浜松ホトニクス、200J×10Hz達成—半導体レーザ励起固体レーザで平均2kW・世界最高・1kJ×10Hzの概念設計も
この記事の内容をまとめると…
- 半導体レーザ励起の固体レーザで世界最高となる200ジュール(J)×10ヘルツ(Hz)の出力を達成
- 平均2 kWでの動作と光学素子損傷の限界値を確認
- 1 kJ×10 Hzレーザの概念設計と主要技術課題を抽出
浜松ホトニクス株式会社は、半導体レーザ励起の固体レーザで世界最高となるパルスエネルギー200ジュール(J)を10ヘルツ(Hz)で照射する平均2 kWの出力を達成した。本成果により、1 kJ×10 Hzレーザの概念設計と主要課題を抽出した。
200J×10Hzレーザ出力達成の詳細
本実験は、10 Hzの繰り返し運転における光学的課題や熱負荷のもとで、レーザ装置内で増幅できるレーザ光のエネルギー密度の限界を確認することを目的の一つとして実施した。レーザ媒質の冷却性能を高める機構部の改良と、レーザ光のビーム品質を高める工夫により、従来の2倍以上の光エネルギー密度での出力実験に成功した。これにより世界最高のレーザ出力を達成するとともに、本装置で増幅されたレーザ光が内部の光学素子に損傷を与える出力の限界値を確認した。
レーザの高出力化に向けてLD(半導体レーザ)の励起パワーを1.5倍まで増強し、発熱の影響を独自の冷却構造の改良とヘリウムガスの流量増により軽減、装置全体の動作条件を最適化することでレーザ媒質の特性劣化を抑制した。その結果、パルスエネルギー200 J、繰り返し10 Hz、平均出力2 kWのレーザ出力に成功した。
本成果により、高いパルスエネルギーを繰り返し出力するレーザのさらなる大出力化設計が可能となった。1 kJ×10 Hzレーザの実現に向けた概念設計と主要な技術課題の抽出も行った。
どのように活用する?
本レーザ装置によるレーザを、中性子を安全に遮蔽できるレーザ照射施設へ供給し、レーザフュージョン研究に応用できる。さらに、レーザ加工、宇宙デブリ除去、半導体露光用光源などにも展開しうる国家的重要技術と考えている。本実験で光学素子の一部が損傷した本大出力レーザ装置は、1 kJ級レーザの開発のための基礎データ取得やレーザフュージョン実験施設での研究のため年内に再稼働する。
仕様・スペック
達成出力 | 200 J×10 Hz(平均2 kW) |
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励起源 | LD(半導体レーザ) |
高出力化の主因 | LD励起パワー従来比1.5倍、独自の冷却構造改良、ヘリウムガス流量増、動作条件の最適化 |
従来到達 | 250 J×0.2 Hz(2021年)、100 J×10 Hz(2023年) |
マイルストーン | 1 kJ×10 Hzレーザの概念設計と主要技術課題を抽出 |
その他
- 発表:第13回レーザ核融合科学と応用に関する国際会議(13th International Conference on Inertial Fusion Sciences and Applications)にて口頭発表(2025年9月14日〜18日、仏国トゥール市)
- 装置の来歴:2016年〜2021年にNEDOの委託事業として開発し、事業終了後に取得。東京大学が管轄するレーザ加工プラットフォーム「TACMIコンソーシアム」の枠組みで利用可能
- 研究の背景:レーザフュージョンの実用化には繰り返し出力が必要。米国NIFでは2メガジュール級レーザにより2022年12月に点火を実証し、当該装置の照射は数時間に1回程度である