【失敗しない!中国ものづくり|第4回】「機能するから問題ない」の品質感...

2018/12/7 ロジ

【失敗しない!中国ものづくり|第4回】「機能するから問題ない」の品質感覚

これまでの連載記事
第1回:『中国での不良品やトラブルの原因は60%日本人にあり
第2回:『中国人の「問題ない」に潜む3つの意味
第3回:『勝手に変更される金型

 

先回のコラムでは、中国人が日常の会話でよく使う「没問題(問題ない)」という言葉に、中国人の国民性をよく表す別の意味も含まれていることについてお伝えしました。

今回は私たちが部品メーカーや自分の職場の人に対して「ここをもう少し改善したい。」と依頼したときに、「機能するから問題ない」と言われ対応してもらえない場合の対処法についてお伝えします。

まずは私が中国に駐在していたときの印象に残る2つの事例についてお伝えいたします。

ホワイトボードは書ければ良い

私の会社で職場の移動があり、私がその担当をしていたときのことです。新しい会議室をいくつか作り、それらの会議室の壁にはペンキが新しく塗られとても綺麗でした。そしてその会議室に、壁に直接取り付けるタイプの大型のホワイトボードを設置することになりました。

私と日本語通訳の庶務の女性の立ち合いのもと、業者が設置を始めました。ホワイトボードを壁に掛けるフックをまず壁に取り付けます。そのフックを壁に固定するためのビス用の下穴を、ドリルで壁に開けていたときのことでした。フックは4個必要であり、1つのフックは2本のビスで固定されます。ビスはM5くらいのやや大きめのビスでした。終盤の7個目の下穴をドリルで開けようとしたところ、その壁の裏には鉄のフレームが入っており、業者のドリルでは硬くて下穴が開けられませんでした。

鉄のフレームを避けるためには、ホワイトボードを横もしくは高さ方向に10cmほどずらす必要がありました。しかし鉄のフレームは横方向に取り付いていたらしく、横方向にずらすことはできず、高さ方向にずらした位置に別の下穴を開けることになりました。ホワイトボードを上方向にずらせば、既に開けてしまった6個の下穴はホワイトボードに隠れて見えなくなってしまうのですが、背の低い人にはホワイトボードの高い範囲に書けなくなってしまいます。よって、下方向にずらすことになりました。

図1 ホワイトボードを下方向に移動して見えてしまった下穴

図1 ホワイトボードを下方向に移動して見えてしまった下穴

 

ところが下方向に移動すると既に開けてしまった6個の下穴が完全に見えてしまい、塗りたての綺麗な壁がこれら6個の下穴で黒く汚れた感じに見えてしまったのです。そこで私は庶務の女性に、「パテで穴を埋めて綺麗にして、と言ってください。」とお願いしました。するとその庶務の女性は、その私の依頼を設置業者に伝えるまでもない口調で、「そんなの気にしていたら中国で仕事できないよ!」と声高に言ったのでした。

機能すれば、見えない部品のバリは気にしない

私が設計経験の浅いある若者に設計指導をしていたときのことです。彼はプロジェクターの内部の部品を設計しており、あるとき新規の金型で成型した最初の部品が成型メーカーから送られてきました。彼はその部品を他の部品と嵌合させたりし、問題点の洗い出しをしていました。私もその部品を手に取り問題点を確認していたところバリが多く出ていたので、彼に対して「このバリは無くしておいてね。」と言いました。ところが彼は「この部品はプロジェクターの中の部品で、見えないから問題ない。」と返答しました。私は「このバリは簡単に無くすことができるから、成型メーカーに依頼して。」と言いましたが、「部品は機能するから問題ない。」と言い張り、バリを問題点と認識しようとはしないのでした。さらに私は、「バリは部品の量産が始まると次第に大きくなり問題となる場合があるので、今のうちに無くすよう修正しておいた方が良い。」と説明しても、「機能するから、見えないから問題ない」の一点張りでした。

図2 「機能するから問題ない」と主張する職場の若者

図2 「機能するから問題ない」と主張する職場の若者

 

機能するから問題ない

上述の2つの例で共通していえることは「機能するから問題ない」ということです。これらは職場内での出来事でしたが、部品メーカーとのやりとりにおいてもこのようなことは頻繁に起こります。

私が部品メーカーに部品の修正を依頼したとき、その部品メーカーの担当者がその部品の使い方を知っていると、その担当者は「機能するから、その変更は必要ない。」と主張し、変更の必要性の話し合いが始まる場合が多くあります。こちらも過剰品質を要求している場合もあるので、それはありがたく受け入れて再検討をする必要があります。しかし、ときには担当者の顔に「面倒な仕事は減らしたい。」という意図が滲みでている場合も多々あります。

怠ってはいけない変更の必要性の説明

私はこのような話になりかけたとき、必ず心掛けていることがあります。それは「必要性の丁寧な説明」です。以下は私が実際に何度も使っていた言葉です。

図3 変更の必要性を丁寧に説明する

図3 変更の必要性を丁寧に説明する

 

「今、あなたはソニーの部品を作っています。ソニーの製品は中国でとても人気があり、多くの人が購入しています。その理由は1個1個の部品の品質がとても良いからです。だからあなたはこのバリを無くす必要があるのです。」

やや強引な言い回しかもしれませんが、たいていの場合はこれで担当者は納得して、私の依頼を引き受けてくれます。

品質に対する価値観の違い

ここまでお伝えしたように品質の対する価値観は、中国人と日本人とでは明らかに違います。「機能するから問題ない。」と言う中国人と、「機能は果たして当たり前、さらにより良い部品にしたい。」とい言う日本人の差です。日本人の品質の考え方は、ときには過剰品質と言われるかもしれませんが、必要であればその説明を中国の部品メーカーにしっかりしなければなりません。その必要性の説明をせずして、日本と同等の品質の部品を作ってくれない中国の部品メーカーに対し「品質は悪い」と非難することは決してあってはなりません。

 

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ソニー(株)に29年間在籍し、メカ設計者としてモニターやプロジェクター、プリンターの合計15モデルの商品化を行う。ソニー退職直前には駐在を含み7年間わたって中国でのモノづくりに携わり、約30社の中国メーカーで現地部品の立ち上げと、それに伴う製造現場の品質指導を行う。このときに、中国で発生する不良品やトラブルの60%は日本人の設計者に原因があることが分かり、その対応方法を広く伝えるべくソニーを退社し、2017年に「中国不良ゼロ設計相談所」ロジを設立する。 専門領域:CAD設計、商品化技術ノウハウ、冷却技術、防塵技術、部品メーカー品質指導ノウハウ、中国メーカーとのコミュニケーションノウハウ