【インタビュー】IPCはんだ付・リワーク世界大会2019 チャンピオン...

【インタビュー】IPCはんだ付・リワーク世界大会2019 チャンピオン松並亮輔さん(ピーダブルビー)

大会史上初パーフェクト&日本人初のダブル栄冠

はんだ付世界チャンピオン 松並亮輔さん(株式会社ピーダブルビー)

スクリーンショット 2019-03-08 17.31.55

05-01b
▲受賞式の様子

 

IPC主催によるはんだ付け世界大会「はんだ付・リワークワールド・チャンピオンシップ2019」が1月30日、アメリカ・サンディエゴで行われ、日本代表の松並亮輔さん(滋賀県草津市、ピーダブルビー)が、大会史上初のパーフェクトで、日本人として初めて世界チャンピオンに輝いた。世界一のはんだ付け技術者となった松並さんに話を聞いた。

SONY DSC
▲松並亮輔さん(左)と西川晶平さん システム製造技術部 部長代理

–世界大会、優勝おめでとうございます。周りから大きな反響があったんじゃないですか?

松並さん
友人から連絡があった程度で、特別なことは何もありませんでした笑。でも、会長、社長をはじめ、会社の人がとても喜んでくれて嬉しかったです。帰国後、ホテルで祝勝会も開いてくれて、何十人もの方が駆けつけてくれました。会社が盛り上がることが一番ですので、その意味では本当に良かったです。

 

–ご家族の反応は?

松並さん
母親からおめでとうのLINEが来ました。私からは何も伝えていなかったのですが、記事やニュースを見て知ったようです。良い親孝行になったと思います。

西川さん
会社にはテレビ局から番組への出演依頼が来たり、営業がお取引先から祝いのコメントをいただいたり、すごい反響がありました。ある大手のお取引先からは、自社のはんだ付の匠がマツ(松並さん)のニュースを見て、会ってみたい、職場を見学させて欲しいという問い合わせがありました。

 

–いま担当されている業務を教えてください

松並さん
半導体テスター基板に手で電子部品をはんだ付する業務を担当しています。半導体テスター基板は、大きさも形も厚さも異なり、デザインも日々変わります。要求もさまざまで、一つとして同じものはありません。お客様の希望にどう答えるかが信頼につながります。「やるしかないならやる」「できるならやってみよう」という気持ちを大事に、毎日試行錯誤の連続です。

西川さん
当社はもともと携帯電話メーカー向けに、プリント基板のアートワーク設計から製造、部品調達、実装、組立、筐体設計まで一貫した事業を行ってきました。2000年ころから半導体関連ビジネスに参入し、半導体メモリやICメーカー向けが使う検査ボードを開発しています。主な取引先は国内外の大手半導体メーカー向けがほとんどです。

マツは入社以来ずっと半導体テスター基板のはんだ付を担当しています。要求が高い業界なので色々と無理難題に直面してきましたが、彼は決してNOと言わない、やるしかないといって頑張っています。

 

–日本大会へはどういう経緯で出場したのですか?

松並さん
毎日色々な基板にはんだ付をしていますが、なかなか外の世界を見る機会が少なく、自分のはんだ付レベルはどれくらいなんだろうと常々思っていました。ちょうどその時に、ジャパンユニックスから、IPCはんだ付コンテスト日本大会のメールが届き、参加を決めました。ちょうどよい機会でしたし、自分の勉強にもなると思いました。

西川さん
マツの作業は仕上がりがとても綺麗で下手ではないと思っていました。井の中の蛙ではいけませんし、色々見て経験してくることが大事だと思ったので会社としても背中を押しました。

 

–結果は参加者のなかで唯一、課題をすべてクリアしての優勝でした

松並さん
前の組まで課題をクリアできた人が誰も出ず、私も「完成させなければいけない」と思って手が震えるくらい緊張しました。どうしようと思ってニシさん(西川さん)を見たら、顔面蒼白で私よりも緊張してて笑。それを見たらスッと楽になりました。課題をクリアした時は嬉しくて思わず叫んでしまいました。

 

–世界大会まではどう過ごされたのですか?

松並さん
通常の仕事に戻りましたが、営業が取引先にPRしてくれたり、お客様からも、より高い品質を期待されたりと、ハードルがひとつ上がったなと感じていました。更に前よりも仕上がりを意識するようになりました。

日本大会の課題ははんだ付だけでしたが、世界大会は部品を取り外して再実装するリワークも含まれます。そのためのトレーニングを約4日間、東京のIPC公認トレーニングセンターで受講しました。今までは、はんだ付もリワークも自己流でやってきましたが、業界標準であるIPCで理論的に学ぶことができて、とても収穫でした。知らなかったことや私のやり方と異なる部分も多く発見でき、ここでのトレーニングが本番でも大きく役立ちました。

 

いざアメリカへ。大会では思わぬハプニングも

–世界大会はどのようなスケジュールだったのですか?

