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自ら工場を良くする気がない企業は指導してもダメ!

自ら工場を良くする気がない企業は指導してもダメ!

人間が本気になる環境は2つあるようです。

土壇場、崖っ淵に立たされ、必死になった時が一つ。

もう一つは、大きな夢実現を描き、可能性を発見し、努力が実りつつある時です。

 

以下に示す話は前者の例ですが、ここで、Hさんが指導したK社・金型工場の赤字対策の例を紹介することにします。

「私が担当した赤字工場立て直しの相談、工場の悩みは次のような項目だった。

 

1.構造不況の金型業界においては値下げが急激に進行している。この状況に追従できなかった

2.設備が老朽化しているが、赤字で資本の投入が困難である

3.年齢構成面で定年間近の高齢層と、中間の年齢が少ない状況で若手が働き、ギャップが大きく、人間関係がうまくいっていない

 

4.職人気質の作業者が多く、なかなか自分たちの慣習を変えようとしない

5.CAD/CAMの進行が遅れている。3次元CAD(3D3)に着手したが壁につきあたっている。この失敗で担当者が挑戦的な企画や仕事をしたがらない

6.工程管理のプロはいるが、標準時間を活用した生産管理とは、ほど遠い状況で生産の指示を行っている。このため、無駄な生産が多い。特に、無人稼働機の稼働率が低い状況である

 

私はK社からこのような問題をお聞きし、体質改善をスタートした次第であった。

改善のお手伝いと言っても、ハッキリしておかなければいけないことは、私は指導することは当然として、この企業が取り組む姿勢、即ち、自主性がテーマとなる。

コンサルタントという仕事は提案しながら、共にテーマと成果を育てることがなければ成果は出ない。

 

時には、叱咤激励ということで、担当者に強制をかけて“やる気”を起こさせ燃えてもらうゼスチャーを期待されるコンサルタントの例がある。

しかし私の場合、冷静沈着、状況と仕事ができる環境を整備した上で集中願う方式を採る。

会社の皆様を怒鳴りちらして、仕事や改善を進めさせる仕事の方式は、給与の査定権を持つ、時の上司の責務であるという解釈です。

 

この考え方は、次のような考え方を知ればわかる。

即ち、仮にひと月22日の稼働に対して、指導は月に1日程度である。

その他の21日は宿題を出し、時の企業トップの指導下でことを進めることを願う、というのがコンサルタントの役割である。

 

超実力家の大先生ならいざ知らず? 私のような実力、実務指導のケースでは、あくまでコンサルタントはテーマの設定と技術面の指導援助が限界となる。

このことを、K社の方々にも承知していただき赤字脱皮対策に入ることとなった。

まず、実施した内容は、改善に対するやる気づくりだった。

 

また、同時平行の形で原価分析の解析に入った。改善しても可能性がなければムダな努力に終わる。

そこで、損益分岐点分析を行ったが、その結果、当面は、外部へ仕事を出している内容を吸収すれば黒字体質へ変換できる計算結果を得た。

生産性向上に邁進すればできる内容だった。そこで、やる気づくりを、次の2点で進めた。

 

1.現在抱えている問題、希望、あるべき姿から見て改善すべき点を各人3枚のカードにまとめる。人数の関係上、班長がメンバーをまとめ行う。

2.班長以上の方々は1時間程の田部井淳子さんのエベレスト登頂記の講演テープを聞き、自分のエベレストを何にし、どのように登頂すべきかを提出する。

なお、1番目の対策は個人の意見ではなく、収集した内容を“企業革新に対する要求”という形で大きな模造紙にまとめて示す。

 

示した内容は会社の皆の総意である。これ以外の意見は今後しばらく企業内では取り上げないこととした。

また、従業員の方よりいただいた意見や提案そのものを取り上げるだけでは、必ずしも全てが的を得た解決に結びつくとは言えない。

そこで、上位概念でとらえ、要求を改善の目的と見なし、目的は1つでも対策は自由、という内容で改善を創出する方式を用いた。

 

同時に、要求機能グループに対して、すぐ実施可能(青色で色別)、調査・検討の上、実施化へ向ける(黄色)、当面困難なため保留(赤色)、要求事項がムード的であり意味不明(白色)に区分して、実施可能性の高い内容から順に着手を開始したわけだった。

改善は簡単なものから進めたため、この種のムードづくりのテーマは6カ月程度で終わった。

なお、この時点に至るまで効果を挙げた内容の主なものは次の通りであった。

 

