足対策としてのロボット導入の案件自体は減ってはいない。潜在的なニーズは多く、引き続きロボットをキーとした自動化提案に力を入れている。

 

—— 潜在的なニーズとは? 具体的に

ひとつは、比較的ロボット導入が進んでいる自動車と電機業界でも、新しいニーズが生まれてきている。

例えば、自動車・電機の製造現場にもいまだに人手で作業している工程はたくさんある。微妙な力加減が必要な組み立て作業や柔らかくて持ちにくいケーブルの配線作業はこれまでのロボット技術では難しくて不可能だった。それを自動化しようという動きが出てきている。

これまでのロボットは、重たいものを持ち上げる、速く運ぶといった自動機の延長で使われてきた。最近は、知能化技術を使って、人でなければいけなかった作業をどうロボットで行えるようにするかといった話題が盛り上がっている。多くの企業とシステムインテグレーターがロボットによる高付加価値な作業の実現を目指して試行錯誤している。

またこれらの業界でも少量多品種の対応は人がやっている。今後、少量多品種化がもっと進み、マスカスタマイゼーションに近づいていくと自動機では対応が難しい。そこには人の代わりになるものが必要となり、ロボットがその最有力候補。ここでは協働ロボットが、これまでとは全く異なるコンセプトと機能を持ち、ロボットアプリケーションに新しい可能性を拓いている。まさに今は「自動機の時代」から、本当の意味での「ロボットの時代」がやってきたと感じている。

 

もうひとつが、食品など三品産業を中心とした、これまでにロボットが使われていなかった業界の自動化ニーズだ。人手不足の深刻化を背景に、非常に高い関心が寄せられている。

例えば食品工場は、食品自体の生産プロセス以外は、そもそも自動化を想定して設計されていない。人の手による作業を前提として設計・構築され、自動機もロボットもほとんどなく、多くの人が人海戦術的で働いている状況だ。これをすべて自動化するには工程を設計し直して再構築する必要があり、それは現実的に不可能だ。

そこで既存の工程、設備はそのままに、人の作業工程に協働ロボットを置き、少しずつ自動化していこうという動きが進んでいる。

 

—— 御社の取り組みについて

三菱電機は、センサからモータードライブ、ロボット、シーケンサ(PLC)、インバータ、産業用コンピュータ、産業ネットワークまで、自動化に必要な機器がすべてそろった「オールFA機器メーカー」だ。2003年から「e-F@ctory」によって、各フィールド機器からデータを集めて、上位システムと連携し、製造現場でデータ活用することを訴求し、早くからスマートファクトリーの実現を提案してきた。ロボットもそのコンセプトにのっとり、「ロボットと人の共存、スマートファクトリーとの融合」を提案している。

当社は垂直多関節ロボットやスカラロボットなど小型機種を中心にラインアップし、最大の特長は「シーケンサとの連携性」にある。FA機器メーカーのロボットとして、周辺機器も含めてシステムを構築しやすく、上位システムともつながりやすい。高度な制御もでき、それはそのままスマートファクトリーへとつながっていく。

初めてのロボット導入からもうワンランク上の高度な制御まで、あらゆるニーズに対応でき、IoTやスマートファクトリーを見据えた足がかりとして当社のロボットは最適だ。

 

—— 人とロボットの共存について

協働ロボットは、人や物体に衝突したら確実に止まる安全性、安全柵で仕切る必要のない設置の利便性がクローズアップされる。しかしこれらは協働ロボットだけができる訳ではなく、FA技術を活用したロボットシステムでも可能だ。

例えば、安全柵やアクリル壁で囲う代わりにライトカーテンやラインセンサ、エリアセンサ等で作業領域の侵入を検知して減速や停止制御を行うロボットシステムもある。

FA技術と組み合わせることで、産業用ロボットの利点であるスピード感はそのままで、協働ロボットと同等の利便性を実現することができる。こうした提案はオールFA機器メーカーならではのもの。

アプリケーションによって協働ロボットが適している時もあり、センサや安全柵で囲ったシステムの方が効率的な場合もある。当社はお客様の要望とアプリケーションに応じて、いくつもの選択肢を示し、最適解を提供できるのが強みだ。協働ロボットに限定せず、総合力で人とロボットの共存を実現していく。

 

RTR社の技術と融合

—— 米・RTR(リアルタイムロボティクス)の技術も有効だ

Real Time Robotics(リアルタイムロボティクス、以下RTR)社は米国のロボットスタートアップ企業で、産業用ロボットへの適用を目的とした、環境変化をリアルタイムに認識するモーション・プランニング専用プロセッサとソフトウエアの開発を事業としている。産業用ロボットのより高い安全性と生産性の早期両立を目指して2019年5月に出資した。

RTR社の技術と当社のロボット技術を融合させることで、これまで以上に高度なロボットシステムを作ることができる。作業領域をカメラで常時分析し、その環境の変化をロボットがリアルタイムに認識し、状況に応じた適切な動きができるようになる。

具体的には、ロボットの作業領域内へ急に人が手を伸ばしたり、何かものを置いたりすると、ロボットがそれを即時に認識して高速で滑らかな回避行動を行う。物理的に避けられない場合は当たる前に止まり、異物がなくなると自動的に動きを再開する。従来の協働ロボットは、ものが触れたら止まり、人の手で再起動を行う。ここにチョコ停が発生してしまう。RTR社の技術を当社のロボットに適用した場合、異物を避けて動き続けるので生産ラインは止まることがなく、高い生産性を実現できる。

今までは安全柵で囲えば安全性は担保できた。しかし新しい技術を活用することで、これまでとは異なる切り口で高い安全性と生産性の両方を実現することが可能になってきている。そうした提案を進めていく。

 

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「IIFES」でのデモの様子

国際ロボット展に出展

—— 国際ロボット展の見どころは?

「人とロボットの『共存』が拓く、スマートファクトリー」をテーマに、協働ロボット、産業用ロボットFRシリーズ、AI技術(MELFA Smart Plus)を組み合わせたスマートファクトリーを展示し、マスカスタマイゼーションに向けたソリューションを展示する。三菱電機の特長であるオールFA機器メーカーとしての訴求と、新しい技術と新しい社会への対応を提案する。

安全柵で囲ったロボット、セルロボット、センサを活用した柵なしロボット、協働ロボット、RTR社との共同開発による、よけるロボット。考えうる限りのロボットの設置パターンのバリュエーションを展示する。人とロボットの共存の仕方のパターンと、選択肢の多さ、最新技術をぜひ感じてほしい。

またロボットアプリケーションを増やしていくためにはパートナーやシステムインテグレーターとの協力が欠かせない。前回も多くのパートナーに出展してもらい、さまざまなアプリケーションを提案していただいたが、今回も同様に多くの事例を見せられると思う。

前回2017年と比べて、マスカスタマイズを見据えてフレキシブル性を高めた提案を増やし、人とロボットが協働するスマートファクトリーを提案する。ぜひ楽しみにしてほしい。


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。趣味は釣りとダーツ。