FBIA角田副会長インタビュー 日本発の新産業ファインバブル 12兆円...

FBIA角田副会長インタビュー 日本発の新産業ファインバブル 12兆円市場に向けて

 微細な泡を意味する「ファインバブル」。日本で開発され、世界をリードしている新産業です。将来的には市場規模が12兆円を超えると言われ、注目を集めています。そんなファインバブル産業について国際標準化や認証制度等を整備し、大きく成長させようとしているのがファインバブルの業界団体であるファインバブル産業会(FBIA)です。どのように育て、盛り上げていこうとしているのか。FBIA副会長の角田直行氏(西日本高速道路(株) 執行役員 技術本部長)に話を聞きました。

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–ファインバブルとはどのようなものなのか教えてください。

 当協会では、「ファインバブル」とは直径100μm未満の微細な気泡のことを定義しています。なかでも1μm以下の目に見えないほどの小さな泡を「ウルトラファインバブル」と呼び、それ以外を「マイクロバブル」と分類しています。

–なぜ、いまその小さな泡が注目を集めているのですか?

 ファインバブル自体はごく微小な気泡に過ぎませんが、産業用途での応用範囲が広く、すでにハイテク産業から製造業、飲食料品、農業、漁業まで、本当に幅広い業界で使われています。技術的にも未知の部分が多く、さらなる進化が期待されています。またビジネスとしても無限の可能性を秘めています。
 ファインバブルは日本発の技術で、製造も計測技術も、アプリケーションも世界をリードしています。日本経済の活性化に貢献する有望産業としても注目されています。

–具体的に、ファインバブルはどんな特徴があり、どこで、どのように使われているのですか?

 ファインバブルには大きく4つの効果があると言われています。

①帯電していて水中の不純物を吸着する浄化作用
②弾けた時に生じる衝撃圧力による殺菌作用
③高い酸化状態を維持し、有機物の汚れを分解する酸化作用
④溶存酸素が増えることにより水棲動植物を元気にする生理活性作用

です。これらを使い、水質浄化や洗浄、殺菌等の分野で活用されています。

 例えば、自動車のエンジンの製造工程での洗浄に使われたり、太陽電池向け半導体のウエハの洗浄工程でも採用されています。飲食品分野では、ファインバブルを含んだマヨネーズが商品化されています。舌触りが滑らかで、カロリーも少ない健康志向のマヨネーズとして人気です。
 また水耕栽培にファインバブルを使い、野菜の発育促進や牡蠣の養殖などにも活用されています。高速道路の休憩施設のトイレの清掃、橋脚の長寿命化のためのメンテナンス洗浄などに使っています。
 このようにファインバブルは、農業から製造業、建設業、サービス業まで、業界業種問わず幅広い分野で使われています。ただ、これもごく一部に過ぎません。これからさらに広がる見込みで、ファインバブル関連システムの将来的な市場規模は、2020年に4兆3000億円を超え、2030年には12兆円に達すると言われています。

–12兆円とはすごい市場ですね。期待が大きいのも分かる気がします。

 ファインバブルの凄さはこれだけではありません。例えば、泡は通常、浮かんで水面に到達すると弾けて消えます。しかしファインバブルは上昇する速度が遅く、泡よりも長い時間液体の中にとどまっています。さらにウルトラファインバブルになると、浮力より粘性力がまさりブラウン運動によって水の中に止まり続けます。この特性を使えば、気体の長期保管や移動輸送が簡単になります。

 またファインバブルは気体と液体の組み合わせであり、どんな気体を泡にするかによって得られる効果は異なります。香りを含ませた空気を泡として飲料に入れればフレーバー付きの飲料になり、酸素や窒素ガスを泡として水に入れれば、気体濃度の高い水が得られます。液体は水以外でも使うことができ、組み合わせは無限大に広がっています。
 ファインバブルは、これまでの泡の概念を覆し、気体の扱い方をも大きく変える可能性が十分あり得る技術なのです。

–FBIAの活動について教えてください。

 FBIAは2012年7月に、ファインバブル産業の健全市場の形成と産業の加速的発展を目指し、一般社団法人ファインバブル産業会として発足しました。会員は、ファインバブルを作る発生機メーカー、液中のファインバブルの有無やサイズを測る計測器メーカー、そしてファインバブルを活用するユーザーで構成されています。当初は20社で発足し、今では60社以上が参画しています。最近は、ユーザー企業の入会が続々と増えています。