1.無人稼働すべき設備の事前準備が進んだ。従来50%%にも満たない稼働率は90%と上昇した

2.無人稼働のための準備としてのCAD/CAM担当者への人的シフトが進み。加工工数が大きく現象した。このため、外注作業の吸収が図れた

3.工程内検査が進み、不良に伴う手直しの減、後工程の手仕上げ工数が大幅に低減した

 

4.VEの推進により加工手順の検討が進み、加工工数・原価の低減が大きく進んだ

5.営業面でSWOT分析(強み、弱み、機会、驚異を製品販売と顧客の関係で明らかにして対策する手法)を用い、仕切り単価の差異以外に製品販売のキーファクターを明確にして進めた結果、高付加価値製品の受注増となり、売上と利益の1.5倍化を18ヶ月で果たした

 

このような対策を進めつつ、従業員一人一人から、自分の職場を良くする対策の検討に入っていただいたが、先頭に立ってことを進める部・課長クラスの方々を中心に、下図に示した手順で1人30件の改善点発掘競争を行うこととした。

この社の社長様と内合わせ、丁度、ボーナスの査定の時期だったこともあり、30件到達者から順次高得点のボーナス支給とした。

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人件費の枠は不況の中では増やせない、従って、未達の者は少ない額となるわけであった。

ただし、他部門への要求、即ち、前工程がこうしてくれれば……とか、顧客からの要求の内容、特に、設計変更をなくせないか? などの内容は除くこととした(出してはいただくが件数には含めない)。

30件/人は半強制的に私とこの社のトップで提示した案であり、部・課長は当惑した様子だった。

 

しかし、他に従業員を活性化させ、赤字を克服する道はないようにみえた。

そこで、全員の知恵を集めて、とにかく無駄を徹底的に省き、場内の生産性を挙げ、外部に出している製品を吸収することに集中することとした。

また、これが完成すれば、確実に黒字変換が見込まれることを強調した。

 

このような策の実践展開を願い、私は1カ月後の訪問となった。

この時、たった一人だったが30件の提案を提示した課長がおられた。

放電加工の職場であり、どちらかというと提案は難しいとみなした部門であった。

 

しかし、その課長さん、恥ずかしそうに提案を出してきた。

内容的にはそれ程大したものではなかったが、間違えなく30件という件数を満たしていた。

その内容を見た他の課長さん達、特に、30件の改善案を出していない方々は反発の色をあらわにし、『このようなものでも良いのですか?』と早速不満をもらした。

 

しかし、ここからが外部から来ている私のような立場の仕事である、この内容も社長様と事前に打ち合わせていた対処だが、『内容について云々しないで30件/人の提案をお願いしたはずです。

まず、30件を達成してから内容の充実を図れば良いのではないでしょうか? 人を非難することに精力を使うより、まず、30件を出すことに集中して下さい! 出してから人を批判してください』

するとこの時、K社の社長様から『そう決めたではないか! ボ-ナスの査定は約束通りとする』と発言がなされた。この時、未達の方々は無言だった。

 

だが、この発言で他の部・課長の方々は30件の提案を出すことを決意したようだった。

事実、その翌月には全員が30件の提案を果たしていたからである。私は、つぎに部門間にまたがる問題の対策を進めていった。

また、30件の達成はリーダーである部・課長の動きに引きずられる形で、職長、班長、小集団へと普及し、全社、全員が30/件を達成していった。

 

この間はたった3カ月だったが、全ての提案内容はダブリをチェックし、実施可能性と難易度をチェックした後で、実施内容を抽出する作業を行なった。

この仕事は部・課長の仕事であったが、寝るや寝ずの状況で提案内容のまとめをされたご努力には、頭が下がる思いを持った。

なお、提案内容の効果を正確に算定していると時間が多大にかかるので、多少、精度は落とした点はいたしかたない。

 

また、スピード性を重視したため、簡便で早く効果がまとめられる簡易的な計算方式を開発して用いた。

このため、2週間程度で実施すべき改善内容が集計されたわけだが、驚くことに、見積もり額は6ケ月程度で赤字が黒字に変換する内容が確実となった。

このような進行で、改善見積もり内容を全従業員に公開、いよいよ全員に改善の実践に協力を求めることとなった。

 

