【インタビュー】シーメンス藤田社長兼CEO、DX推進に向けた組織へ 大きく変わるシーメンス
FA・制御機器の世界トップ企業であり、電力や鉄道、社会インフラ分野でも存在感を放つ世界最大の産業コングロマリット(企業体)であるシーメンス。
社会・産業のデジタルトランスフォーメーションの旗手として世界を牽引するなか、デジタル時代の本格展開を前に大きく組織を変更した。その狙いと日本事業について、藤田研一代表取締役社長兼CEOに話を聞いた。
シーメンス 代表取締役社長兼CEO 藤田研一氏
—— 2019年度の状況を教えて下さい
19年度(会計年度2018年10月-19年9月)は、グローバルでは成長の波に乗り、売上高は前年比5%増の868億ユーロ(約10兆4100億円)、受注は7%増の980億ユーロ(約11兆7600億円)で、純利益は56億ユーロ(約672億円)と前年度を下回ったが、世界経済低迷下で健闘した。20年度も1Qが過ぎ、順調に推移している。
—— 19年度は大きな組織変更がありました
当社も含め、世界的に「コングロマリットはどうあるべきか」の議論が盛んになっている。19年度はそのなかで会社のコアとは何か、将来の姿とは? という命題に取り組んできた。
まず、4月に社内カンパニー制を敷き、FAを中心としたデジタルトランスフォーメーションを担う「デジタルインダストリー事業」、都市部のインフラをデジタル技術で改善していく「スマートインフラストラクチャー事業」、エネルギー部門の「ガス&パワー事業」の3つの事業部に再編した。さらに、ガス&パワー事業をエネルギー事業を行う事業会社として20年9月までに「シーメンス エナジー」として各国で分社化し、本社を上場させる予定。再生可能エネルギーの戦略会社シーメンス・ガメサはシーメンスエナジーの傘下に入る。
将来のシーメンスの姿は、3つの独立した会社の集合体になるのではと考えている。1つは産業とインフラのデジタルトランスフォーメーションを担うシーメンス(本体)、2つ目はシーメンスヘルスケア、3つ目はシーメンス エナジー。事業ドメインごとに独立経営することによって、独自判断でスピード感をもって経営できるようになる。
—— それぞれの棲み分けは?
シーメンス エナジーが担うのは、発電所における発電から送電まで。変電所から先はシーメンス(本体)のスマートインフラストラクチャ事業の領域となる。
かつての電力のビジネスモデルは、巨大な発電所で大量に発電して各地域へ送電し、管理していた。しかし近年はDEMS(分散型電力マネジメントシステム)のように分散化がキーワードになっている。小さな単位で電力の動きをデジタル技術で集中監視し、自動配電や系統切替等の制御で停電を防ぎ、スマートメーターから集めたデータを解析してデマンドレスポンスの処理などが進んでいる。これらは都市のインフラ整備の1つであり、インフラへのデジタル技術の活用だ。
—— ハードウェア観点から事業の棲み分けを見ると分かりやすい。製造装置も、生産ラインも、工場・ビルも、都市や社会インフラも制御技術がベースにあり、使われているコンポーネンツやシステムも似ています。
シーメンス(本体)が進める産業と社会のデジタルトランスフォーメーションを実現するコア技術、すべてに共通する単語は「デジタル技術を使った制御」だ。当社は制御に必要な各種コンポーネンツから産業用IoT OS「Mindsphere」まで揃っている。
—— FAなどデジタルインダストリー事業についての状況は?
製造業でデジタルトランスフォーメーションは起きてはいるが、歩みは決して速くない印象だ。市場の関心は高く、引き合いも多くもらっている。それをどのように積み上げていくかが今年の課題であり、テストを重ねていくしかない。
ボトルネックは、デジタル技術をどう自社の付加価値につなげるかの答えを経営層がまだ見出せていないこと。今行われているのはボトムアップ型で、工場のある工程やラインで進めているに過ぎない。現場からの積み上げは日本企業の良い点ではあるが、もっと経営層が牽引する必要を感じる。
中国の新興企業は工場を作る時、はじめからフルデジタルを整備してくる。これは日本の製造業にとっては脅威になりうる。
—— 過去には中国の3D CAD普及は日本よりも早く、加工機等でも中国企業が最新鋭の機械を入れて技術力を一気に高めたこともありました。構図が似ています。
デジタルトランスフォーメーションといっても、CADデータやセンサデータなど解析できるデータが集まっていなければ始まらない。そのためには工場のハードウェアがデジタル対応し、データを取れる状態となっている必要がある。工場のデータ処理の基本はPLCやDCSを使った制御・コントロールシステムであり、データを送り出し、処理する設備を整備するには膨大な費用がかかる。
プラント関連ではずっと以前からDCSを使ってデータを収集して解析し、集中制御する仕組みが構築され、効率的な運用がされてきている。工場、ファクトリーでも同様に、工場の全体をつなげて集中管理するようなことを行っていく必要があるだろう。
—— 20年、デジタルインダストリー事業の取り組みは?
地道に製造業のデジタルトランスフォーメーションをどれだけできるかがカギだ。ボトムアップであったとしても、1つでも多くのプロジェクトを進めることが大切だ。代理店と当社の営業が一緒に動く協業も昨年同様に積極的に広く展開していく。
また他社とのパートナーシップに関しても、組めるところと組むことに変更はない。昨年11月にはオムロンの現場データ活用サービス「i-BELT」と当社の「Mindsphere」を連携して共同実証を行う発表をした。MindsphereはWindowsと同じようなOSであり、この上で各社が開発したアプリケーションが動く仕組み。たとえある領域で競合していたとしても、仲良く一緒にやっていけるのであれば手を組んでいきたい。
—— 今後について
分社化して組織が変わり、いかに日本でシーメンスブランドとして存在感を出していくか。ブランディングとガバナンス領域に課題を感じている。
分社化するとバックオフィス、人材育成などは各社の裁量になり、発想や教育が従来に比べて小ぶりになり、それによって弱くなる可能性がある。分社化したとは言え、シーメンスグループとしてのシナジーをどう出していくか、調整する必要がある。