人工知能の話から経営計画の必要性を強烈に感じた

人工知能の話から経営計画の必要性を強烈に感じた

経営計画を羅針盤にして人工知能やロボットがもたらすインパクトを商売の機会とする、という話です。

人工知能やロボットは製造現場へ大きな変革をもたらしそうです。

この先、不確実性が高まっていく中、目指すべき方向を見失わないように経営計画を立てていますか?

 

人工知能やロボットが製造業へもたらすインパクトは小さくないです。

人工知能やロボットが苦手とする仕事を想定し、そこを伸ばし、強化するイメージを持って将来の姿を描きます。

1.人工知能(AI)についての話題

人工知能(AI)の話を頻繁に、耳にするようになりました。

日本の国立情報学研究所(大学共同利用機関法人 情報 ・システム研究機構)が中心となって2011年に立ち上げられたプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」で研究・開発が進められている人工知能があります。

名前が東ロボくん(とうろぼくん)。

 

このプロジェクトの目的は人工知能の限界や人に取って代わる仕事を見極めることで、2021年までの東大合格が目標のようです。

その昔、科学技術計算用のプログラミング言語で工学的な処理を目的とした計算をするプログラムを考えたことはありますが……。

東大に合格するためのプログラムってのはどんな風に考えるのだろう?

 

純粋に興味はありますが、全く想像がつきません。

何か素晴らしく工夫されたアルゴリズムを考え出すのでしょう。

その東ロボくんは予備校の模擬試験を受験しながらその実力を計測しています。

 

2015年11月14日に発表された東ロボくんの最新模試結果では、ある模試で33の国立大学にある39学部64学科、441の私立大学にある1055学部2406学科で合格率80%以上のA判定を獲得。

早稲田大や慶応義塾大といった難関私大の合格率も60%以上であり、順位も全受験者数11万6000人中2万5343位と、難関大学を狙える位置につけているそうです。

なんとも優秀ですごい!!

(出典:『朝日新聞デジタル』2015年11月14日)

 

また、Google DeepMindという米国のソフト開発企業の開発した『AlphaGo』が、囲碁ソフトとして史上初めてプロ棋士を破ったそうです。

なんでも、囲碁で予想される手数はチェスや将棋に比べると桁違いに大きく、局面の評価も難しいため、ソフトウェアが人間のプロ相手に勝つには10年はかかるだろうと予想されていたなかでの勝利でした。

それも5戦全勝だったそうです。

 

DeepMindという企業は十代からゲームデザイナーとして活躍した天才的AI研究者デミス・ハサビス氏が2011年に創業したばかりの企業で2013年にGoogleに買収され、現在に至っています。

(出典:『Engadget Japanese』 2016年01月28日)

オックスフォード大学准教授マイケル・オズボーン氏は、野室総研研究所との共同研究の結果、以下のような推計をしています。

 

「近年の機械学習やロボット自術の進歩により、10~20年以内に現在の仕事の約49%が自動化可能である。」

(出典:『日本経済新聞』2016年1月12日)

 

今後、働き方、仕事の仕方が大きく変わるのは間違いなさそうです。

肉体労働のみならず、ホワイトカラー業務にもロボットで代替される領域があるわけです。

決められた範囲の中で過去のデータに基づいて最適な解を求める作業系、手続き系の仕事は確実に人工知能やロボットの方が得意そうです。

 

こうした業務を仕事とする人は、今後、給料を上げるのがかなり難しくなってくるでしょう。

同様の仕事ができるロボットが驚くほどに安くなっているからです。

シティーグループの推定によると、日本の自動車産業でロボットを導入した場合、1年足らずで投資資金の回収が可能であり、理由のひとつに、ロボットの組立をロボットがしていることを指摘しています。

 

これでは絶対に安さでは負けます。

それと、“単純作業”での効率性でも。

(出典:『日本経済新聞』2016年1月12日)

2.経営環境の変化を認識し経営計画という羅針盤を手に入れる

人工知能やロボットの進歩は確実に人の働き方を変えそうです。

それとともに、当然、モノづくりを生業としている企業の事業戦略も大きく変わります。

と言うか、変わらざるを得ないと思います。

 

付加価値を生み出せない企業は市場から退場して下さい、とハッキリ言われる時代がくるような気がします。

存続する企業と存続できない企業、伸びている企業と伸び悩む企業、もうかっている企業ともうからない企業。

すでに、このような企業の2極化の兆候が見えています。

 

