IE分析、デ-タを出してから行動。改善が遅いのでは?

IE分析、デ-タを出してから行動。改善が遅いのでは?

以下の内容はT先生の体験談ですが、筆者に話した内容は、次のような事例でした。

「Y社で、M社のある現場研修会での出来事である。IEという分析手法を勉強していただき、基本的な使用方法と記号、資料による分析手法まで勉強し、いざ、現場分析となった。

その現場は数名の作業で仕事をする現場だったので、『では、ワーク・サンプリング分析を活用して仕事の現状把握をしよう!』ということになりました」

 

ちなみに、ワーク・サンプル手法は下図に示したように統計の原理を用いた手法で、ここで、このような分析には大変に効果的な手法です。

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ご承知のように、この手法は選挙の開票が5%程度であっても、当選確実! という判定をするのに用いたり、テレビの視聴率調査、政府の支持率の調査、マーケティング調査など、幅広く用いられていることで有名、かつ、権威ある分析手法です。

実態のわからない対象(母集団)からサンプルをランダムに抽出して、統計確率の法則を基に母集団の内容を推定するが、データの信頼度をあげるためには、ある程度の数(サンプル数)を集めることが必要です。

 

一般に、簡単な調査でも3~5名程度で5日程の調査デ-タを取るために現場でこれだけに集中しなければならないが、この手法は時計観測のように1対1で被観測者に付きっ切りの観測でないため、集団作業を行っている現場の観測にはよく使用される手法です。

手法の説明はこの程度にして、T先生のご指導の内容に入ります。

 

M社の現場は、ワーク・サンプル手法が活用されていました。

このような分析が行われてから、私のところへ「データを持って相談に行くのでよろしく!」という電話がかかってきたわけです。

実は、この手法の教育をしたのは私ではなく、H先生だったのですが、内容をお聞きすると、「手法どおりの分析がなされているので……」ということだったので、たまたま、その企業を訪ねた時に私に相談を掛けてこられたのでした。

 

観測を担当したリーダーと観測者が私を訪れて来ました。

しかし驚くことに、

 

「データを取ったのです。グラフを作成しました。無駄が大変多いことがわかりましたが、このデータをこの後どのように使ったら良いのでしょうか?」という質問が出てきました。

この時、私の流派と異なる分析をやったな! とピンと思った次第です。

 

その理由は「分析は観測時点が問題発見の時である! データは問題を裏付ける道具に過ぎない!」というのが私達の流派だからです。

「問題は発生時点にとらえる!」この内容はIEの師、故・新郷重夫先生の教えるところです。

このような考え方でなく、データを見てから傾向分析という考え方で統計資料をもとに、再度現場に行って問題を見直し、データの中身を追うのでは(この場合に限っては)、死亡診断書的なアプロ-チと迄は言わないが、一手も二手も遅い対策になることは必定だからです。

 

このことが判ると、この相談事の結末が推測できると思います。

……そうです。

「綺麗に纏めたデ-タ-と共に現場で、観測者がとらえた問題、それより得た改善のメモはどうなっていますか?」という質問が出てくるはずだからです。

 

当然のこと、私もこの質問をしました。

「エッ! データを集めてから分析をするのでは遅すぎます!」

「ハイ、しかし、なぜですか? H先生に教えられた通りに分析をここまでやったのですが、何か違いますか?」

 

「ハイ、データは改善すべき内容の重要度を頻度という客観分析で量として示すだけです。

観測とは毎回、問題やムダが発生している内容をとらえることが仕事です。対策する必要があると考えつつデータを取っていく行為こそが分析作業なのです。

もし、データを取るだけなら皆様のような仕事のプロでなく、アルバイトでも雇えば済むことです。皆様は現場を見ていて問題が発見できる力をお持ちです。

当然、作業や設備の状況を見ているうちに、「こうすれば良い!」という問題点~改善アイデアを思いつくはずです」

 

「確かに、しかし、H先生はデータを取ってから、重要な問題を見つけて改善すべきだ! と言っておられたものですから……」

「その先生の方法はひとつの方法かもしれませんが、では、H先生、実務的にその内容をどうしなさい、と教えていただきましたか?」

「いえ、ワーク・サンプリングの理論と演習問題と改善事例だけでした」

 

「そうですか、その、H先生のお教えはわかりませんが、H先生自体のワーク・サンプリング活用に関する体験談はいかがでしたか?一緒に現場へ同行して分析をこうするのだ、というご指導はなかったのですか?」

「ハイ、手法と演習題だけを教えていただいただけで帰宅されました。今、H先生は長期のご出張なので同じ手法を良くご存じのT先生にご相談となったわけでして……」

 

「そうですか、H先生と私は面識も、仕事をご一緒した経験もありません。したがって、何か違うやり方が有るのかもしれません。

しかし、データを見ていても現場の問題、改善案が目の前に浮かびませんよね! だから、困っておられるわけですよね」

 

「ハイ、そうです」

「どうでしょうか、あと、1日私のやり方で測定を追加していただけませんか?」と私は言い、早速、現場へ出て、ビデオで現場を写し、映像を止め、

「瞬間観測のデータはこのような状態をとられたと思います。ここまではH先生のご指導と同じです。ここから更に、このデータになった仕事は何であり、問題は何? ではどのように改善すべきか? をデータ収集と共にメモってください」と伝えました。

 

