『工場長左右田喜八のつぼやき』喜八、累積債務に物申す
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出荷が無事に完了して、製品倉庫の中に大きな空きができるとホッとした気持ちになる。
たとえは下品だが朝のお勤めみたいなもんで、ちゃんと予定通りに出るとスッキリするのだ。
これがいつまでも在庫で溜まっているのは糞詰まりの如しで、まことに気分がよろしくない。
在庫というのは、メーカーにとっていつも頭を悩ませる厄介物だ。
理想としては、物が工場の中にある限り、常に価値を生んでいる状態。つまり在庫ゼロにしておきたい。
ところが現実には売れるのを見込んで作り溜めをしたりするので、そんなわけにもいかない。
うちでも多い時は倉庫に入りきらず、駐車場にテントを張った仮設の倉庫ですら満杯になったことがある。
知らない人が見たら、とんでもないムダと仰天したかもしれない。
もちろんそれだけの量が全く動かないとなれば、莫大な費用負担となるけれど。
これはねえ……、例えば間近ででっかい相撲取りを見たら、そりゃあ圧倒されるだろう。
食いっぷりも凄まじい、けれどだれも太り過ぎを心配したりしない。
食う以上に激しい稽古をするからだ。
よく食ってよく稽古する。それを繰り返して強い力士になっていくわけだ。
在庫も同じことでね。
どんなに大きく膨らんでも、毎日どれだけ増えてどれだけ使われているか。
つまり在庫の中で入りと出がちゃんと回転していれば、ビクビクする必要はない。
生産も出荷も、予定通りひと月後にはきれいさっぱりはけることができたし、ちゃんと利益も出した。
それを在庫はムダだからと、バカのひとつ覚えで手当たり次第処分してごらん。
とたんに欠品や納期遅れのオンパレードになる。
そりゃそうさ、生産能力が不足していたり部品が手に入りにくかったら、できるだけ作り置きしておかなきゃお客さんに迷惑をかけてしまう。
在庫よりその方が問題だ。
最近、在庫とちょっと似てるなあと思うことがある。
国の借金だ。それが1000兆になんなんとして、こりゃ早く減らさなきゃヤバイってみんな恐怖におののいている。
それどうも引っ掛かるんだな。
借金の大きさよりも、その中がちゃんと回転してるかどうか、それが一番重要なんじゃないの?
どんなに在庫が多くても、売上げが伸びていればそれほど心配はいらない。
どんなに太った力士でも、稽古をどんどんやればきっと出世するだろう。
どんなに借金が多くても、経済が成長していれば税収が増えて返済できる。
見た目のデカさに驚く前に中身をチェックしよう。
売れる見込みのない製品を作って、在庫になってしまったらこれは動かない。
ぜい肉となっていつまでも残って、要するにメタボだ。
そうならないように売れ筋をしっかり見極めて、本当に売れる製品だけをムダなく効率的に作らなくちゃいけない。
国の財政だって、本当に必要なところだけに金をかけるようでなくちゃ、余計な借金が増えるばかりだ。
金を扱う経理なんていうのは、渋ちんで融通がきかない。
だがそれで良い、財務省も同じ。
ムダをなくして渋ちんから金を出させるのは、オレたち亭主……じゃなくて管理者の仕事。
管理者が改善を推進するのは、ムダをなくして技術革新とか環境保全とか本当に必要なことに金を使いたいからだ。
借金を減らすならまず、本気で歳出のムダを省かなければウソだ。
そういう動きが全然見えないのは、要するに危機感なんて口先だけでハナからやる気がないんだな。
そう言えば……、我が家の冷蔵庫には、何にするつもりだったのか訳のわからん食材がいつまでも残っておる。
中には色が変わって臭うものもある。
考えてみるとあれもムダな在庫だ…。
エラそうに他人のことは言えん……。
出典:『工場長左右田喜八のつぼやき』面白狩り(おもしろがり)