今後は、ますます、そうした傾向が顕著になってくるのでしょう。

なんとなく存続している会社、いわゆる「ゾンビ企業」は消えてしまう。

それくらい、情報通信技術(ICT)の進歩、人工知能やロボットの実用化、IoTの展開が製造業へ与えるインパクトは計り知れないものがあると思います。

 

少なくとも人工知能やロボットが対応できるような製品の製造販売あるいはサービスの提供を主業とした事業は、まず間違いなく価格競争に巻き込まれます。

それも、絶対に勝ち目のない価格競争に……。

行きついたところに居る競合は、作業内容は人並み、給料は(資金回収後は)ランニングコストのみというロボットなのですから。

 

10年後を見通した場合、つまり、今、現場で頑張っている20代の若手人材が30代になって現場の中堅どころで仕事にも脂がのってくる頃、自社製品は今と同じように顧客から選んでもらえていますか?

また、自社製品を今の製造工程で造り続けて収益を確保できますか?

付加価値が低い製品を造り続けても、苦しさが増すだけです。

 

見通しのない、辛いモノづくりに陥ってしまう。

今は、そこそこもうかっているから当面は、今のままでイイと考えるかもしれませんが、技術の進歩も早く、変化も大きい昨今です。

自社も変わらねばイケナイ、と気が付いた時には、時すでに遅しです。

 

事業展開する以上は、ニッチでもトップを目指して確実に収益を確保したい。

しっかり現金を稼いで、現場に給料をしっかり払い、豊かな生活を送ってもらいたいし、地域に根差して信頼され、存在感のある企業にしたい。

こうした経営者の想いを実現させるには先手必勝です。

 

5年、10年先を見通して、やるべきことを明確にし、計画を立てましょう。

今は、変化の時代です。

無防備ならば変化は脅威となりますが、しっかり作戦を立てれば変化は機会です。

 

つまり、規模の大小にかかわらず、どのような企業にも商売のチャンスがあるとも言えます。

今から10年前を振り返って下さい。

コトを具現化した商品としてたびたび取り上げられますが、iPhoneがここまで売れると誰が想像したでしょうか?

 

スマホもここまで普及するとは誰が予測したでしょうか?

今では全て当たり前のモノになっています。

先を見通して作戦を立てて実行した者の勝ちです。

 

今日ほど5年、10年単位でビジョンを示したり、経営計画を立案・フォローしたりすることが経営者に求められる時は、これまでなかったと思います。

不確実性がドンドン高まっていることを実感します。

2016年に入ってからの経済情勢ひとつとっても、なにか、予測できない危うさを感じてしまいます。

 

不確実性の高まり、大きく早い変化。

これが今の経営環境と考えるべきなのでしょう。

ビジョンや理念、経営計画の必要性は多くの経営者なら理解しています。

 

ただ、なかなか実行できず、結局、今日まで、勢いでモノづくりに、販売に汗を流してきた会社も多いと思います。

ただし、従来とは異なり、今後は、確実に、それでは早晩、工場経営が行き詰ります。

情報通信技術(ICT)の進歩はいよいよ本格的にモノづくりの現場を変えると思います。

 

インダストリー4.0やインダストリアル・インターネットなんかはそれの具体的な動きのひとつです。

ですから経営環境の変化を認識し、会社を、工場をどのような方向へ導いていくのか、羅針盤を持つことが、これからの工場経営では、絶対に必要です。

変化をチャンスにするために将来を見通したぶれない判断軸が必要だからです。

 

未来を見通した経営者の確固たる意志がなければできないことです。

そして将来を見据えて、限りある経営資源を狙った方向へ集中して投入します。

ぶれない判断軸がなければ、会社はさまよい、遭難し難破してしまいます。

 

不確実性が高まる中、存続と成長のために、ビジョンや経営計画という羅針盤が欲しくなってきます。

「自社製品(サービス)は世界(国内)ではウチでしか造れない唯一無二のモノで、今後、10年、20年、確実に需要が期待できるし、営業と工場の開発部隊の連携もバッチリで確実に顧客のニーズに応えるだけの対応力もあるし、今後も継続して高付加価値品を生み出すこともできるから、全く問題ナシ!!」

