【インテリジェント工場】から【スマート工場】への意識改革

【インテリジェント工場】から【スマート工場】への意識改革

1964年にIBMがメインフレームSystem/360を発売してから、半世紀が経過した。

オペレーションシステムを搭載したこのマシンがキッカケでComputerが一般社会に台頭したが、当時の日本でのComputer概念は『電子計算機』であった。

 

『電子計算機』は今日でも法律的に通用するComputerの和訳である。

中国語社会では、これを『電脳機』と訳した。はるか昔にComputerを『電脳』とイメージした中国人の先見性はさすがである。

電子計算機という単語のイメージでは、インテリジェント工場やスマート工場を理解することは難しい。

 

『Computer=電脳』のイメージを持ってインダストリー4.0(I4.0)の世界を理解していく必要がある。具体的にI4.0が提唱する『スマート工場』を設計するには、用語の定義と理解が必要である。

I4.0に関する技術資料を含む多くの解説書で、Cyber(サイバー)、Physical(フィジカル)、Virtual(バーチャル)など多くの専門用語が使われているが、その用語の解説は少なく、使い方もバラバラである。

 

『スマート工場』の呼称も、中国では『インテリジェント工場』と表現される場合が多い。両者は概ね同じ意味で使われているが、この表現の曖昧性も問題である。

まず最初に、『スマート工場』と『インテリジェント工場』のコンセプトを明確化する必要がある。

 

前回のコラムで、第一次産業革命で“機械化”の1階建て。

第二次産業革命で“機械と電気”の2階建て。

第三次産業革命で“機械と電気とPC/PLC”の3階建て。

そして第四次産業革命は、仮想工業が増築される4階建て工場であることを提言した。

 

この3階建工場を『インテリジェント工場』、4階建工場を『スマート工場』と定義するのがわかりやすい。『インテリジェント工場』が増築され、『スマート工場』に発展する。

これからの目指す工場は、『スマート工場』である。

 

スマート工場の構築には、ベースとなる強力なインテリジェント工場が必須である。インテリジェント工場とは、電子計算機工場ではない。コンピュータによる知能化された電脳工場である。

 

日本には秀でたインテリジェント工場が数多く存在している。

70年代から日本が世界をリードした第三次産業革命は、PC/PLCを融合したインテリジェント化/オートメーション化への挑戦であった。

日本の工場では企業規模の大中小を問わず、CNC装置と融合した膨大な数のPC/PLCが稼働しており、今日も強い競争力を保有している。世界中どこを探しても、日本ほど進化したインテリジェント工場の集積国家を探すことはできない。

 

特に、中小製造業におけるこの傾向は顕著である。精密板金製造業界は中小製造業が主体であり、多くの熟練工を必要とする業界である。

この業界では非常に早い時期から多品種少量生産が常態化し、段取り作業の増大や熟練工不足が問題となっていた。

この解決のためにデジタル化が進行し、知能化が高度に進んでいる。

 

たとえば、鉄板を曲げていくベンディングという作業工程では、以前の熟練工に変わって曲げ順序をコンピュータが決定する人工知能の活用がなされ、ロボットによる無人運転も実現している。

大規模工場だけでなく、人々の生活する普通の街の一角にこのような電脳“町工場”が存在している国が日本である。

このように、日本で誕生したインテリジェント工場は、大別して4つの知能化(インテリジェント化)が実現した。知能化とは熟練工の仕事をコンピュータが変わって行うことである。

 

4つの知能化とは、

①段取りの知能化
②加工の知能化
③操作の知能化
④メンテナンス&フィードバックの知能化

である。

 

インテリジェント工場の実現により、PC/PLCを駆使し(熟練工に代わって)誰でも作業のできる工場が誕生した。人をロボットに変えることにも成功した。

これが第三次産業革命と言われる所以の一端である。

 

インテリジェント化による経営的効果は、段取り時間の大幅削減、不良削減、大きな生産性向上を実現した。

またオートメーション化による人員削減効果も絶大であったが、このイノベーションにより得られた最大の進化は技術・技能伝承の観点である。

かつては徒弟制度により、親方から弟子に伝承された技術・技能は、熟練工からコンピュータに伝承する事が可能であることが証明された。

 

技術伝承は差別化の源泉である。

このイノベーションが(ビックデータの時代を迎え)スマート工場で極めて重要になってくる。

 

インテリジェント化の革新は未来永劫も続くのだが、ここで今回の本論である“インテリジェント工場とスマート工場との違い”を考察してみたい。

結論からいうと、スマート工場とは人間(熟練工)を超越し、人間の能力を超える予知・予見を可能とする工場である。シミュレーションとネットワークが真髄であり、増築される4階と屋上の役割がここにある。

優れた熟練工の能力を超越し、人の能力では実現不可能な最適化を実現する4階建て工場が『スマート工場』である。インテリジェント工場が、熟練工の能力を超えなかったことと大きな違いがここにある。

 

スマート工場実現の手段として、大企業ではI4.0の新規設備工場として進めることも可能であるが、中小製造業では、現在まで投資してきた設備を大切にして、段階的に設備拡充することが現実的である。

イメージとして現在保有する設備(3階建工場)をベースに、4階に『仮想工場』、屋上にクラウドと世界に扉を開く『情報国際空港』を増築することである。

 

4階に増築する仮想工場とは、サイバー空間に作られるバーチャルな工場である。

バーチャル工場と現実工場の最大の違いは、時間の概念である。

仮想工場では時間を縮めたり伸ばしたり自由自在。何回でもトライすることが可能である。数時間かかる作業をほんの瞬間に行うこともできる。

 

これがシミュレーションであり、シミュレーションとは最適な答えを出すために何回でも、時には何億回でも実行し、最適な答えを導き出すことである。

この答えに従って、3階以下の現実工場で実際の作業を行う。

これが、I4.0で提唱されるCPS(Cyber Physical System)の概念である。

 

次回はCPSを深堀りし、更なる詳細設計概念の提言を行う。


株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。 http://a-tkg.com/