ビッグデータ分析とウェアラブル端末のセンサーが創り出す新しいビジネスの可能性
「ウェアラブル端末」と「ビッグデータ」――昨今のIT業界をリードする2大バズワードです。
もはやIT業界だけでなく、ほかの産業分野にまでその影響は波及しています。
製造業も例外ではありません。
既存の得意分野を最新デバイスに転用
最新鋭のウェアラブルコンピュータ「スマートグラス」。
ウェアラブル端末のひとつとして、Googleグラスなどが話題になりました。
もともとは、「両手で作業しながらマニュアルを確認できないか」「複数の作業者や遠隔地に対する作業指示をリアルタイムで行いたい」という製造現場からの声に応えたもの。
これを産業用に開発しているのが萩原電機です。
もともと同社が手掛けていた業務系アプリケーションや車載向けの画像認識技術、位置情報を用いた管制システムを転用。
静止画や動画でのマニュアル表示や、スマートグラスに搭載されたカメラで撮影した画像をリアルタイムで共有し通話できるビデオ通話などの機能を盛り込んでいます。
将来的にはAR(仮想現実)技術との融合により、実際のモノの上にセンサーで画像を重ね、取り付け位置や組み込み方法などを表示するという機能も発展していく見通しです。
同社のスマートグラスプロジェクトは、自社がもつ既存の技術を最新鋭のデバイスに転用した好例といえるでしょう。
軍事目的に開発されたデバイスを造船現場に活用
製造業の現場でもIT化は当たり前。
携帯電話をはじめ、PDA、構内PHS、トランシーバ、デジカメ、ノートPCなど、複数のデジタル端末を持ち歩くことも珍しくありません。
しかし、造船の現場では、安全確保の面から何かを手にもって構内を歩くことはありません。
そこで三菱重工の長崎造船所では、ザイブナー社のMAVなど、身に着けられるウェアラブルPCを導入し、舶用制御装置の調整作業を行う取り組みなどを開始しています。
制御コンピュータとウェアラブルPCを無線LANでネットワークに接続し、同じ画面を表示させ、計器の調整をするというもの。
従来は、制御コンピュータの前で画面を見ている人と、現場の計器の前で作業する人がトランシーバでやりとりしながらこなしていた作業を、1人の作業員だけで行うことが可能になりました。
「安全第一」の造船現場では、ウェアラブル端末にも、少々ぶつけても壊れない、少し濡れても大丈夫といったタフさが求められます。
その点軍事目的で開発されたMAVならぴったりですが、身に着けて作業するにあたり、軽量化や画面サイズの最適化といった課題が残されています。
製造現場でのデータ収集・分析は20世紀から始まった
一方、ビッグデータの活用事例を見てみましょう。
製造業において、製造工程からのデータ収集は20世紀後半から始まりました。
当時は現在のようなIT技術は登場していませんでしたから、手書きの測定記録をキャビネットに保管する形式でデータを蓄積していました。
その後、製造装置と制御機器の信号のやり取りを、デジタル通信を用いて行うフィールドバス技術の登場で、よりリアルタイムにデータを収集し、分析が行えるようになりました。
ただ、このデータは機器や機械ごとに形式が異なるなど、企業全体で活用するまでには至りませんでした。
昨今では、産業用イーサネットの登場で、幅広いデータ交換を可能にする帯域幅や速度、共通のデータ形式が実現し、温度センサーや圧力センサー、電力センサーなどのさまざまなセンサーの情報なども秒単位で計測・活用できるようになっています。
エンジン1基に1万種類! ビッグデータ活用を進める理由
エンジンの製造は、大量生産をしながらも性能にバラつきを出さないことが重要です。
高い質のものを標準化させるためにはビッグデータを収集し、管理する必要があります。
マツダではガソリンエンジン「SKYACTIV-G」を製造する過程で管理しているデータの量は、なんとエンジン1基当たり1万種類にのぼるといいます。
加工量やサイクルタイムの他、加工面温度、工具の使用履歴など。
それらのデータは、ロット単位での大まかなものではなく、個体(シリアル)単位で収集しています。
同社ではこうした膨大なデータを、個体単位での加工条件の最適化に活用しています。
収集したデータをもとに、個体ごとの加工条件を変えることで、最終的にエンジンとして組み上がった状態での性能のバラつきを抑えることが可能になるといいます。
こうした加工方法は、大量生産を目的に「作りやすさ」を重視した近代の製造業とは真逆の道をいくものです。
しかし、「SKYACTIV-G」の圧倒的な性能を実現するためには、公差を小さくして各パラメータがなるべく基準値付近に収まるようにしなければならないといい、そのためにはデータの活用が必須となるのです。
機械が故障する前に異常をキャッチする遠隔保守サービス
他にも、工場で使用されている機械のエラー・故障を把握しないことにはビッグデータを利用しても意味がありません。
アマダでは、顧客先の工場にある機械に取り付けたセンサーなどからの信号をキャッチし、機械が故障する前に異常を検知してメンテナンスを行う遠隔保守サービス「AMDAS」を提供。
少数の設備で、少量の製品を顧客の求めるタイミングで納めなければならない昨今の製造業では、機械の故障は命取りになりかねません。
そのため、機械が故障する前に保守作業員が駆けつけて直してしまう、という体制をとっています。
最新技術で新たなビジネスチャンスを
このように、ビッグデータやウェアラブル端末といった最新鋭のIT技術の登場で、製造業にも新しいビジネスを創出するチャンスが生まれています。
出典:『日本の製造業革新トピックス』株式会社富士通マーケティング