こんな風に言い切る工場経営を目指したいです。

 

人工知能が進出してこようが、ロボットが襲ってこようが、全く動じず、変化を楽しみ、事業を存続と成長の好循環に乗せている経営者です。

付加価値を生み出せず、従来製品を細々と造り続けている工場は、今後、存続し難い。

そうした工場の経営者自身も従業員もその家族も、残念ながら、豊かな生活を送ることが難しくなります。

 

付加価値を生み続ける仕組みをどう構築するか、そして、その仕組みを構築するための経営計画をいかに推進するか。

存続と成長のためには、こうしたことが、ますます必要となってきます。

先手必勝を期し、羅針盤を準備して、付加価値拡大の航海へ出港します。

3.付加価値を生み続けるための方向性を考えるヒント

付加価値の拡大。

これが、存続と成長のキーワードです。

コスト削減とか、生産性向上という視点ではありません。

 

新たに生み出し、加えるイメージです。

このイメージを持って、実現させたい将来の姿を考えます。

経営計画を考える第一歩目は、経営者の実現したい将来の姿をできるだけ具体的に描くことです。

 

そこで、経営者のインスピレーションを刺激する情報を様々な論点から集めます。

そうすれば、いろいろな切り口から経営者は考えることができます。

自社製品(サービス)の現在の立ち位置を明確にするのも手です。

 

製品やサービスこそが、売上高にお金を支払って下さるお客様との接点です。

自社の製品やサービスがお客様にとってどのようなモノか、どのようなコトを感じてくれているのか、お客様の声(VOC)を集めることから始めてもイイでしょう。

創業以来の歴史を紐解き、創業時の考え方に改めて触れるのも気付きがあるかも。

 

工場ですから、技術にもこだわりたいので自社技術の変遷を整理し、今後の技術動向を見通してみるとか。

製販一体となってお客様のところに足を運び、ウチが今後どんなことをやれば世の中で受けるか、ぶっちゃけ聞いてみるのも意外と効果的だったり。

ウチの強みってなんだろう、全社全員で合宿しながら徹夜で語り合ってみたり。

 

色々な観点から、経営者のインスピレーションを刺激する情報を収集します。

様々に考えられる多様な切り口のひとつとして、「人工知能やロボットの存在を踏まえる」という論点は外せないでしょう。

IoTの導入という観点から考えても外せません。

 

必ず考えておきたいテーマです。

製造業へのインパクトがかなり大きいと思われるからです。

では、この「人工知能やロボットの存在を踏まえる」観点からはどう考えるのか?

 

「人工知能やロボットが苦手なコトを強化し伸ばしていくイメージを持つ」ことだと思います。

まぁ、強調するまでもなく、当たり前といえば当たり前です。

人工知能やロボットは競合他社で、大企業であると考えればイイわけです。

 

同じ土俵で勝負しない、ということです。

既にロボットは自動化の推進等で登場済ですが、相手はよりパワーアップしてきました。

したがって、従来のなんとかなるでしょう的な考え方ではマズイ状況になってきた、ととらえるべきです。

 

そのために、まず人工知能やロボットが得意とすることを把握し自分が理解した範囲でまとめます。

そして、それを裏返せば、人工知能やロボットが不得意なことです。

これこそが、今後、自社工場で強化し伸ばすべきテーマです。

 

業界に先駆け、そうした強みを発揮した付加価値を生み出せれば、かなり独自性が強いです。

つまり、中小企業が目指すべきニッチな市場というわけです。

経営計画を羅針盤にして、人工知能やロボットがもたらすインパクトを商売の機会としてしまいましょう。

 

経営者自身の言葉で整理し、考えることが肝要です。

実現したい将来の姿を描く段階では「イメージ」が大切だからです。

想いを感覚で表現する感じです。

 

多様な切り口で考えた事を、経営者のインスピレーションを刺激させるための情報に加えます。

これらの情報を生かし、経営者は自らの想いを乗せ、実現したい将来の姿を描きます。

 

まとめ。

人工知能やロボットが製造業へもたらすインパクトは小さくない。

人工知能やロボットが苦手とする仕事を想定し、そこを伸ばし、強化するイメージを持って将来の姿を描く。

経営計画を羅針盤にして人工知能やロボットがもたらすインパクトを商売の機会とする。

 

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所

 


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)