【世界の現場を巡る・番外編】シュナイダーエレクトリック本社 HIVE、...

【世界の現場を巡る・番外編】シュナイダーエレクトリック本社 HIVE、世界最先端のエネルギー・ビルマネジメント技術を活用

ZEB・スマートビルディングのショーケース

快適な室内環境を実現しながら消費するエネルギーをゼロにすることを目指す建物「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」。国内でも多くの取り組みが見られるが、世界ではどうなっているのか?

このほどエネルギーマネジメントとオートメーションの世界トップメーカーであるシュナイダーエレクトリックの本社HIVEを見学することができた。彼らの省エネへの取り組みを紹介する。

HIVEの外観

HIVEの外観

 

パリ郊外にある本社兼省エネのショーケース

シュナイダーエレクトリックの本社HIVEは、パリ郊外のリュエイユ・マルメゾンにある。10カ所ほどにバラバラだった本社機能を集約し、2008年に統合する形で入居。現在、2000人弱が働いている。

HIVEはHall of Innovation and Energy Showcaseの略で、同社のエネルギーマネジメントの実験場として多くのソリューションが導入されている。ショウケースの名の通り、世界中から人が来て、HIVEを見学し、省エネの実績とソリューションを紹介する役目を担っている。

 

3500の機器がつながり、3万カ所を監視

HIVEで取り組んでいるのは、EcoStruxureのハードウェアとソフトウェア、各種省エネ機器を導入し、センサやデータ分析、制御最適化など、いまある設備の稼働を調整してエネルギー効率化するアクティブな省エネ。二重窓や断熱材のような建物そのものの設備、パッシブ(受動的)なものは対象外としている。

ビル内の3500の機器・設備がネットワークでつながり、3万カ所を遠隔監視・遠隔制御している。エネルギー系のメーター(電気、ガス、水道)、HVAC(ボイラー、空調)、照明やブラインド、部屋の在不在、防犯セキュリティなどなど。さらに太陽光発電や地中熱等も活用している。

2008年に入居してから、約10年でエネルギー消費量を旧本社の4分の1まで削減。2020年には6分の1、2030年にはカーボンニュートラルを実現する計画で進んでいる。

機器のデジタル化で遠隔監視・制御

機器のデジタル化で遠隔監視・制御

 

制御によるアクティブな省エネでエネルギー消費量が4分の1に

取り組みは、内容によって前期と後期に分類できる。前期は制御を中心としたアクティブな省エネを中心としたもので2008年の旧本社移転から14年まで。後期は再生可能エネルギー導入も含めた現在進行系で進んでいる。

移転後、はじめに取り組んだのは、施設全体のファシリティ制御の最適化。HIVEはもともと8000人が働く想定でビルが作られていて、ファシリティは大きめで余裕のあるものが導入されていた。そこで、HVACを構成するチラー、ボイラー、AHU(空気調和機)の稼働を見える化し、24時間運転のようなムダな運転を減らすよう調整し、合わせてモーターのスピードドライバを導入してメリハリのある運転とした。これらの取り組みによってHVACで50%のエネルギー削減となった。

また施設内の照明や空調の個別制御も実施。オフィスフロアは13㎡ごとのゾーンに分かれ、人の有無と外気や室内環境、天気予報のデータを元に分析したデータから照明と空調を調整。社員と来訪者のIDカードにはZigbeeの短距離無線が内蔵されており、ゾーン内の人数を把握し、快適な環境になるよう自動制御するようになっている。

これらの取り組みにより、旧本社で年間320kWh/㎡を使っていたエネルギーを、10年に110kWh/㎡、14年には74kWh/㎡と4分の1まで減らすことができたという。

HVACを見える化・最適制御

HVACを見える化・最適制御

 

再生可能エネルギーの活用でさらなる削減を進める

14年からは取り組みの後期に入り、再生可能エネルギーの活用を中心に、20年に年間50kWh/㎡達成に向けて動いている。14年時点からの差分の24kWh/㎡は、従来からのアクティブな省エネ30%、太陽光発電20%、地熱利用50%の内訳で減らす計画だ。

太陽光発電は、屋上や駐車場に太陽光発電パネル800枚(1300㎡)で合計260kWのシステムを設置。年間260MWの電力を作り、施設の電力の10%を賄っている。作った電力はすべて自社で消費しているという。

地熱については地中熱のヒートポンプを導入。熱需要の20%を賄っているという。

太陽光発電は自社で全て消費

太陽光発電は自社で全て消費

 

