「国際ロボット展2019」レポート、いよいよ活用 具体的段階へ
主役はシステム・アプリケーション
周辺機器の展示も充実
2019年12月18日から21日の4日間にかけて行われた「国際ロボット展2019(IREX)」。
東京オリンピック・パラリンピックの準備の影響で東京ビッグサイト西・南ホールと青海会場の2会場での分散開催という逆風にも関わらず、前回17年の13万480人を1万人以上上回る14万1133人が来場し、盛況裡に終了した。
年々ロボット需要が高まるなか、今回はどんなトレンドが見てとれたのかをレポートする。
■15年・17年振り返る
話題は協働ロボット
「ロボット新戦略」でロボット産業への期待が一気に高まるなかで行われた2015年。最も話題を集めたのは「協働ロボット」だった。
先行していたユニバーサルロボットに加え、ファナック、KUKA、ABB、川崎重工業、カワダロボティクスなどが協働ロボットを開発・出品して注目を集めた。
2017年はIoTが話題になった年で、ファナックのFIELDシステムをはじめとするIoTプラットフォームに注目が集まった。それでも安川電機のMOTOMAN HC10、デンソーウェーブのCOBOTTAなど、主要メーカーの協働ロボットが出そろい、15年時点では懐疑的な見方も残っていた協働ロボットだが、17年には主要メーカーが出そろって一気にトレンドになった。
また17年時点ではロボットメーカーとロボット本体に注目が集まり、ロボット産業としての熟成はまだまだ。システムインテグレーターや周辺機器を含めたロボットシステムへの理解度は低く、本格導入に向けた検討はこれからという状況だった。
■19年総括
ロボットSI存在感
ロボットとIoT、自動化、スマートファクトリー等の認識がだいぶ深まるなかで迎えた19年の国際ロボット展。今回の主役は「ロボットシステムとアプリケーション」。ロボット本体のスペック等ではなく、ロボットを使って何ができるのか、何を行うのかといったロボットシステムの展示や、そこに必要なハンドやセンサといった周辺機器の展示が充実し、いよいよPOCから具体的な導入検討段階に入り、提案フェーズに入っていることがうかがえた。
特に昨年発足したFA・ロボットシステムインテグレーター協会(SIer協会)の会員企業を中心としたロボットシステムインテグレーター(ロボットSI)各社のブースは、各社が得意とする領域のロボットシステムを組んで展示し、存在感を発揮した。ロボットができること、ロボットシステムを構築する際にはロボットSIが必要であるということをアピールし、来場者のロボット業界への理解を深めるのに大きな役割を果たした。
■■注目トレンド■■
1. ロボットメーカー、始めやすさ・使いやすさの技術強調
ロボットメーカー各社の共通テーマは「いかに簡単にロボット活用をスタートでき、安全安心に運用できるか」。協働ロボットを中心に、これまでロボットを使ったことがない層に向けての提案が多くを占めた。
例えば、三菱電機は開発中でまもなく発売と噂される初の協働ロボット「MELFA ASSISTA」を披露。エリアセンサと組み合わせた柵なしでの安全運用や、障害物を「よける」先進技術、アームの手首に安全センサを取り付けて手先指先から作業者を守るような、人との共存のテーマ展示が行われた。
ファナックは協働ロボットの新製品「CRX-10iA」を発表。産業用ロボットの延長線上にあった従来の協働ロボットからデザインを一新。丸みを帯びてより身近に感じ、挟まれ事故を防ぐ構造にもなっている。10キロ可搬で、手に持ってティーチングできるダイレクトティーチングにも対応。工作機械へのワーク投入・取り出しの準備デモで使いやすさをアピールしていた。
2. 緻密な作業や熟練技術をロボットで可能にする技術
労働力不足と熟練技術者の引退で技術承継が課題となるなか、熟練作業者の技をどうロボットで可能にするかといった課題に対する解決策も多く見られた。
微妙な力加減や動きをロボットに再現させる技術として欠かせない力覚センサ。各所で力覚センサを使ったデモが行われていた。中でもロボットメーカーでもあり、力覚センサメーカーでもあるセイコーエプソンはデモに注力。電子基板上のコネクタにFFCや同軸ケーブルを精密挿入するデモや、ローラーの押し当て力を制御しながら行う塗装デモ等で注目を集めた。
また川崎重工業は前回も出展していた遠隔操作・技能伝承ユニット「Succesor(サクセサー)」の新バージョンを展示。遠隔操作で熟練技術者の技をロボットに教え込ませた後、今度は逆にロボットが操作コントローラに熟練技術者の技をフィードバックし、若手技術者が微妙な力加減や動きをコントローラを通じて覚えることができるユニットで、研削や精密嵌合の体感デモを行っていた。
