「気を付けます」で終わらせない
現場ではPDCAのCとAが機能していますか?
1.「今度から気をつけます。」
中小現場の管理者時代の話です。
作業者A君の言葉が、原材料となるφ20で長さが5,000ほどの棒鋼の束を天井クレーンで移動させる作業中、その束を周囲の設備に誤ってぶつけたことがありました。
設備を囲っている外壁の塗装にこすった跡がついた程度で、実害がなかったのは不幸中の幸いでした。
1件の重大な事故・災害の裏には29件の軽微な事故・災害あり300件のヒアリ・ハットがある。
有名なハインリッヒの法則です。
先のA君のは「軽微な事故・災害」に分類されます。
しっかりチェックして、対応を促さないとなりません。
このときもA君に事情を聞きました。
本人としては慎重にやったつもりだったようですが、“不注意”でぶつけてしまったと。
「今度から気をつけます。」
今後は気をつけたいというA君の言葉でした。
また、現場リーダーにも話を聞くと、実はA君の操作状況に不安があったとのこと。
原材料を積んでいる棚から束を引き上げ、加工装置の方へ移動させるときの操作が安定せず、棒鋼の束を大きく揺らすことがしばしばあったらしいのです。
他のメンバーは、クレーン操作の勘所を押さえて、振幅を大きくさせることなく束を移動させていました。
したがって、クレーン操作が個人の技量に任されていたところに、A君の起こした軽微な事故の根本原因があったと考えられます。
早速、一連の操作の手順を定めて、勘所も明らかにして、全員が同じ作業ができるようにしました。
理想は、クレーンが決められた操作以外では動かないよう、機械的な観点から対応するのが理想ですが……。
まずは、手順の「標準」です。
「標準」があって初めて、「現状」と比べることができます。
差異がないように配慮すればいいのです。
2.標準がなければ気合の問題にすり替わる
「標準」が無いのに、「気をつけます」だけでは、心持ちだけの話に留まります。
いわゆる、精神論、気合の問題にすり替わるのです。
具体的に何をどうすればいいのか言った本人も分かっていませんでした。
そこで、「標準」を設定し、比べる対象を明らかにしたのです。
ここで、初めて仕事の話になります。
その後は、A君の操作も安定し、束を装置にぶつけるような事態を起こすことはなくなりました。
クレーンによる搬送という特定の作業に関した話ですが、チェックできる仕組みがなければ問題点が顕在化しないのです。
そして、チェックをするには、「比べる」ものがなければなりません。
弊社では生産性向上の取り組みの進め方を現場の方々に説明することがあります。
いわゆる、PDCAを回す話です。
仕組みをやルールを作っても、それらを回し続けられないという問題に直面することはありませんか?
最大の原因はチェックにあると考えています。
プランを立て、行動を開始するところまでいいのです。
しかし、その後のチェック、つまり弊社でしばしば言うところのフォローと評価が抜けているのです。
こうした場合、結果と「比べる」ものがはっきりしていません。
行動の結果がうやむやに扱われ、取り組み自体が知らないうちに霧散霧消となります。
先の事例でも、クレーン操作の「標準」が無ければ、A君にとって「比べる」対象がなく、手探りとなります。
したがって、現場で自律的にPDCAを回すことができません。
A君も自分のできる範囲内で「気をつける」ことしかできなかったのです。
生産性向上、安全、品質、あらゆる現場活動では、「気をつけます。」という言葉で終わらせないことです。
常にフォローと評価ができるよう、「くらべる」判断基準を明らかにしておかねばなりません。
3.アマゾンがPDCAを回し尽すのにこだわる理由
PDCAを回すことに関して、とても興味深い2018/05/28付FORBES JAPANの記事がありました。
「次から気をつけます」は「改善」ではない──アマゾンのPDCA管理術
アマゾンではPDCAを回し尽くすそうです。
アマゾンジャパン17番目の社員として2000年から同社の成長に貢献した佐藤将之氏は、日本の会社とアマゾンジャパンの働き方で一番違いを感じた点を次のように語っています。
アマゾンでは社員のあらゆる行動を「メトリックス(KPI)=数字」によって測り、徹底したPDCAサイクルを回しています。
Amazonの場合、きちんと「確認(Check)」がなされるから、本当にサイクルが回るんです。
私が見た限り、日本企業の多くはPDCAの「確認(Check)」と「改善(Act)」がおざなりになっています。
これは評価される人材の定義が、日本の企業とアマゾンでは全く異なるからです。
日本で評価されるビジネスパーソンの多くは、「計画(Plan)」と「行動(Do)」に長けている、つまり綺麗な計画書を書いて周りに作業を振るのが上手い人ですよね。
ですが、それをカタチにする下請けの作業はブラックボックスになっており、ブラック労働の温床になっています。
アマゾンで評価されるのは、PDCAサイクルを高速で回し、「数字」で結果を出せるメンバーです。
社内のあらゆる要素が数値化されているのは、「改善」を効率よく繰り返すためにほかなりません。
4.アマゾンでは数値化、私たちは標準化
アマゾンではあらゆる行動を数値化することで確認(C)と改善(A)を可能にしているのです。
「比べる」ものがなければ、確認もできず、ましてや的確な改善は望むべくもありません。
日本人は計画と行動に長けているけども、確認と改善にまだまだ未熟なところがあるとの指摘は的を射ています。
計画して行動した後は、フォローと評価が欠かせません。
比べる基準を事前に準備しておいて、確認して、改善へ進めなければ問題解決に至らず、あらゆることがうやむやに終わるのです。
アマゾンで徹底的に“数字”にこだわっているのは、この確認(C)と改善(A)までをしっかりと回したいからです。
私たちも同じです。
アマゾンが“数字”にこだわるのと同じように“標準”にこだわります。
“標準”こそが、モノづくり現場での比べる基準であり、改善活動のよりどころです。
比べるものなくして改善活動はあり得ません。
「カイゼン」の著者、今井正明氏は次のように断言しています。
「標準のないところにカイゼンはない。いかなるカイゼンにおいても、その出発点は、現在の立脚点である。」
最初から標準があったら、A君のコメントは「気をつけます。」ではなく、「標準を学び直します。」でした。
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