ものづくりニュース by aperza

《海外出張》の難しさ

《海外出張》の難しさ

最近、海外出張中の20代社員が自殺をしてしまうという非常に痛ましいニュースが報道されていました。

企業側から従業員の両親に対して和解金が支払われるということですが、失われた命は戻るわけもなく、子を持つ同じ親としてご両親の失望と悲しみの大きさを想像するだけで押しつぶされそうです。

その一方で、苦しいのは企業側も一緒なのかもしれません。

 

英語が堪能でモチベーションも高かったであろうその社員の方は、わずか3年目で責任ある立場で海外に出張。

新設工場の管理点検責任者ということで、技術者の一員ということになります(品質管理担当者)。

グローバル化の進む昨今において、海外で活躍できる社員は宝。

 

加えて、母国以外で現地の人と力を合わせて何かを成し遂げることで自信をつけて戻ってきてほしい、という育成の概念もあったはずです。

しかしながら現地で多くの問題が勃発し、その責任を感じ、最後は命を絶つという悲劇につながってしまいました。

今回の問題というのは何なのでしょうか。

相談するすべを知らない若手技術者

得てして若手技術者は相談する、ということをあまり得意としません。

これは今に始まったことではなく、昔からそういうタイプの方もいるのだと思います。

ただし、今の若手の方が「自分で何とか解決したい」という気持ちが若干強い印象があります。

 

そのため、相談するより前に「どうしたらそれを乗り越えられるのか」と考える傾向があります。これは、優秀な若手技術者に共通の思考回路かもしれません。

 

a.まずは自分で考える。
b.時間だけが経過し状況が悪化。
c.何で相談しなかったんだ、と上司にとがめられる。
d.より自己嫌悪に。

 

という悪循環です。これがよくあるケースの1つです。

 

もう一つは、若手技術者が「そもそも誰に相談していいのかわからない」という状態に陥っているということがよくあるということです。

どちらのケースも大切なのは、「予め、相談ホットラインのインフラフォローアップ体制を構築しておく」ということが対策を事前に打っておくということです。

「お前を信用して任せるが、決して一人で抱え込む必要はない。何かあったらバックアップ体制を作ってあるのでここに連絡をしなさい」

 

そんな一言を上司が予め言えていれば今回のような悲劇を防げた可能性があったと考えられます。

上司や先輩も常に準備を

育成の基本は「任せてフォローする」です。

任せて丸投げは育成ではなく、責任放棄です。

フォローできるということは当然ながら任せた側も何らかのフォローアップができる前提です。

 

会社の肩書にぶら下がって事務所で座っていればいいわけではありません。

部下に何かあった時にはスクランブル発進してフォローするという準備をしておくことが求められます。

例えば今回の悲劇では現地で多くの問題が起こったという想定外の事実が判明した段階で、「対策として、これとこれとこれをやってみてくれ。必要なら応援を派遣する。」といえなくてはいけません。

 

本当に困難に直面している時に適切な助言やフォローは、その若手から大きな信頼を獲得することができます。

そしてこの信頼関係こそ育成の基礎となっていくのです。

若手にチャンスを与えた場合は、是非、いざという時に上司や先輩が助力できるよう準備を怠らないようにしてください。

 

そして上記のような問題だけでなく、今回の海外出張を応用した若手技術者の育成というものには非常に高いメリットがあるのも事実です。

本点についてもご紹介しておきます。

海外という孤独が若手技術者の育成環境に最良

言葉も文化も違う海外というのは基本的に孤独です。

そしてこの孤独な環境で全力を尽くすということは、非常に大きな育成硬化が期待されます。

当然ながら上述のようなフォローアップ体制が整っているというのは前提条件ではありますが、以下のような環境にさらされた若手技術者はその力を大きく伸ばす可能性があります。

 

――明確かつ短期的な時間軸(締め切り、スケジュール)があり、それがタイトなこと
なし崩し的に遅れることが許される環境ではない。年単位の時間軸では緊張感がなくなる上、精神的に耐えることが難しくなる。

――代替がないこと
他にその状況を乗り越えるバックアップ手段がない状態である

――グループ会社でないこと
自社の資本が入っていない企業で、トップダウンの指令が困難

――一人であること
すぐ隣に先輩や上司が居ない

――想定外のことが起こる

 

繰り返しになりますが、バックアップ体制が整っているという前提です。

「俺の時代は…」「私の若い頃は…」といった昔話に尾ひれ背びれを付けた話で根性論だけを言うのだけは避けてください。

上記のような状況が重なれば重なるほど育成にとって大きな効果を発揮します。

 

もちろん上記の状況が重なれば重なるほど精神的負担も激増するのでフォローアップをしながらということは言うまでもありません。

技術者に限らず社員が海外で自殺するといった悲劇は繰り返してはなりません。

その一方で、海外で活躍する技術者の存在は今の企業にとって死活問題です。

 

負荷とサポートのバランスを取りながら、海外で活躍する技術者を育成する。

今の企業に求められる人材育成戦略なのだと思います。


技術者育成研究所所長・FRPコンサルタント。入社2~3年目までの製造業に従事する若手技術者に特化した法人向け人材育成プログラムを提供し、自ら課題を見つけそれを解決できる技術者育成サポートを行う。◎東京工業大学工学部高分子工学科卒業後、ドイツにある研究機関 Fraunhofer Institute での1年間のインターンシップを経て同大学大学院修士課程修了。その後、複数の大手メーカーにて技術者として勤務。専門外の企業に転職したときは周りの会話についていけないという苦境に陥るが、試行錯誤の末に活字を基本とした独自の思考法を確立、開発最前線で成果を積み上げたことにより最先端研究プロジェクトリーダーに昇格。また、自らの立ち直りに実践した思考法を応用した技術者育成法により、技術者人材育成に悩みを抱えていた事業部から、多くの自発的課題発見/解決型の技術者を輩出。当時評価の低かった若手技術者を事業部最年少海外駐在者として送り出すなど、技術者教育でも高い評価を得た。◎11年にわたる企業の技術者勤務の後、自らの専門性を生かし複数企業と直接顧問契約を結ぶFRPコンサルタントとして独立。川中から川下の企業の研究開発最前線での技術指導、サポートを行う中で多くの企業が技術者人材育成に苦労している実情に直面し、専門性を生かすも殺すも人材に大きく依存することを実感。さらに自らの技術者人材育成経験から技術者育成には一般的な人材育成と異なる技術者に特化した「技術者人材育成」が必要という考えに至った。その後、技術者に特化した人材育成プログラムがほとんど存在しないことに着目して「技術者人材育成研究所」を創業、FRPコンサルタントとしてFRPに関連する高い専門性の技術指導やサポートを行う一方、現場の技術者の人材育成にも精力的に取り組んでいる。◎主な著書に『CFRP~製品応用・実用化に向けた技術と実際~』(共著)など。◎Professional member of Society of Plastics Engineers( SPE; 米国プラスチック技術者協会)◎– 高分子学会(The Society of Polymer Science) 正会員◎– 繊維学会(The Society of Fiber Science/Technology)正会員◎– NPO インディペンデント・コントラクター協会(IC協会)正会員◎– 国立大学法人 福井大学 非常勤講師 http://engineer-development.jp/