いつでも主役は人

いつでも主役は人

ペッパー君が街中から姿を消している。AIを搭載したコミュニケーションロボットとして華々しくデビューし、店舗の呼び込みや案内役として大きな期待が寄せられたが、実際はなかなか難しかったようだ。

2014年に発表されてから、多方面で引っ張りだこになり、15年には日経MJのヒット商品番付で11位になるほどの活躍をした。当時は店先で話しかける子どもの姿をよく見かけたが、最近はめっきり見なくなった。

ペッパー君自身は素晴らしい能力を持ったロボットだが、今のところは定着するに至らずに残念だ。

 

一方、先日行われたイベントEXPOで面白いロボットに出会った。THKとリードジェンが共同開発したアナウンスロボット「しおりん」だ。女性の姿をしていて会話としぐさがとてもスムーズ。まるで本物の女性と話しているかのような感覚に陥るほどの素晴らしい出来に驚いた。

どれだけすごいAIや制御ソフトを搭載しているのかと思って話を聞いたところ、さらにビックリ。実は自律型のロボットではなく、「腹話術」の要領で、裏側では女性がロボットの操作と会話を行っていたのだ。だから会話もスムーズで、しぐさも人間そのものを実現できた。

AIを使わず、人間とロボットをうまく掛け合わせることで高いコミュニケーションを実現する、このアイデアと切り口には脱帽だった。

 

いまAIやロボットを活用した自動化が各方面で進んでいる。その多くが人の作業をAIやロボットに代替させるもので、言葉を換えれば、人から仕事を奪う、現場から人を排除する方向に向かっている。

単純作業からの解放、人がやるべき業務に向かわせるためといった理由付けもされているが、人が次に何をするのかの具体的な解は示されていない。本来やるべきは、人の排除ではなく、人の活用である。人の能力を生かし、人の進むべき道を示すこと。その意味ではペッパーは先進的過ぎた。

いまちょうどいいのは、前記のアナウンスロボットのような「人とロボットの協業」や「アナログとデジタルの融合」のようなステップ。人とAIやロボットの長所を見極めて、最終的には人に生かす、人が中心であることを忘れてはいけない。


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。趣味は釣りとダーツ。