【インタビュー】日本能率協会コンサルティング、アフターコロナ・With...

【インタビュー】日本能率協会コンサルティング、アフターコロナ・Withコロナにおける製造業の働き方改革

「強い現場」が競争力のカギ

日本能率協会コンサルティング 生産コンサルティング事業本部
本部長 シニア・コンサルタント 石田秀夫氏
副本部長 シニア・コンサルタント 今井一義氏

 

新型コロナウイルスの感染拡大は世界の製造業に大ダメージを与え、その光景を一変させた。日本の製造業でもオフィス系業務を中心にリモートワークが広まり、働き方改革が加速している。その動きは現場にも少なからぬ影響を与え、大きな分岐点を迎えている。

アフターコロナ、withコロナと言われるニューノーマルのなかで、製造業と現場のこれからの働き方改革はどうなっていくのか。日本能率協会コンサルティング 生産コンサルティング事業本部 本部長 シニア・コンサルタント 石田秀夫氏と副本部長 シニア・コンサルタント 今井一義氏に聞いた。

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石田秀夫氏

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今井一義氏

 

—— 感染拡大でリモートワークが広がり、働き方改革の声が高まりました。工場など製造現場ではどんな状況だったのでしょうか?

石田氏
オフィス業務のスタッフは在宅勤務でリモートワークになったが、現場はいつも通り出勤していたところが多かった。

現場では感染拡大防止のためにさまざまな対策がとられた。作業エリアへの仕切りの設置や作業者の手袋とマスクまたはマウスガード着用、ソーシャルディスタンスとして作業者の間隔を広げたりなどが行われた。ワークの取り扱いについても、人によって触る位置を変えて接触を減らしてウイルスの広がりを未然に防げるようにするなど、作業のやり方を見直した企業もあった。

また現場での生産の様子をスマートフォンで撮影してリモートワークをしているスタッフと情報共有をしたり、普段なら集合して行う朝礼をLINEで行ったところもあり、スマートフォンなど身近なデジタルツールを使った工夫も見られた。

 

管理系業務でも簡易的な仕組みを整備し、ラインのサイクルタイムと稼働率、出来高のデータを取って問題箇所を発見して改善につなげたり、点検系の業務でも「現場課題シェア」というアプリを使い、現場で課題がある箇所を写真でとり、タグやメモを付けて管理するなど、ちょっとしたツールでデジタル化を始めたところも多かった。

新型コロナウイルスの感染拡大がトリガー(引き金)となり、製造業でもリモート化やデジタル化、WEB化が進んだことは間違いない。現場においても、出勤して業務を行うことは変わらなかったが、これまでの業務の見直しが行われた。特にデジタルツールを使った取り組みも行われ、そこではデジタルリテラシーが高く、柔軟性がある若い人の活躍が目立った。

 

今井氏
何が起こるか分からない環境になり、経営者の考えが変わってきているのは確か。今までできていなかったところを改善していこうという気運が出てきている。改善でムダな業務を減らし、残った業務をデジタル化や機械化してリモート化や働き方改革へつなげていく。そうした取り組みが盛んに行われている。

例えば、食品や化粧品製造現場では検査工程の自動化が進んでいるが、最終チェックだけはエラーが出やすく、目視検査をしていることが多い。5Gや画像処理技術の進化を受け、目視検査をリモートでできないかという相談を受けている。

また保全業務は通常、安全のために2人1組で行う。ここにリモート技術を活用し、1人が点検に向かい、1人は遠隔で作業の監視や支援を行い、省人化と業務効率、安全性を高めたという企業もある。

 

あるプラントではこれを技術継承に応用し、若手が1人で点検箇所に向かい、画像や音声を遠隔地にいるベテランに共有。ノウハウやコツを教わりながら作業を行うことで技術を身に付けていくことができる仕組みを整えた。

これが進めば、海外の工場や技術者に対する支援や教育も可能になる。今までは現地に行く必要があったものが、日本に居ながらにしてできるようになる。言葉の問題はあるが、最近は優れた翻訳ツールも出ている。どんどんボーダレスになっていくだろう。

 

国内回帰など新たなBCP検討へ

—— これまでのDX推進は、生産性向上や利益拡大を旗頭に進んできました。それがコロナ禍によって働き方改革、現場で働く人の保護、BCPに注目が集まってきています。これから製造業はどんな動きが予想されますか?

石田氏
今回のコロナ禍では、世界で一斉に生産が止まり、サプライチェーンが途切れた。これは初めての経験で、BCP的には良い教訓になった。

これを受けて今後の日本の製造業のあり方も、生産拠点の国内回帰、中国への過度な依存の反省、ASEANシフトなど新しいBCPの検討、リスク対策の冗長化が進んでいくと予想している。

国内回帰してある程度の生産量を作るためには自動化が必要になる。国からも多くの補助金が出ていることもあり、ものづくりのレベルを上げていく動きが盛んになるだろう。また危機が起こると助け合いの意識が強くなる。製造業でも社会貢献的な動きが出てくるのではないか。

 

今井氏
生産性向上と働き方改革、BCPはトレードオフではなく、事業の前提条件としてBCP要素をいれないといけなくなっている。事業を永続しながら利益を出して投資の原資を作る。BCPを前提として、どう利益を確保していくかという考え方が大事だ。