不二越も「匠の技 学習システム」を展示。作業員のアナログの動きをデジタルデータ化し、ロボットプログラム化して再現できるシステムで、ティーチングではない、新しいロボット・プログラミングを提案していた。
3. FA・ロボットの統合制御 システム化を容易に
ロボットメーカーのもうひとつの動きで注目が「ロボットとFAの統合制御」。これまでロボットはロボットコントローラ、FAはPLCと制御が別々だったが、今回は主要各社がロボットとFA機器を統合してコントロールできる技術を続々と出してきた。
ロボットをシステム化する際はビジョンやセンサ、搬送機器などFA機器との連携が不可欠で、コントローラのハードウエアスペックの進化やソフトPLCの流行などを受けて、各社がいよいよ1つのコントローラでロボットシステム(FA+ロボット)に乗り出してきた。
もともと統合制御はヤマハ発動機が最初だったが、今回の展示会ではオムロン、デンソーウェーブ、ダイヘン等が統合制御コントローラを出していた。中でもデンソーウェーブはドイツの制御機器メーカー・ベッコフオートメーションのIPCにソフトウエア化したロボットコントローラを組み込んで提供するという画期的な商品サービスを開発。よりオープン性を高めてFA機器との接続性や連動性を高められるとしている。
またオムロンは、長年培ったFA機器にロボットを取り込む形で統合化を進めている。ロボットもフィールドコンポーネンツのひとつとして取り扱えるようなコントローラを展示していた。
4. ハンド・チャックの進化
今回はハンド・チャックの新製品や新規参入メーカーが目立ったのも印象的だった。これまでハンドやチャックはロボットSIがカスタムすることが多かったが、協働ロボットの盛り上がりに合わせて、協働ロボット専用の汎用ハンドを開発するメーカーが増え、分野として大変にぎやかになってきた。
シナノケンシ(ASPINA)は中空式で爪が交換できる小型ロボットハンドを展示。OnRobotはグローバルではユニバーサルロボット向けに多く使われているハンドとして有名なメーカーだが、このたび日本法人を開設し、日本市場に本格参入した。
このほか真空機器のシュマルツは、電源のみで真空が発生できる小型ポンプの新製品を発表。ユニークなところでは手袋メーカーの東和コーポレーションはロボットハンドが着ける手袋を出品し、手袋を通じてロボットハンドの滑りにくさ向上や耐油性などの付加価値が付けられることを提案していた。
またハンド・チャックの進化の注目ポイントとして、ロボットメーカーによるロボットハンドのプラグ&プレイ等の開始と準備。ユニバーサルロボットはUR+で周辺機器とのシームレスな接続・制御の仕組みをいち早く開始していたが、今回、ファナック「CRX-10iA」では周辺機器のソフトをプラグインとして追加することで設定画面の表示や専用命令の実行を可能とし、三菱電機は本体とハンドの継手部分の接続性を改善した。
5. モバイルロボットが定着
会場内で目立ったのがモバイルロボット。搬送の自動化だけでなく、ロボットアームと組み合わせてピッキングや場所を移動しての作業、さらには作業自体を変更して助っ人としてフレキシブルに動いて生産性を上げていくといったデモが行われた。
安川電機は、ブースの中央にモバイルロボット+協働ロボット、固定式の協働ロボットなどを組み合わせた全自動化工程を展示。状況に応じてロボットが場所や作業を変更するなどフレキシブルな生産も見て取れた。
オムロンは人と協働ロボット、モバイルロボット、自動機が連携した製造工程をデモ。また主要ロボットメーカーとしては唯一、自社製品としてモバイルロボットを取り扱っており、モバイルロボットのみの導入・活用提案や操作・設定デモなどが人気だった。
6. 海外メーカーが逆進出
日本はロボットメーカーがひしめくロボット大国だが、逆に外からの新規参入として海外ロボットメーカーの新顔が出てきていた。住友商事マシネックスが国内総代理店となって日本進出を果たしたのが韓国メーカーのDOOSAN ROBOTICS。協働ロボット専業メーカーで、すでに世界15カ国に展開しているという。
中国メーカーのQKM。スカラロボットを中心に中国国内で展開し、国内販売台数ではトップクラスだという。サーボモーター、減速機、ケーブルなど主要部品は日本製品を使うことで信頼性を高めており、ロボット大国であり、厳しい日本市場のなかで技術を磨きたいとしている。