チンパンジーから学ぶ仲間と共通の言葉を持つ大切さ

チンパンジーから学ぶ仲間と共通の言葉を持つ大切さ

自らの体験を情報として仲間へ伝え、共有すれば、共感、一体感、仲間意識が生まれる。共有することで、共通の「言葉」も生まれる、という話です。

 

1.「将来への漠然とした不安」へ具体的な手を打つために

経営者の想いを現場の隅々に浸透させる。

これが、チームオペレーションを機能させる目的です。

現場リーダーと各工程のキーパーソンを中心に経営者の想いを現場へ伝えます。

経営者の想いが浸透していくにしたがい、現場での業務効率は高まります。

経営者自身が不在でも仕組みが勝手に廻り、業務がドンドン進むからです。

 

経営者は、チームオペレーションを機能させることに知恵を絞ります。

実務よりも、知恵を絞ることに時間をかけた方が、お得です。「今」の仕事を安心して現場へ任せる体制が出来上がるからです。

そして、経営者は「未来」を描く仕事に専念できるのです。

経営者が常に抱き続ける「将来への漠然とした不安」へ具体的な手を打てます。

経営者様には、こうした状況へ至っていただきたいと考えています。

チームオペレーションを機能させることがカギです。

 

2.チームオペレーションを機能させる

では、チームオペレーションを機能させるために現場に求められる能力とは?

それは……、現場で体験したことを、情報として仲間と分かち合う能力。

これが、現場のひとりひとりに求められる能力です。

現場で発生したことを仲間へ適切に伝えることで、現場が動きます。

現場は、仲間の情報を手掛かりに、次のステップに進むのです。

自分が見たり、気が付いたことを、情報として仲間へ伝達し、分かちあえれば、現場の一体感は確実に上がります。

当然ですが、現場は趣味の集まりでもないですし、同好会でもありません。真剣勝負の仕事の場です。

 

コミュニケーション能力で求められるのは、話が旨いとか、気の利いたことが言えるとかではありません。

愚直に、素直に、当たり前に、言葉を通じて、現場で体験したことを情報として仲間と分かち合うことです。

製品の不具合を見つけたこと、装置の異常につながりそうな異音を耳にしたこと、設備が故障しそうな気配を感じたこと、現場で効率を上げるためのネタが浮かんだこと……。

こうした自ら体験したことを「情報「として仲間と共有することです。これは「現場の能力」とも言えます。

 

ものづくり現場は日々変化しています。

作業者ひとりひとりが見たり、体験したことを情報として仲間に伝達することは極めて重要なことです。

製造現場は、原則的に「変化」へ対応します。

作業標準やルールが順守されている状態が正常で、それから外れれば異常です。

ですから、順守された状態から外れそうになる変化を感じ取ります。

そして、その情報を仲間と共有するのです。

仲間と一緒に変化の原因を探り、知恵を出し合って手を打つ。これがカイゼンの最小サイクルです。

「仲間に伝達すること」が、カイゼンの最小サイクルを回すきっかけとなります。

経営者や現場リーダーは、体験したことを情報として仲間に伝達する重要性を伝えねばなりません。チームオペレーションを機能させるためです。

 

3.人間が言葉を持つ本質

体験を情報として仲間に伝達することに関する興味深い記事を読みました。

京都大学高等研究院特別教授の松沢哲郎氏は今年3月に京都大学霊長類研究所を退職された動物心理学者・霊長類学者です。

京大はチンパンジーの研究で優れた業績を上げています。

チンパンジーのアイの名前を知っている方もいるかもしれません。

チンパンジーが持つ瞬間記憶と人間の言語の発達について、松沢哲郎教授が日経新聞で解説していました。

チンパンジー(名前はアユム)の記憶の能力を調査する実験です。人間と比較するのですが、その結果に驚きました。

 

でたらめに選んだ数字7個を画面(実験に使用する装置のモニター)に一瞬映し出し、0.2秒後に全部を白い四角に置き換え、数字の小さい順位触ってもらう(テストを人間とチンパンジーで行った)。

京大生に挑戦してもらったが、全員、一つも正解できなかった。でもアユムはらくらく正解した。

正答率が0%のものをいかに訓練しても成績は伸びない。人間にはできないが、チンパンジーにはできる記憶の課題がある。

(中略)

チンパンジーに人間の言葉や数字などを教える研究が欧米で始まって、ちょうど半世紀ほどたった。

その中で最も人々が驚いたのが、この瞬間記憶の研究だ。

人間ができることの一部をチンパンジーも学べるというのではなく、人間には不可能な知的作業をチンパンジーがすることを、世界で初めて示した。

人間は進化の途上で、一瞬だけ見たものを正確に記憶する能力を失った。

代わりに見たものに名前をつけ、それを記憶するようになった。

(中略)