内容の公開に当たっては会社の原価低減目標を各部門に展開し、その目標達成と改善提案内容を結びつけ、どの提案が何処に位置するかを明確にした。

早速、従業員の方々が、質問に来たが、この企業の管理者に大きく感激を与える内容だった。

なお、その時の対話は、次のような内容だった。

 

『今まで、会社は赤字だから頑張れ! となっていたわけだったが、この図を見ると、私がこのテーマをやりさえすれば会社は黒字になるのですね!』

『ハイ! 図が示す通りです』

『何の為に何をやるべきか役割がわかりました。他の人がやるテーマも、私の内容と同じですか?』

 

『ハイ! その通りです。一人一人が自ら提案した中から選定されたこのテーマを実施して行けば、一つ一つは小さくとも、計算によると間違えなく黒字になります!』

『わかった!頑張ります!』

多くの方々が同じ質問をしたわけであったが、ここで全員の貢献値と目標と達成の意義を示したことは大きかったように思う。

 

その理由は、その内容を裏付ける形で改善が進み、4カ月の後には見事に黒字変換していたからだった。

よく、製造現場では“火の用心、上から下まで火の用心!”という言を耳にする。

要はお題目と精神活動面では良い命令方法に見えるが、実際の行動が起こらない業務命令法を非難した格言である。

 

今回の対応は“最初にテーマありき!”の対応だった。

また、目標と達成の意義、役割・担当を示しつつテーマを赤字対策と明確に示した点が“火の用心……”方式と大きく異なる点であった。

先に、全員自分のところの改善テーマに限り、30件の提案を各人のタスクとしたわけであったが、当然のことながら部門間にまたがるテーマは多数あった。

 

効果が大きい内容も多かった。

そこで、この種のテーマは課長と職長からなるプロジェクト・チームが編成され対策とした。

要は、人が何のため(Why?)と何を(What?)すべきか? を経営サイドが示し、この対策(How to?)を従業員から求め、貢献度と共に示し、全員参画でことを進める方式、下図に示した図がTPマネジメント運営の特徴である。

 

これを見て、私もトップダウンとボトム・アップの融合というが、実際に目の当たりにこのような活動を見て、全員が燃える活動を見ると管理部門と管理技法の大切さを痛感したわけだった。

人は土壇場に立つと大きな力を発揮する。

しかし、そこには力を正しく導くスピーデーな問題解決手順が必要であると、K社の活動を通して再認識した……」という指導談がHさんのお話です。

 

コメント

赤字に落ち込んだ企業が、JMAに改善指導を求めてくる例は多々あります。

このような企業では、筆者達が投入する手法は、まるで茶碗に入った砂に水を注ぐような状況で、瞬く間に、改善手法を吸収し、やがて、容器の底に達すると水があふれるように、今度は利益が出てきます。

また、その状況は、ちょうど、ジグソーパズルにひとコマか、ふたコマのカードを加えると絵の全体が完成する形に似た感じです。

 

この状況は、茶碗の砂にたとえるなら、水だけが足りない。

ジグソーパズルなら、必要なカードの存在を知らなかったというだけであり、「本来、完成に持ち込む要素が少し足りなかっただけ」という現象です。

このため、筆者のような企業支援を進める者にとっては、

 

①本来、赤字を黒字にする要素を持った人材とテーマが企業にはある。

②問題も、その解き方を知った人たちが既にいるため、後は、

③その実態をよく知って、水やジグソーパズルのカード補給に相当する効果的な手段や、筋道を関係者に示す

 

という取り組みになります。

要は、「既に、永年にわたって物づくりを進めてきた功績と努力に自身を持っていただき、ほんの一コマ、③のような、起爆剤をお使いになる支援をすれば十分」というわけです。

なお、この種の対応に対しては、注意点があります。

 

成功を具体化する前提条件に「事前に経営分析を進めること」という絶対条件です。

H氏がT社指導の場合、「まず、各種生産性向上対策とムダ排除で余力を創出させ、外注費の取り込みを図る。

これで、赤字の8割を解消した後、営業強化で高付加価値製品の受注を2割確保すれば、当面の赤字は解消できる」という計算をしてT社トップに示し、その他の課題を早期に進める対策で中期的に収益が出る対策が見込まれるという目算を立てたそうです。

 

儲かる構成を先に持ち、全員参画でスピィーディーに改善を進める環境づくりと共に、目で見てその構成と一人ひとりの努力がわかる内容を提供したことが、T社の早期黒字化となったわけです。

また、この条件が無い場合、この種の展開は無理です。

この事前チェックは企業支援の前提条件です。

 