松並さん
1月29日と30日の2日間で行われ、現地には28日に入りました。現地では弊社の現地法人であるPWB America, Inc.のスタッフが合流し、移動から宿泊、食事まで何から何までサポートしてくれました。おかげでストレスなく大会を迎えることができました。

 

–大会はいかがでしたか?今回ははんだ付けだけでなく、リワークもありました

松並さん
日本の時よりは落ち着いていました。私は最初の組だったので他の人の作業を見なかったのも良かったかもしれません。事前の情報で、中国や他の国の人々はスピードが相当速いと聞いていました。でも今回はリワークが課題にあり、速さは同点の時に差別化するための基準と明確にされていたので、丁寧な作業と品質が重要だとはじめから思っていました。世界大会ですから完成させることが当たり前であり、その上で一つひとつの作業を考えながら慎重に、丁寧にやることを心がけました。

 

–他国の参加者を見てどう感じましたか?

松並さん
確かに作業は速いのですが、多少強引なところが目立ちました。特にリワークで部品を取り外す時の丁寧さに欠けていた印象です。中国や東南アジアは量産工場が多く、そこで作業されている方が多かったのかなと思いました。

–大会ではトラブルもあったようですね

松並さん
大会主催者のミスでフラックスが会場に届かなかったんです笑。それで大会開始直前に、今回は全員、フラックスなしで課題に取り組むことになりました。フラックスを使うのが当たり前であり、一気に難易度が上がりました。

西川さん
想定外の事態が起きてからのマツには本当に驚きました。QFPのリワークについて、通常は温風をあててQFPを取り外してからパッドを綺麗にし、改めて数カ所で仮固定をしてフラックスを塗って実装をします。しかし今回はフラックスがありません。そこでマツはすべての接合部にこてを当ててはんだを足し、はんだに練り込まれているフラックスを抽出しながらワークを取り外しました。それからパッドを綺麗にし、再び実装したのです。このやり方をやったのはマツだけでした。

他の参加者は温風を当ててから無理矢理外していたりと苦戦していたようです。あれだとパッドや基板にダメージを与えるのであまりいいやり方ではありません。

松並さん
私もはじめ温風を当てたのですが取れなかったので、このやり方に変えました。スピードは落ちますが、取り外した後にホールが元通りになり、その後の再実装が綺麗にできるんです。日本大会の後のトレーニングで今回のやり方を教わっていたので、それを活用しました。フラックスがないと言われた時は驚きましたが、あの場面でとっさに動けたのはトレーニングの成果だと思います。

西川さん
あの臨機応変さは「さすが」と関心しました。日々のトラブル対応の経験が役にたったのかもしれません。当社の社風として、追い込まれた時でも、「常に対応策を考えて何とかする」という文化があります。そこにマツの逃げない姿勢が加わって良い相乗効果が生まれたんじゃないかと思っています。

 

史上初のパーフェクトで優勝 日本人初の世界チャンピオンに

–はじめから世界一を狙っていたのですか?

松並さん
世界一を狙っていた部分と弱気な部分、気持ち的には半々でした。こういう場面で自分が頑張ること、世界一になることで会社に貢献でき、会社の名前を広げられると意気込んでもいました。その一方で、他の参加者の作業方法を見るだけでも勉強になるかなと気楽に考えていた部分もあります。

–優勝した時の気持ちは?

松並さん
発表された時、ニシさんや現地のアテンドしてくれた人たちがすごく盛り上がったのを覚えています。自分ができることをやって、それで周りの人々が喜んでくれたのが一番嬉しかったですね。

西川さん
会長が本当に喜んでいました。自分が立ち上げた会社から、素晴らしい技術者が生まれ、結果を残したことが嬉しかったようです。

 

–ご自身の強みはどのあたりだと思いますか?

松並さん
丁寧さや品質、それと負けず嫌いなところです。できないとは言いたくないですね笑。こうしたらできる、こっちの方が綺麗にできる、やってみたらこうした方が良かったかななど、作業ごとに工夫しながらやってきました。多くの失敗もしましたが、それをどう活かすか。常に考えながらの作業を10年間ずっと続けています。だからIPCのトレーニングは新しい知識と技術が身につけることができて楽しかったです。これを次の作業にどう活かし、工夫していくかの繰り返しです。

また、親に似て几帳面だと思います。例えば、一つの作業が終わるたびに机の上を片付けていかないと気持ち悪く、世界大会でも時間がないのは分かっていたのですが、いつも通り机の上を片付けながらやりました。

西川さん
マツは普段から自分の理想の姿があり、そこに向かってまっすぐ進んでいく感じです。

当社は創業以来ずっと「お客様のために何とかする、あきらめずにやる」「要求に対して自ら考えて解決する」という風土があります。回路の設計ミスやお客様からクレームがあった時、それを現場の実装部門でカバーすることが多くあり、そうした時こそ腕の見せどころです。ミスやクレームは好ましくはないですが、トラブルは社員が自ら考え、成長するきっかけになります。マツもそうした経験を重ねてきたこと、さらにその根底には社風が根付いているのが嬉しいですね。

 

目標ははんだ付のプロフェッショナル はんだ付の楽しさを広めたい

–世界一になりました。これからの目標ややりたいことはありますか?

