連載小説『改善提案名人に挑戦!』第1話チリツモ作戦 (2)ものの位置を変えるだけで良い?
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第1話 チリツモ作戦
(2)ものの位置を変えるだけで良い?
斎藤君はそんなに飲める方ではないが、QC大会で表彰されたことも手伝って今日はすこぶる上機嫌である。
斎藤君によると、改善なんていうのはタテのものをヨコにするだけで良いのだという。
そんなに簡単に考えて良いのか?
どうも上杉君には納得できない。それに改善というのは、不良が出たときとか危険で難しい作業があるときにやるものではないのか?
「そりゃそうかもしれないけれど、それじゃあ上杉は現状のままで満足しているの?」
「満足なわけないだろう。でも、オレのラインは以前からプロジェクトだなんだかんだで結構手を加えているからなぁ。もうあまり改善のネタがないんだよ。重箱のスミをつついてまで改善なんて言ったらみんなから総スカンくらっちゃうしなぁ」
「ま、オレおまえのラインは見たことないからわからないけどさ。ただ、提案件数を増やして賞金稼ぎをするつもりならこんな手もある、という話さ」
斎藤君は真っ赤になった顔でそう言うと、バーテンに紙と鉛筆を頼んだ。
「まず、箱から部品を取って手元に持ってきて組み立てるという作業があったとする。その箱を10センチ手前に置くようにしよう。そうすると大体0.1秒くらいの時間短縮になるんだな」
「0.1秒だって!? ばかばかしい、それのどこが改善なんだ?」
「いいから話は最後まで聞け。部品箱に手を伸ばして部品を持ってくるのだから往復で、
0.1×2=0.2〔秒〕
そんな作業で1日500個の製品を作るとしよう。
そうすると、
0.2×500=100〔秒〕
=1.7〔分〕
となる。
年間で260日出勤するとして、
1.7×260=442〔分〕
の改善ということになるわけだ」
「それがどうした?」
斎藤君、しょうがないなという顔で、
「いいか、1分100円のコストがかかると考えてみれば、年間で4万4千円のコストダウンだ。0.1秒削減を100ヵ所やってみろ、チリツモで400万だぞ」
「あっ……!」
と、しばらく沈黙があった後、斎藤君はふらふらと立ち上がって外へ出て行こうとした。
「どうした?」
「いや、ちょっと高級な計算をして悪酔いした」
(続く)
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出典:『改善提案名人に挑戦!-だれもがプロジェクトXだった-』面白狩り(おもしろがり)
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