「黒字化の依頼をされるから外部支援をする」とか、「それがお金になるから支援する」というのでは、先が見えない支援となるからです。

企業の状況と改善の主体性が外部支援の基本にあるわけで、下図のように、「H氏に頼めば同じような黒字化が可能!」という神話的な内容は存在しません。

また、このことを依頼する側の企業トップ陣が知って外部機関へ支援の相談をされることをお願いしたいと考えます。

 

では、筆者もある企業を指導させていただいた内容で成果を得た内容と、筆者の支援力では黒字脱出が不可能であると判断して、お断りした企業事例を紹介することにします。

まず、ひとつは新潟に位置するD社です。

ここは150名ほどの企業で、建築や化学関連部品を製造する企業です。

 

この企業は、夏の暑い日に「赤字で苦しんでいます」ということでJMAを訪問され、筆者の支援となりました。

打ち合わせではBS/PLと共に、原価分析の内容をお持ちいただいたわけでしたが、「不良品損金の低減と、生産性向上により、やはり、外注作業を吸収して残業の吸収、余力を使って現在課題となっている新製品の早期戦略化を図ることにより対策すれば何とかなる」という目算があったため、Hさんが実施した「30件/人 問題列挙~図化対策から始めましょう!」という方式を使い1日出張しました。

また、そこでは、主だった方々と図化を図った上で、各カードに、

 

①青色カード:すぐに実施可能で効果も出るもの

②黄色カード:すぐには出来ないが、改善効果が期待されるので実施検討を進める

③赤カード:アイデアや問題は理解できるが、今回は見送る対象

 

という3種に色分けして実施可否と共に、改善効果を見積もりました。

このような図化と全員参画の結果、絵に描くように、4ヶ月で目算通り黒字化となりました。

なお、この企業の例では、1日で図を作成~改善担当の設定まで。

 

盛り上がっていましたが、その後6ヶ月間、連絡は無しのツブテ状態でした。

ところが、突然JMAに電話があり「4ヶ月で黒字化しました。ありがとうございます。

お礼が遅かった理由は、同時にISO9001取得を進め、多忙だったので……、ついては、更なる改善をスピィーディーに全員参画で進める必要があり、不良対策からご指導をお願いします」という内容でした。

 

筆者も、多少の心配はしていましたが、これで安心です。

「やはり、力を発揮された。この企業の皆様の様子でそれを感じていた」と思ったわけです。

その後4回ほど、改善手法の研修と新製品対策を図り益々のご発展となったわけですが、まさにここでは、ジグソーパズルにカード1枚の補給が役立った例でした。

 

これと同じ時期、大手化学会社の一部門で液晶生産に対する品質改善指導の依頼を受けました。

「大手であり、断れない事情がある」というJMA事務局の話で遠地へ出張となったわけです。

だが、筆者は話の内容に疑問を感じたため、「打ち合わせ時に多少の研修を」ということで、安い金額ではありましたが、研修費と交通費の支払いを契約し、最初の訪問となりました。

 

ここで、「不良対策はこの手法ですが、また、失礼とは思いますが、後発でこの規模、既に人件費の安い外注製作の環境で、不良ゼロ、投入工数半減した結果、収益はどうなるか? 計算をお願いします」とお話しました。

その時、「それは、早速進めますが、是非、追加指導を……」ということでした。

しかし筆者が見る限り、支援してそれなりの成果は出ても赤字脱出にはほど遠い内容と想定しました。

 

当然とは思いますが、その後の電話はなく、3年の後ある方から、「液晶からは撤退!」の話をお聞きしました。

極めてまれですが、全く利益が出ない構造を分析しないで、筆者達へ改善の依頼をしながら事業全体の変革を模索する企業のアプローチがあります。

だが、この種の対応に当たっては、中身を十分に見て支援の可否を判断しないと、支援が反って、ご迷惑をかける結果に終わる危険があります。


昭和45年から平成2年まで、日立金属㈱にて、全社CIM構築、各工場レイアウト新設・改善プロジェクトリーダー、新製品開発パテントMAP手法開発に従事。うち3年は米国AAP St-Mary社に赴任する。平成2年、一般社団法人日本能率協会専任講師、TP賞審査委員を担当を歴任する。(有)QCD革新研究所を開設して活動(2016年有限会社はクローズ、業務はそのままQCD革新研究所へ移行)。 http://www.qcd.jp/