石田氏
例えばトヨタ自動車は、継続的な改善を繰り返してきて、今も利益を確保している。現場だけ改善している企業は二流。現場も含めて全社のあらゆる部門を改善していくのが一流の会社。危機に直面した時、売上が下がった時に企業の本質が見えてくる。

 

—— 一方で、製造業でも現場を持たず、ファブレスを志向した方がいいという声も一部にあります

石田氏
製造業においては、現場を持たない、または現場を軽視していては良い製品、良い設備を作ることができない。現場で発生した問題からのフィードバックが設備や製品の見直しや改善へとつながっていく。

現場は、強くなければ利益は上がらず、弱ければお荷物になる。強い現場にするためには、高い目標を設定し、革新的なラインを作り、継続的な改善を行うことが大切だ。

革新的なラインとは、大きさの異なる製品を一つラインで作れたり、工程の長さが従来の5分の1や3分の1になったものなど。それを実現するには製品設計の見直しも必要となる。これは現場を持っていないとできない発想で、模倣不可能性にもつながる。

 

例えば、村田製作所のセラミックコンデンサは彼らしか作れない。オンリーワンを実現している。マツダも大中小の異なる大きさのエンジンを一つのラインで作るという非常識をやってのけている。それがいい製品、いいライン、いい現場につながっている。

また現場を持つことは、その地域に雇用を生むという社会貢献にもつながる。

 

改善楽しむ土壌づくりを

—— 強い現場づくりは、現場で働く人々の力が欠かせません。DXやデジタル化、働き方改革で現場に活力を生み出すにはどうしたら良いでしょう?

石田氏
強い現場、現場のモチベーションが高いところには共通項がある。それは、経営者が現場を「労務使いしていない」ことだ。

経営者が現場を単なる労働力として見ている企業では、現場の人は面白くなく、不幸だ。人は考える動物であり、身の回りの問題を見つけて改善し、そこに楽しみを見い出すことができる。改善とはラクになること、ラクして儲けるための活動。自分で考え、改善してラクになったら楽しい。それを現場に理解してもらい、定着させていくことが肝要だ。

昔から製造業の現場では、一人前の定義として「作業半分・改善半分」と言われる。標準作業ができるだけではまだ半人前。改善もできて初めて一人前と認められる。自動車産業では、1人あたり生産、改善、設備保全、工作の四役を担うことが多い。ベテランになると、板金や溶接などの技術を身につけ、自分で改善用の道具や棚などを作れるようになる。そこまでできると働くことが楽しくなる。最近はそこに五つ目としてデジタル化も加わり、楽しめる要素は増えている。

こうした現場の人の働き方を理解していない経営者は多い。安ければいいと思っている人もいて、そうなると現場は辛い。生産作業が楽しくなると現場は生き生きとし、強くなっていく。

 

今井氏
現場で作業をして、改善にも取り組み、設備の状態を見ながら成果も上げる。それを楽しく、面白く行えるようになること。結果としてそれが利益につながり、周りも含めてWin-Winでハッピーになる。それが現場における働き方改革の本質だと思う。

改善すると仕事が減ると恐怖感を持つ人もいるが、少なくとも正社員がそんなことを考えていたらダメ。正社員は自分の仕事の付加価値を出すことが求められる。現場の問題点を見つけて改善し、褒めたり報奨金を出したりして、パートさんを巻き込んで強い現場づくりを進める。

何もやらなければ機械に置き換えた方が安くなり、競争力も失っていく。仕事の中身を変えていくことが強い会社の条件であり、今後生き残る上で重要になる。

 

—— 最後に

今井氏
デジタル技術はツール。そこから情報を得て、どう変換して活用するかは現場次第。現場が強くなれば、もっと多くの情報を、もっとリアルタイムに使い、さらには設計など上流にフィードバックするようなことが自然発生的に起こるようになる。デジタル化は現場がツールを使いこなせて初めて上手くいく。

現場の人をサポートし、企業の進化につなげるのが当社の役割。スマートファクトリーや新しい工場やラインを作る時、箱だけでなく、成果につなげるところまでお手伝いをする。

 

石田氏
デジタル化をトップダウンで行い、現場で起きていることが見える化されたが、現場が改善につなげられず、単に見えるだけになってしまっている企業も多い。製造業では、最終的には人の考える力、改善する力が大きな武器になる。これからデジタル化が進むと企業の改善力の差が明らかになってくるだろう。

当社のポリシーは「現場を大事にすること」。DX、デジタル化、スマートファクトリーにしても、日本に合った日本流の勝ち方がある。当社では現場改善の支援や現場が使えるIoT七つ道具を用意し、デジタル化を支援している。

その一方で、上流からの戦略的アプローチもでき、スマートファクトリー構築もサポートしている。企業にとって新工場やライン増設は数年から数十年に一度の大プロジェクトで、社内にはそれを経験している人は数少ない。当社はそれを日々行っていて知見があり、似た業界や他の業界などの経験も豊富にある。それらを活かして製造業企業の強い現場づくりを支援していく。

 

■日本能率協会コンサルティング(JMAC)


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。2016年5月〜「ものづくりニュース by aperza」編集長兼任。 趣味は釣りとダーツ