『工場長左右田喜八のつぼやき』喜八、円高に開き直る
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資材倉庫……。以前は人の出入りも多くゴチャゴチャしていた。
それをみんなで先入れ先出しや配膳の改善を進めて、今はすっきりとしてきた。
だが、長期間使われずに残っている部品があるかと思えば、必要なときにない部品もある。
まるで我が家の冷蔵庫のようだ……。
資材の手配はまだ問題が多い。
資材調達の基本は、使うあてのない余計なものは買わないことだ。
値段の安さに惹かれて何かに使えるだろうと買い置きしても、ほとんどが長期の在庫になって処分しなければならなくなる。
必要なものを必要なときに必要なだけ……。
当り前のことだが、資材費を抑えたいならこれが大前提だ。
ただ、今は円高で輸入材料の価格が下がって、部品ももっと安くなっているはずだ。
ところが思ったほどの値下げになっていない。
話を聞くと、原油や金属といった工業材は輸出元の外国で高くなっているために安くならんのだと。
円高の恩恵なんてないと考えた方が良い。
一方で輸出の多い企業は円高は大きな打撃だから、うちみたいな中小零細の取引先に容赦なく値下げ要求をしてくる。
資材費はもうギリギリだし経費節減はたかが知れている、となると後はもう人件費削減しかないのだが……。
はっきり言って人減らしするしかないんだったら、うちの会社もお終いと思った方が良い。
オレはそう思う。
青二才の頃はオレも金もうけが会社のすべてと思っていた。
給料が増えるのは理屈抜きでうれしかったもんだ。
だが、職長になって部下ができると、みんなのうれしそうな顔を見るのがなによりの気分になった。
部下が増えれば増えるほど、そっちの方が気分が良い……。
そこがミソなんだ。
みんなの給料が増えれば消費が増える、そうなれば世の中景気が良くなっていく。
会社っていうのはみんなが豊かになるためにあるんじゃないか?
そう考えると、人が余ったからさっさと辞めさせるってのはどうも本当の経営とは違うんじゃないかと思うんだよ。
ま、つぶれちゃっちゃあ、元も子もないが……。
利益を出すためにコスト削減は必須だとしても、その手段がリストラしか思い浮かばないのは、理念のない無能な経営者としか言いようがない。
どんなに苦しくてもこいつらの生活を守るためになんとかするのが本当の経営じゃないか?
とはいえ、円高はまだまだ続く……。
オレがガキの頃は1ドル360円と決まっていた。
ニクソンショックの後、円は変動相場制となり互いの国の経済力に見合った通貨価値になるようになった。
急激な円高なんてそれ以来ずっと続いていて、今に始まったことじゃない。
要するに、アメリカ経済が力をなくして、その実力に見合った価値になるまでこれは続くってことだ。
1ドル70円? いや60円50円だってあるかも……。
円高は当り前のことと腹を括るしかない。
ジタバタしてもムダってのは、こんな経済シロウトのおいぼれにだってわかる。
よく見るがいい。円高円高と大騒ぎするのは、官僚や財界のおエライさんとその御用学者ばかりだ。
マスコミがそれをまた大々的にニュースにするもんだから、みんな萎縮してますます景気が悪くなる。
何度でも言う。円高はこれからも続くのだ。
必要以上の不安を煽るより、やるべきことがあるんじゃないのか。
大きな会社は楽だよ。一時しのぎの為替介入をやってもらいながら、下請けにゃムリな値下げをさせていざとなりゃ大量のリストラ。
だが、その受け皿になるのは結局オレたち中小企業だよ。
これまで凄まじい円高を生き残ってこれたのは、オレたちの犠牲があったからだ。
そこんとこ国はわかってるのかねぇ……。
おエライさんみたいに泣きごとを並べているヒマがあったら、みんなで知恵を出してこの苦境を乗り切るしかない。
それしかないのだ……。
知恵がないなら、クソして寝ろ。
出典:『工場長左右田喜八のつぼやき』面白狩り(おもしろがり)