「CC-Link IE TSN」の衝撃

「CC-Link IE TSN」の衝撃

CC-Link IE TSNの発表はあらゆる面で衝撃的だった。将来有望だが、規格としてはまだ100%固まっていないTSNに賛同し、率先して対応を決めた。これまでの日本ではあり得なかった決断だ。

日本はデジタル戦略でドイツやアメリカに先行を許し、主要な生産拠点は中国やASEANに移った。一部の製品や技術では韓国や台湾などが猛追してきている。手をこまねいていたらすぐに脱落する。

そんな危機的状況のなか、リスクを取ってもスマート工場へチャレンジをする姿勢は見事だ。やはり日本の製造業には攻めの姿勢が似合う。

 

▼これまでの産業ネットワークの戦略は、単独の規格でネットワークを構築し、囲い込んでいくのが常だった。しかしTSNは他のネットワークと混在できる技術で、そもそもの思想がオープン。これまでの方向性と180度変わる。

また現場では既存のネットワークも健在で、安定して動いている。そこに対して波風を起こすリスクは大きい。それでもユーザーが切望してきた、簡単で安く、安定して運用できるオープンなネットワークを選んだ。

リスクを取ることになってもユーザーや市場に向き合う決断は賞賛に値する。とはいえ、まだスタート地点に立ったにすぎない。この決断が英断になるか、失敗に終わるかは、これからの活動にかかっている。

 

▼CC-LinkやMECHATROLINKは、日本発の産業ネットワーク規格としてアジアで広く使われている。世界のトレンドがスマート工場、デジタル製造へと傾き、その市場が大きくなるなか、通信インフラとなるネットワーク技術を持っていることは大きな強みだ。

しかし「コネクテッド・インダストリーズ」を掲げ、日本の製造業を元気にしようと豪語している国や経産省がこれらを保護し、普及の後押しをしているという話は聞こえてこない。あるネットワーク企業は「もしこれがドイツや中国だったらバックアップするために全力を注いでいるだろう。日本はそうした支援も視点もないのがとても残念だ」と憤る。

多くの雇用を創出し、GDPを押し上げ、外貨を獲得している産業は製造業だ。産業を振興し、将来の稼ぎ口を作るのが国の役目である。国が今やるべきことは製造業の育成である。


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。趣味は釣りとダーツ。