アドバンテックの戦略、中国・蘇州 IoTイベントレポート「競争」より「共創」
プラットフォーム「WISE-PaaS」幅広く提供
導入企業1000社目指す
アドバンテック(東京都台東区)は11月1日と2日、中国蘇州で同社のIoTプラットフォーム「WISE-PaaS(ワイズパース)」の戦略説明会と位置付けるイベント「Advantech IoT Co-Creation Summit」を開催し、世界中から約6000人が参加した。そのイベントの様子をレポートする。
世界各国から6000人参加
「WISE-PaaS」は、アドバンテックが展開している産業用のIoT PaaSプラットフォーム。産業用PCなどエッジ側に強い同社の製品をベースとして、さまざまなパートナーが提供・開発するクラウドプラットフォームおよびクラウド上のアプリケーションを一元的に顧客に提供することができる。
製造業だけでなく、物流や交通、医療、小売など幅広い産業に提供しているのが特徴だ。
グローバルリーダーへ 3つのビジョン示す
キーノートスピーチでは、同社のトップであるKCリウ氏から、ハードウエア製品のメーカーとして、スタートから3つのフェーズを経てIoTのグローバルリーダーになるビジョンが示された。
フェーズ1の「Automation & Embedded Platforms」は、これまで同社がハードウエアメーカーとして歩んできた立ち位置。
フェーズ2は、WISE-PaaSを基盤とした「Solution Ready Packages(SRP)」。エッジの製品群から集められたデータをWISE-PaaSに蓄積し、そのデータを活用できるアプリケーション(SRP)の開発者と一緒に開発し販売することで、IoTソリューションを実現する。
フェーズ3は「Integrated Application Cloud Solutions」とし、特定の業界や地域に特化したシステムインテグレータと共創することで、WISE-PaaSのIoTプラットフォームとしての最終型が完成するとしている。
現在はフェーズ2の段階であり、フェーズ3へ向かうにあたり、リウ氏は繰り返し「共創こそが重要なコンセプトである」と語った。エッジ側のデータ収集は同社の製品が担うが、ネットワークやクラウド、蓄積したデータを生かすためのアプリケーション、全体のシステムインテグレーションはパートナーが担う。
このビジネスの鍵はパートナーとの共創を強調し、フェーズ3までにSRPの開発パートナーを60社、業界や地域に特化したSIを80社、WISE-PaaSの導入企業1000社を目指すと話した。
また、WISE-PaaSを導入する顧客は、基本的には同社のハードウエア製品を利用する。同社はこれらを「Edge
AI Platforms」としており、IoTで重要な役割を果たすAIへの対応について、エッジ側でディープラーニングなどの処理を行うためのSDKやツールキットが用意されているとした。
このほかセッションでは、インテル(米国)が同社と共同開発したエッジ製品、エリクソン(スウェーデン)が5Gの有用性とコスト削減効果、カスペルスキー(ロシア)のIoTセキュリティについて解説。
また事例として、SKF(スウェーデン)の5Gを使ったベアリングのリモートメンテナンスによる20%コスト削減、WZL(ドイツ)のジェットエンジンの製造ラインのセンサデータ活用で2700万ユーロのコスト削減、エリクソンの南京工場のドライバのIoT化で210%の費用対効果、Comauの予知保全が紹介された。
米国の建設ラッシュは大きなチャンス
別途インタビューでは、創業メンバーでありエグゼクティブボードディレクターを務めるチェイニー・ホー氏に、ハードウエアメーカーからIoTプラットフォーマーを目指す戦略にいたった経緯を聞いた。
産業用PCなどのエッジ製品は競合が多く差別化が難しくなっているとし、「エッジ側の製品がIoTによってクラウドとシームレスにつながり、蓄積されたデータがさまざまな用途で簡単に使えるようになれば付加価値が高まる。そうすれば当社の製品を選んでもらいやすくなる」とし、IoTプラットフォーマーにかじを切ったと話した。
業績は好調だが、最近は特に追い風を感じているとし、「多くの企業がトランプ政策の影響でアメリカ国内に莫大な投資をして工場建設を進めている。アメリカの雇用のために台湾のお金、日本の技術がどんどん流れている。これは当社にとっては大きなチャンス。このような投資案件にもっとWISE-PaaSを使ってもらえるように進めている」と語った。
▲アドバンテックジャパンのマイク小池CEO(右)とチェイニー・ホー氏
また、インダストリアルIoTのアソシエイト・バイスプレジデントのジョニー・チャン氏は、WISE-PaaSの普及のためには共創とパートナー戦略が重要だとし「当社のコア事業はハードウエア製品であり、クラウドのインフラやデータを用いたアプリケーション、システムインテグレートは専門ではない。既にそれらを提供しているプレイヤーとオープンに組むことが、最も早く顧客に価値を提供できる。彼らと競争するより共創が重要だ」と話した。
共創するパートナーについて、システムインテグレーションを担う企業は、特定の領域や地域に強みを持ち、ハンズオンで開発まで担当できる企業を想定。クラウド上のアプリケーションを提供するSRPは「構想としては特定のドメインや地域に強い企業がアプリケーションを開発し、WISE-PaaS上のマーケットプレイスで販売していく。これにより企業も新たなビジネスチャンスを創出できる」と意義を語った。
日本市場では2018年3月に日本ラッド(東京都港区)に資本参加し、DFSIパートナーとしての協業を開始しており、製造現場の生産管理システムや加工工程モニタリングシステムの導入など日本の製造業のIoT化を強力に推進しているという。
▲ジョニー・チャン氏(左)とアドバンテックジャパンiFactory Directorの古澤隆秋氏