松並さん
社長やニシさんも含めて会社は社員に対し常に「プロフェッショナルになれ」と言います。プロフェッショナルとは技術と理論の両方を身に着け、言語化できる人のことを指し、私はまだまだです。技術は経験と体が覚えているので自信があります。理論は勉強中で、人に教えるなんてまだ先の話です。それでも将来的にははんだ付の専門家として講師や教師のような立場になり、子供や多くの人にはんだ付の楽しさを伝えていきたいです。

また、今は何かあっても個人のチカラ技で対応してしまっています。本来は周りの人と協力して作業の標準化や改善、新しいやり方を考えなければいけないのですが、できていません。これからは新しい治具を考えたり、周りを巻き込んで工程を変えていくといったことにも挑戦したいですね。

西川さん
会社としてもマツの技術と実績を最大限に活かすようなことを考えたいですね。世界大会の後、アメリカの航空・宇宙業界向けにリワークへ特化してビジネスをしている企業へ連れて行ってもらいました。限られた顧客で、案件数も決して多くはないですが、高い技術水準を求められ、一定のニーズがあるのがとても興味深かったです。例えばこうしたビジネスを日本でも展開できたらと考えたりもします。

松並さん
それは面白そうですね。

 

–世界チャンピオンとして次回大会はどうしますか?

松並さん
今回話題になったことにより、IPCからは次回の日本大会はもっと参加者が増えるだろうと聞いています。日本国内の企業には多くの優れた人がいるでしょうし、そういう人と競うのも興味があります。チャンスがあればやりたいですね。はんだ付の技術も変化していきますし、大会はそれを学び、体験できる機会としても良いと思います。

でも優勝者は次回大会の参加資格がないんです。だから次は他の方に出場してもらい、私はしっかりサポートできるようにしたいと思います笑

 

株式会社ピーダブルビー
滋賀県草津市矢橋町1530-31

 

参考:勝負の分かれ目となったQFPのリワーク

▼一般的なQFPの取り外し方法:ホットエアー工法

05-02a

▼松並さんの適用した方法:はんだラップ工法
糸はんだをQFPの周囲に巻き付け、はんだごてで取り外す

05-02b 05-02c 05-02d

 

はんだ付・リワークワールド・チャンピオンシップとは?

IPC主催によるはんだ付け世界大会。今回は日本と中国、フランス、ドイツ、イギリス、インドネシア、韓国、タイ、ヴェトナムの10カ国から予選を勝ち抜いた12人が参加し、既に実装された20箇所を超す6種類の部品を取り外すリワーク工程、82個の新たな部品を取り付けるはんだ付工程のふたつを合計75分で行い、その出来栄えを評価する形で行われた。

スクリーンショット 2019-03-08 17.30.26

 

編集後記(ジャパンユニックス:IPC国内総販売代理店)

スピードより品質が第一の高難度リワーク制す
日本の製造業を支える『現場力』の高さを証明

昨今の国内製造業では品質面においてネガティブなニュースばかりが目立ちますが、それでも品質や現場力が世界でもトップレベルにあるという事実を証明してくれたことは、多くの日本企業、特に国内に点在する中小・中堅企業に大きな希望と誇りを与えてくれました。

世界大会での優勝という素晴らしい実績の背景には、株式会社ピーダブルビー様の企業理念や社員、松並さんの日々の努力の結果であり、必然であったと感じました。「より難易度が高い生産」「より困難な状況での現場対応」といった日々の工夫が、日本の製造業を支える、『現場力』の源泉であることは間違いないでしょう。日々の工夫と改善が、日本企業持つ隠れた強みであり、その蓄積と世界基準が合致したことで、その強みが顕在化したのだと考えられます。

今回は、はんだ付・リワークという限定的な世界ではあったかと思いますが、多くの企業で同様の強みが、潜在化しているはずです。是非、ひとつでも多くの企業が、PWB様のように、その強みを世界で示し、高密度化進むエレクトロニクス産業や世界市場での活躍へと繋げて頂けると嬉しく思います。

余談ですが、IPCでは、以前までのはんだ付だけでは、世界大会だとそこまで大きな差が出にくく、スピードが最重要視されてしまいます。本来は、品質が第一優先であり、スピードは第二優先のため、今回よりより難易度を高めてリワークを含むことになりました。

参考:ジャパンユニックス


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。趣味は釣りとダーツ。