【アフターコロナの製造業の働き方とDXを考える】富士通、生産準備もリモ...

【アフターコロナの製造業の働き方とDXを考える】富士通、生産準備もリモートワークで

生産準備支援ツール「VPS」無償提供

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言を受け、製造業のなかでも特に営業販売や管理などオフィス系業務でリモートワークが広がった。しかしその一方で、製品開発から生産準備、生産、保守といったいわゆる工場生産にまつわる業務は従来どおりのやり方で粛々と行われた。

コロナ禍を経て働き方改革の声が強まり、デジタル技術の活用やリモートワーク推進が加速するなか、工場生産系の業務も変わることができるのか? 

富士通とデジタルプロセスは、4月末から生産準備業務のリモート作業を可能にする「FUJITSU Manufacturing Industry Solution COLMINA(コルミナ)デジタル生産準備VPS」の無償提供を開始した。

VPS開発元のデジタルプロセスVPSビジネス部根本昭二部長に話を聞いた。

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デジタルプロセス VPSビジネス部 根本昭二部長

 

—— 緊急事態宣言によって製造業でもリモートワークが広がりました
 
製造業の多くの企業が在宅勤務を導入し、社員が出勤できないことによって事業が止まってしまったというお客さまもたくさん出てきている。
 
企業の事業継続の前には自然災害や火災、テロなどいろいろなリスクがあり、その対策としてBCP(事業継続計画)があるが、今回の新型コロナウイルスによって“出勤の脆弱性”にもリスクがあることに多くの企業が気づいた。

 

—— コロナ禍の前後で働き方は変わるのでしょうか?

コロナウイルスが広がる前の働き方は、オフィスへ出社し、客先に出向き、対面でコミュニケーションするのが当然だった。しかし現在は、在宅勤務でWEB会議等のオンラインでコミュニケーションになり、閉じた生活になっている。

これがアフターコロナになっても感染拡大前の状態に戻ることはないだろう。働く時間や場所は多様化し、三密を回避するような行動は継続され、デジタルを中心とした新しい行動様式になっていく。この影響は一過性のものではなく、継続すると考えている。それに応じた働き方を行っていく必要がある。

 

—— 働き方改革で業務のデジタル化が進み、さらに加速すると思われます。メリットは何なのでしょう?
 
これまでも言われてきた通り、手作業など現場のアナログ業務をデジタル業務に置き換えることで生産性が向上できる。さらにBCPの観点から言うと、事業継続と復旧のスピードが圧倒的に早くなる。
 
デジタル業務にすることでリモートワークが可能になる。今回のような出社困難となった場合、これまでのアナログ業務の時はすべての業務が止まり、復旧もイチから行わなければならなかったものが、デジタル業務に置き換えた場合は、出勤停止中でもある程度の業務を維持でき、復旧時も止めていたアナログ業務を戻せば良くなる。
 
新型コロナが発生する前から製造業では業務のデジタル化、デジタル変革いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進され、特に3Dデータを中心としたDXが叫ばれてきた。新型コロナウイルス発生前までは、DXが製造業企業にもたらす価値は「業務生産性の向上」が主だったが、コロナウイルス感染が広がるなかでDXは「事業継続」にも効果を発揮した。今後、感染拡大が収束したアフターコロナの時代になるとCPS(サイバーフィジカルシステム)へと高まっていくだろう。

 

—— 設計や生産技術、製造など工場生産に関する部門と業務は、オフィス系とは性質が異なります。それでも業務のデジタル化は可能なのでしょうか?
 
可能だ。一部のアナログ業務は残るが、多くをデジタル業務に置き換えることはできる。
 
例えば、生産に使う治具・工具の作成などリアルな現物を使わなければいけない業務は必ずアナログで残る。しかし生産ラインでどういった治具や工具、自動機が必要となり、それらをどうレイアウトすれば良いかといった工程設計はデジタルで、3Dデータを活用して行うことができる。
 
各部門の各業務でアナログとデジタルのそれぞれに適した業務に分けることができる。

 

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テレワークでのVPS活用

仕事のやり方、変えるチャンス

—— 4月末から生産準備業務をリモートで行える「VPS」の無償提供を開始しました

製品をどの順番でどう作業して組み立てるかのプロセスを検討して仮想試作ができる「VPS Manufacturing」と、どういった生産ラインを構築するか検証できる「VPS GP4」の無償提供を4月23日から始めた。
 
VPSは、製品設計が行われた後、それをどう効率的に作るかを考える試作と生産準備を支援するツールで、3Dデータを使って工場のレイアウトと人、モノ、設備を可視化して仮想試作と仮想ラインの検証ができる。さらに作業指示書や生産BOMなど帳票の生成機能も備え、試作と生産準備、量産試作の期間を大きく短縮することができる。

1999年に提供を開始し、これまでに850社5200ライセンス以上が使われている。電子機器、精密機器メーカーにはじまり、今では自動車、自動車部品、産業機械、医療機器メーカーでも採用されている。
 
今回、リモートワークにおける情報漏洩リスクを低減するためにVPSデータを暗号化する「VPSデータプロテクト」も無償提供している。7月末まで使えるので、ぜひ試してみてほしい。

 

—— 反応はいかがですか?
 
おかげさまで、想像以上のお客さまから使ってみたいという申請をいただいた。すでにVPSを使っているお客さまの比率が高いが、初めて使うという人も3割ほどいた。

VPS ManufacturingとVPS GP4の2つのツールで治具・工具作成などを除く、生産技術部門の生産準備業務の多くをカバーでき、汎用的なノートパソコンのスペックで動かすこともでき、今のところ反応は上々。「仕事のやり方を変えるチャンスだ」という声もいただいている。

 

—— 今後について
 
アフターコロナになっても以前と同じ状態には戻らないだろう。生産準備のやり方も変わっていく。そのなかでVPSを使って業務効率化、事業継続性を強化し、さらにCPSまで発展させていって価値向上の一助になれればうれしい。
 
またデジタルでできる仕事の幅はかなり広がっているが、まだDXに取り組めていない企業は多い。富士通は、生産準備も含めて設計から製造、保守サービスまで一貫してものづくりをスマート化し、DXを進めていくためのプラットフォーム「COLMINA(コルミナ)」を提供している。アフターコロナで製造業での働き方やビジネスが変わるなか、企業のDX推進を支援していきたい。


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。趣味は釣りとダーツ。