インダストリー4.0に対応した安全のコンセプト

インダストリー4.0に対応した安全のコンセプト

技術の進化とともに「人」中心の安全のコンセプトSafety2.0が重要になってくる。「人」中心はモノづくり全般で展開したい考え方である、という話です。

1. 安全のコンセプトも進化が求められる

産業革命は現在、4段階目を迎えています。

 

第一次産業革命

18世紀末の水力や蒸気力による機械化

第二次産業革命

19世紀後半以降の電気エネルギーを用いた分業による大量生産

第三次産業革命

1970年代から始まったエレクトロニクスによる自働化

 

そして、今、情報通信技術(ICT)によるIoT化でさまざまな産業機器に多数のセンサーが取り付けられネットワークにつながる第四次産業革命です。

インダストリー4.0やインダストリアルインターネットが具体的な動きです。

現在はインターネットとモノとを融合させる時代です。

 

そこからコト、付加価値を生み出しています。

産業構造、生産技術の段階的な進化は、当然、周辺技術やシステムなどに影響を及ぼします。

現場で「安全」を確保する技術も第4次産業革命に合わせた進化が求められます。

2. Safety2.0

IDECは1945年創業の制御機器製品、制御装置及びファクトリーオートメーションシステム製品、防爆・防災機器等の製造メーカーで安全に関する機器をつくり続けてきました。

2005年に和泉電気からIDECへ商号を変更しています。

安全の意識がそれほど優先されていなかった1950年に、すでに安全機器を開発して販売していた会社です。

 

そのIDECグループのCTOである藤田俊弘氏が安全のコンセプトの変遷を次のように語っています。

 

「現在のように安全をシステムとして構築するようになったのはここ20年くらいのことにすぎません。

1990年ぐらいまでは、人の注意力や判断力に大きく依存していました。要するに自己責任で安全を確保せというわけです。

この最も原始的な考え方が“Safety0.0”です。

 

これではいけないということで、1990年代になると制御技術やセンシング技術から成るシステムとして安全を構築するという考え方が出てきました。

(中略)

安全機器による隔離や停止といった“制御安全”で対応するわけです。

その後技術の進展に伴い、“機能安全”のような新しい手法も登場しましたが、基本的な考え方に変化はありません。

これが“Safety1.0”です。

(中略)

 

そして、2010年代になってスマート化という新しい潮流を迎えるに当たり、安全も次のステップに進む必要が出てきました。

それが、“Safety2.0”。

(中略)

 

今後人とロボットがすぐ近くで協業するためには、新しい安全技術を開発していかなければなりません」

(出典:『日経ものづくり』2016年4月号)

 

「Safety0.0」:自己責任

「Safety1.0」:安全制御

「Safety2.0」:(人とロボットが安全に協業するための新技術)

 

新入社員として安全教育を受けた時に、いろいろな話があって、最後に講師が「安全は結局、最後は自己責任。現場では気をつけるように」という趣旨のことを話していたことを思い出します。

これは、現場で働く人間の基本中の基本です。

工場内を事務所や家の中と同じ意識で動き回られたら周りもたまったものではなく、危なくってしょうがない。

 

現場における安全の基本はどれほど技術が進歩しても今後も同じ。

ただし、設備が複雑化、高度化するにつれて、注意力のみで安全を確保するのは無理です。

そこで、「Safety1.0」以降が必要になります。

 

IDECが開発が開発した安全機器1つに、ロボットを手動で稼働させる場合などに使用する「3ポジション・イネーブルスイッチ」があります。

何もしていない状態:接点オフ

ボタンを軽く押す:接点オン

ボタンを強く押す:接点オフ

 

このような3段階で動くスイッチがSafety2.0のコンセプトを先取りした安全機器といえるかもしれないと、藤田氏は語っています。

 

「例えばロボットを手動で稼働させているときに予期せぬ事態が起きても安心です。なぜなら、ボタンを手から放しても、逆に強く握っても、接点がオフになってロボットが止まるからです。

ロボットを操作している人が危害を受ける恐れがありません。

3ポジション・イネーブルスイッチは、人間工学に基づいていることからその安全性が高く評価されており、現在は国際標準になっています」

(出典:『日経ものづくり』2016年4月号)

 

「人間工学に基づいて」がポイントです。

人間の自然な動きに合わせた安全装置、人間に無理強いをしない安全装置、現場で働く「人」に合わせて安全を確保できる安全機器が求められます。

「人」ではなく、「ロボット」の方が人に合わせることで、安全を確保するような安全機器が期待されます。

 

Safety2.0では具体的にどのような安全機器が生み出されていくのか、今後に注目です。

3. 「人」中心の考え方

この「人」中心の考え方はモノづくり全般で展開すべき視点です。

造れば売れる時代は終わり、売れるものを創出しなければならない時代を迎えました。

モノづくりに携わる「人」の役割も大きく変わりつつあります。

 

労働力の提供者から、知恵の創出者という役割変化を現場も含め果たす必要があります。

モノづくりで付加価値を生み続けるには知恵が必要です。

一人の天才のアイデアもさることながら、同様に、現場ひとりひとりの小さな知恵の集まりも絶対に必要です。多様性も求められるからです。

 

「人」中心で安全を眺めた時に、無理しているところがないかも注意です。

現場の安全ルールも「人」中心でチェックしてみる。

まとめ

技術の進化とともに「人」中心の安全のコンセプトSafety2.0が重要になってくる。「人」中心はモノづくり全般で展開したい考え方である。

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)