データ解析から改善サイクルを回すファシリティチーム

HIVEの省エネを進めているファシリティチーム(エネルギー管理者)は20人。EcoStruxureプラットフォーム上に集めたデータでリアルタイムに状況を監視し、設備を管理している。同時に、データを解析して問題点を見つけ、改善を実行するという改善サイクルを進めている。

彼らの日々の活動を支えているのが「SmartPanel」。現場はもちろん、PCやスマートフォンなどからも状態を監視・管理し、機器の制御ができるソリューションだ。施設内の各所、各設備に取り付けられたセンサはもちろん、電気室内のサーキットブレーカーには小型で外付けでき、Zigbeeで無線通信できるエネルギーセンサ「PowerTag」が取り付けられ、リアルタイムに情報が集まってくる。彼らは日々それらをSmartPanelで確認し、改善を行っている。

Martin氏は「私たちの目的は、ビルの省エネではなく、仕事場を快適にし、生産的に働ける環境を作ること。ここでやっていることは、プロトタイプではない。他のビルでも使える機器やシステムで効率化している」という。

Energy ManagerのRegis Martin氏

Energy ManagerのRegis Martin氏

 エネルギーセンサ「PowerTag」

エネルギーセンサ「PowerTag」

 

ビルオーナー、テナントにメリットをもたらすエネマネソリューション

HIVEは本社と言っても自社ビルではない。建物のオーナーは別に居て、同社はテナントという立場だ。同社はHIVEの取り組みにあたり、テナントであると同時にエネルギーマネジメントのサービス提供者としての立場から省エネを進め、オーナーにはビルの資産価値向上を、テナントにはエネルギーコスト削減というメリットをもたらすことに成功した。

実際に、前期の取り組みは同社が自社で費用負担をしたが、後期の再生可能エネルギーの費用はオーナーが負担。それまでの取り組みによってビルの資産価値が上がっていることを受け、両者交渉のもと、さらなる価値上昇を見込んでオーナーが負担を受け入れることを了承してくれたという。

エネルギー、産業のデジタル化が追い風

International Operations Executive Vice President
リュック・レモン氏インタビュー

エネルギーマネジメントと制御技術をもって世界でZEB、スマートファクトリーを推し進めるシュナイダーエレクトリック。HIVEと、同社のスマートファクトリーであるル・ボードライユ工場の見学の際に、International Operations Executive Vice Presidentのリュック・レモン(Luc Remont)氏に話を聞くことができた。

リュック・レモン氏

リュック・レモン氏

–HIVEもル・ボードライユ工場も素晴らしい取り組みだ

HIVEは当社のグローバル本社で、ここではエネルギー消費の改善を積み重ね、いまでは10年前の4分の1、新設ビル並みのエネルギー効率に到達している。

ル・ボードライユ工場は多くの新技術を投入し、生産プロセス効率化やエネルギー削減に取り組んでいる。インダストリー4.0のテクノロジーを応用し、世界で約200箇所ある工場のうち、最も効率的な工場になっている。

当社の最終的な目的は、お客様の製造パフォーマンスを最大化すること。エネルギー管理や自動化、ソフトウェアを通じてそれを実現する。HIVEとル・ボードライユ工場は当社が持つテクノロジーでそれを実現した成功例だ。

 

–いまのビジネスの状況は?

去年も四半期も良い数字で、売上は伸びている。中長期的な見通しについても2つの好材料がある。

ひとつはエネルギー。いま世界はエネルギーの大転換期に直面している。エネルギー需要が増え、気候変動も激しく、世界的にエネルギー効率化へのニーズは高い。従来のエネルギーと再生可能エネルギーのミックス化と、エネルギー分散化によって当社の活躍の場が増えている。

また産業のデジタル化があらゆるインフラに及んでいる。当社はエネルギーと自動化に強みを持ち、設計、生産、保守管理でデジタルを使ったフォローができる技術を持っている。当社は自社をお客様のデジタル変革をお手伝いするテクノロジーパートナーと位置づけている。

 

–先進国以外でも自動化や制御のニーズは高まっている

世界100カ国以上に展開し、先進国と同じ技術を新興国にも展開している。
各国で気候やインフラのレベルは異なるが、テクノロジー導入には意欲的で、驚くべき吸収力を持っている。特にエネルギー関連は新興国の需要がとても強い。

 

-RE100(Renewable Energy 100)、EP100(Energy Productivity 100)の進捗について

事業運営を100%省エネで調達することを目指すRE100、省エネ効率の50%改善を目標とするEP100は、ともに現時点ではいい進捗だ、エネルギー消費量の削減を見極め、再生可能エネルギーを盛り込むことで対応している。

RE100については、2020年には再エネで80%まかない、2030年に100%でまかなう目標となっている。


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。趣味は釣りとダーツ。