また「瞬間観測はデータという頻度だけを取るためのものではありません。私たちは仕事の前後も見ています。

どうでしょうか? あの工具の位置はもっと機械と近接すれば楽になるし、スイッチを2分割し、歩く距離を減らせばその分仕事が早くなります。

そのような改善をすれば、ここに撮った歩行に関するデータは省略となる改善案ができるのではないでしょうか?」

 

と、現場へ出てつかんだ内容を、もう一度ビデオで再現して、分析=改善点発掘の指導をしたわけでした。

すると、「ナルホド! わかりました。最初からそうすべきだと思って観測していたのですが、H先生の話で疑問に感じていたのですが……今、霧がはれました」

「ご理解願えて幸いです。では、他に、このようなケースが多ければ、やはり改善をすべき! と考えて、列挙してください」

 

「改善内容はデータを用いてウエイト上げていくわけですか?」

「ハイ!」

「要は、改善頻度が多い仕事は改善重要性が高いということですね?」

 

「そうです」

「先にお話したように、データを取りながら、改善をどのように進めるのか? ずっと私には疑問でした。今回、初めて測定の要点がわかりました。……データ作成がワーク・サンプリングの観測の目的ではなく、改善発掘の裏付けづくり、むしろ、現場問題をとらえた時が改善創出の時なのですね!」

 

「ピンポンです」

「そして、デ-タ-は改善すべきウエイトづけ、というわけですか!」

「ご明解です!」

 

そして翌週、今回は、マクロな円グラフではなく詳細な項目と改善の内容を記載したデータが収集された、わかり易い内容がT氏のところへFAXで届きました。

また、お礼のお電話もいただいた、とのことだったが、「いま、改善をどのようにすすめるべきか相談中です。この改善について良い文献やビデオなどの内容はないでしょうか?」という状況だったとのお話でした。

なお、T氏が意としたお話でこの指導は終了したわけですが、「ワーク・サンプリングの結果、30%もの生産性向上がこの職場ではなされ、他の職場へワーク・サンプリングが広がっていった」とのことでした。

コメント

ワーク・サンプリング法と時計観測によるストップ・ウオッチ法の差は下に示した表のようになります。

多くの違いはありますが、両者とも、正確な実態観測に加え、「発生時点である、観測時点で問題をとらえて記録する」ということが要点となります。

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この例に似た内容が異分野にもある」ということで体験談を紹介することにします。

筆者は中年になってから剣道の修行を開始~今に至っていますが、剣道のある師にお会いして学ぶ中で、先のH先生とT先生の差にあったように、指導者の指導方式の差で生徒の行動は随分違ってしまう! と思ったことがありました。

 

その道場では剣道は7段、6段が沢山おられます。また、日本で最高位という8段の先生は二人です。

私は6段ですが、最下位のグループで修行を受けさせていただいている状況です。

ここは生徒の上達が早いことで有名な道場の一つですが、私が感銘している内容の一つに、問題発生時点に厳しく改善をご指導される教育方式があります。

 

一般に、剣道では、「師の技を盗め」というのが剣道の教とされています。

指導者が弟子に教えると、たちまち打たれてしまうため教えない行動に出るわけで、習う側は盗む以外に追いつく手がないわけです。

一般の道場では、ある程度先生と親しくなり、人間関係も良い道場では、稽古が終わってから、ワンポイントのご注意がいただける、というのが通常です。

 

しかし、習う側にとって、その内容は後で考えても思い出せない、タマに起きる内容のご注意か? クセか? 教えた内容のコツか? できるようになるまでには時間が大変かかります。

だが、筆者が通う道場では違っています。

理屈に合わない技で打つと、即座に先生が「待て! 今何をしようとしたか?」防具をつけていても、先生のお声だけで、バシッと面を打たれた感じです。

 

また、その瞬間は、体が固まりますが、即座に、先生がおいでになって、「さっき教えたようにこうするのだ!」とやって見せられ、できるまで繰り返しをさせられるわけです。

そこには全くの妥協がなく、ふだんは仏のような先生が鬼になったように指導されます。

先生の言は「竹刀と思うな、これは刀だ、命のやり取りだから真剣勝負という……」と話されます。

 

しかし、このご指導は1月に2回しか受けらない状況です。したがって、その間は教えを目標に自分の稽古をします。

これが皆が腕をあげている理由ですが、この指導内容は、正しいやりかたを身につけるため、問題の発生時点に見つけて治す方式の実践です。

高い問題意識に立ち理想と実態を比較しながら技術を改善する、という内容です。

 

このような話をここに記載した理由ですが、私は、先の仕事に通じる類似性を感じてきました。

加えて、剣道には、「3年かかっても良き師を得ずば学にしかず!」という格言があります。

要は、『発生時点問題対策の発掘!』という内容です。

 

私の場合、ワ-ク・サンプリング法も、幸い、良き師について教わってきたので、先のご相談のような事態に陥らなかったことに感謝しています。

このため、筆者は、剣道で教えられた内容を、下の図で示し、仕事に生かしてきました。

以上、異分野の話で恐縮ですが、T先生指導の、観測データ収集時には、データを取りつつ、分析=問題の発掘=改善案の創出という方式の利用を、皆様にお勧めします。

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昭和45年から平成2年まで、日立金属㈱にて、全社CIM構築、各工場レイアウト新設・改善プロジェクトリーダー、新製品開発パテントMAP手法開発に従事。うち3年は米国AAP St-Mary社に赴任する。平成2年、一般社団法人日本能率協会専任講師、TP賞審査委員を担当を歴任する。(有)QCD革新研究所を開設して活動(2016年有限会社はクローズ、業務はそのままQCD革新研究所へ移行)。 http://www.qcd.jp/