人間は瞬間記憶を失う代わりに、自分が体験したことを情報として仲間と分かち合う能力が発達した。

そこに人間の言語の本質があると言えよう。

(出典:日本経済新聞2016年3月13日)

 

京大生ができなかったことを、チンパンジーがらくらくできたというのです。

言語は「仲間」を前提に使われるものだと気付かせてくれる解説でした。

 

人間はひとりではなく、そもそも仲間と協力、協働してこそ、その能力が発揮される生き物なのかもしれません。

そのために言語を持つに至った。

ノーベル賞を受賞された研究者の方々も、皆さん、多くの共同研究者の支援なしには成しえなかった旨の発言をされています。

能力ある人が一人で研究室に籠って仕事をすれば成果が上がる時代ではないわけです。

 

モノづくりの現場も同様です。

昔ながらの、こだわりの職人が一人で仕事を抱えて進めるようでは、成果も限定的です。

大きな成果を目指すならば、自らの体験を情報として仲間へ伝えることが、今後、ますます大切になってきます。

伝えることで共感、一体感、仲間意識が生まれる。人間が言葉を持つ本質を考えると、まさにそうです。

 

4.共通の「言葉「は企業風土を創る

自らの体験を情報として仲間へ伝え合い、共有することで、共通の「言葉」も生まれます。

そして、それが定着すれば、文化になり風土となります。

 

「不良会議」という言葉が定着している現場で仕事をしていた頃の話です。

1週間のうちの決まった日時に、スタッフと現場が集まって、「不良会議」を開催していました。

過去1週間に発生した不具合品、不良品、手直し品を振り返り対応策を検討します。

「不良会議」はスタッフにも現場にも、すぐに伝わる言葉でした。完全に浸透していました。

 

「不良会議」があるので、1週間以上、異常状態を放置することは絶対にしない。

現場もスタッフもそろって全員で、良品「以外」の情報に目を光らせます。

異常情報があれば、即現物を押さえ、その場で暫定策を打つ。恒久策は「不良会議」で立てる。

品質に対する感度が高い職場となるわけです。

「不良会議」という共通の「言葉」のおかげです。「良品」以外は仲間で知恵を絞ってヤッツケル。

こうした企業風土がありました。

 

そこから、他企業の現場へ移った時、同様な言葉を発しましたが、全く通じなかったことがあります。

その現場では、スタッフと現場が、定期的に集まって品質対策を打つという文化はありませんでした。

担当者対応がベースの企業風土。

現場で共通の「言葉」を持つ効果を実感した次第です。言葉は企業風土を創ります。

 

5.魂のこもった現場の言葉

モノづくり現場は日々変化しています。

現場では、ひとりひとりが体験することを仲間と共有します。ことが起きる前に手を打つ。

そのために、自分が体験したことを情報として仲間と分かち合う能力を高めます。

これは訓練すれば高まる力です。

正答率0%のもの(見たものを瞬間的に記憶する能力)を訓練しても成績は伸びません。

しかし、そうでなければ伸びます。

仲間の存在を前提として、自分が体験したことを情報として仲間へ伝え、共有する。

経営者や現場リーダーが、仲間の存在を前提にした対応を促して、現場の能力を高めるのです。

 

言葉で伝えることが苦手な作業者もいるかもしれません。

そうした場合でも、上司は言葉をかけて、伝達を促します。

繰り返せば、それは結果として訓練となり、伝達のスキルも上がるのです。

 

人間の「言語」は、仲間の存在が前提にあります。

言語の本質がそうであるならば、その本質を大いに生かしたいものです。

訓練して伝達のスキルを高めます。

言語の本質を最大限に生かし、仲間と情報を共有すれば、チームオペレーションが機能します。

チームオペレーションは経営者の想いを浸透させ、経営者を支えます。

そして、情報の伝達・共有は共通の「言葉」を生み出します。

この共通の「言葉」こそが企業風土です。魂のこもった現場の言葉になります。

 

現場は気軽に上司へ情報を伝達していますか?

現場の情報を仲間で共有する雰囲気がありますか?

現場独自の共通の言葉で語れることが存在していますか?

 

まとめ。

自らの体験を情報として仲間へ伝え、共有すれば、共感、一体感、仲間意識が生まれる。

共有することで、共通の「言葉」も生まれる。

 

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出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)