『工場長左右田喜八のつぼやき』プロローグ
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別に新聞を眺めていて会社がもうかるわけでもないが、なんとかならんかこの不景気……。
こういつまでたっても円高だ、デフレだ、財政危機だどうのこうのばかりだと、気が滅入って気力がなくなる。
だからもうからないって言ってもしょうがないが、少しは景気が良くなる話がないものか……。
なに? 今どき紙の新聞なんてダサいだと? スマホで最新情報をゲットする時代だと?
ふん、時代遅れで悪かったな、暇さえありゃゲームしかやらない奴に言われたかないね。
大きな紙面の方が全体が見えて読みやすいんだ、大きなお世話だ放っといてくれ。
ああそうさ、オレなんて所詮はしがない中小企業の工場長。
工業高校しか出てないし、日本経済がどうの政治がどうの難しいことはようわからん。
だが、こう不景気が続いて会社の業績も一向に上向かないとなると、一体なにがどうなってるのか少しは知っとかないと話にならんのだ。
中小企業でも工場長なら立派な経営幹部だって?
ふん、長が付いて偉いのは社長だけさ。
お上に気を遣いながら工場という現場を取り仕切って利益を上げなくちゃいかん。
責任だけは目一杯持たされるが、それに見合った給料かっていうと微妙なところだな……。
要するに中間管理職の最終形……。
IT化の世の中だというのにまだペーパーレスじゃないって笑う奴は、実際の現場を見たことがないんだ。
ノートパソコンやタブレット端末だらけなんてテレビCMのような職場にするのにどれだけ金がかかると思っているんだ?
そもそも紙を使うかどうかの問題ではない、業務が効率的になりさえすればやり方はなんでも良いのだ。
余計な設備投資をせずに済む方が良い、そう思わんか?
これが効率的とは思わんが、他の奴に任すわけにもいかん。
はたからはただハンコを押しているだけに見えても、大切なことを見落とさないように気合いを入れて読んでいるんだ。
大きな金がからむこともあるからな。
ただなあ……字は下手くそでも良い、頼むから読める字でまともな日本語の文章を書いてくれ。
それが効率が悪いと言うんだ。
ふぅ、終わった……。
今日は……特に重要な会議もないし来客の予定もない……。
新聞はもういい……さりとてパソコンをいじる気にもなれん。
現場で手を動かしていた方が気が楽だが、そういうわけにはいかん。
そんなことしたら単価が高くなってしまう。
だが、机でボーっとしているくらいなら現場に行った方が良い。
なんでもバーチャルなご時世では理解できないだろうよ、この古臭い職工気質……。
現場で機械の音を聞き油のにおいを嗅ぎ、若い連中の働く姿を見ているとやる気が出てくるのさ。
もっと良い工場にならんかなあってな。
現場をひと回りするのは、工場長として現状を把握し問題意識を切らさないためだ。
それにデスクワークだけだと1日1000歩も歩かない、健康診断に引っ掛かるのも当り前の話だ。
さて、今日はどこから見ていこうか……。
出典:『工場長左右田喜八のつぼやき』面白狩り(おもしろがり)