 FBIAは、発足当初から国際標準化と認証制度の整備を目指して活動してきました。産業として健全に成長させていくためには、国際標準化で規格を明確にし、それに合っているかどうかを厳しく評価試験し、認証を通じて不良品や偽者を排除する仕組みが欠かせません。

 また国内市場だけを見ていると、市場が小さいので生産ロット数が少なく、各社が異なる規格で作るので低価格化が難しくなります。アプリケーションも限られます。それに対し、国際標準化すれば、グローバル市場に対して、部品を共通化して低コスト化でサービスを提供でき、それにともなって用途が広がり、ビジネスチャンスが増えていきます。ファインバブルでは日本は世界から一歩先を行っていて、先行者利益を得ることができます。海外輸出に関しても、今の仕様で提供できるというメリットがあります。
 これまで国際標準化から認証までの一連の流れは欧米が得意とするところで、多くの産業で彼らがビジネスの核を握ってきました。ファインバブルでは、日本が中心となって産業をリードするような仕組みづくりを目指しています。

–具体的な進捗状況はいかがですか?

 国際標準化では、2013年に私たちの提案によりISO/TC281「ファインバブル技術」が設立され、イギリスやドイツ、ロシア、中国、韓国、オーストラリア、シンガポールといった国々と連携し、世界を巻き込んだ形で進めています。ファインバブルの用語と基本原則、特性評価法と計測法、アプリケーションなどそれぞれを検討するワーキンググループにはFBIAの主要メンバーがエキスパートとして参加し、規格化を主導しています。

 認証制度についても、2015年6月から製品登録制度を開始しました。企業がファインバブル技術の利用に関する科学的データを保有する製品・サービスをFBIAに登録し、それに対してFBIAは登録マークの添付を許可して公表します。これにより、消費者は製品/サービスの購入の際に表示マークを見て、きちんとしたデータがある信頼性のある製品として認識でき、安心してファインバブル技術を使った製品を選ぶことができるようになっています。製品・サービスを提供する側にとっても、自社の技術優位性を標準というものさしで明らかにできるようになります。

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–今後について教えて下さい。
 ファインバブルは観察が難しく、原理が確立されていない領域も存在します。そのため「ナノバブル」と称する商品の中にはバブルの存在の、データもないような有象無象のものが流通してしまっています。アプリケーション分野がきちんと広がり、成長するためには、早く標準化を進め、正しいもの、優位性があるものを明確にし、おかしな製品やサービスが出回らない仕組みづくりを早急に進める必要があります。
 例えば牛肉は、日本食肉格付け協会が測定して等級分けされています。そこでは最終製品の品質がオープンになっていて、それを生み出すまでの、何をどうやったかという飼育情報は各生産者の知的財産としてクローズになっています。このため、品質のおかしな牛肉は流通せず、消費者も良い牛肉を安心して、簡単に選ぶことができるようになっています。

 FBIAは、発生機及び計測機を活用する企業と、大学や研究所でファインバブルを研究する研究者の集まりであるファインバブル学会連合、各県がまとめ一丸となる地方産業でファインバブルの活用を広げようとするファインバブル地方創生協議会と連携しています。企業がアプリケーションで出てきた課題を研究者に渡して、研究者がそれを解明し、企業はそのデータをもとに新たなアプリケーションを開発して、また課題を抽出して研究者に流していく。産学官が連携して進化する良いサイクルが整っています。これをもっと強化し、多くのアプリケーションとデータ解明を進めていきたい。

 いまファインバブルは色々な分野で興味を持ってもらっていて、たくさんの問い合わせが来ています。もっと普及させるためには、ハードとソフトの両面での進化が必要です。
 ファインバブルの発生機の種類はたくさんありますが、大きさや数をコントロールできる発生装置はまだなく、ハード面ではそれが求められています。ソフト面では、ファインバブルをどう使えば良いのか、適切な数や量はどれくらいなのかといった疑問や不安を解決するための、ファインバブルを使うときの処方箋のようなものが必要とされています。アプリケーションや使う環境ごとに最適な使い方を示したガイドなどを作れば、もっと幅広い分野で使えるようになると思います。

参考:ファインバブル産業会(FBIA)
参考:ファインバブル学会連合


1975年群馬県生まれ。明治大学院修了後、エレクトロニクス業界専門紙・電波新聞社入社。名古屋支局、北陸支局長を経て、2007年日本最大の製造業ポータルサイト「イプロス」で編集長を務める。2015年3月〜「オートメーション新聞」編集長(現職)。趣味は釣りとダーツ。