早稲田大学、バラ花びら模倣の非接触汗センサー開発 2mm離隔で1秒未満応答、水分保持3倍・自己洗浄2倍
この記事の内容をまとめると…
- バラの花びらを模したマイクロテクスチャで汗中イオンを非接触測定する薄膜センサーの開発
- 従来比最大3倍の水分保持力と約2倍の自己洗浄性能の実証
- 2 mmの非接触ギャップでも1 s未満の応答で安定計測、医療・スポーツ分野やヒューマンマシンインタフェースへの応用可能性
早稲田大学は、バラの花びらの微細構造を転写したイオン選択膜を用いる非接触型の汗センサーを開発した。従来比で水分保持力や自己洗浄性能を向上し、2 mmの空間を隔てても高感度に測定できる技術である。
バイオ模倣非接触汗センサー詳細
本研究は、バラの花びら効果に着目し、PDMSモールドを介してPVC系イオン選択膜(ISM)にシワ・突起の微細構造を転写したものである。これにより、汗滴の付着性と保持性を高めつつ、非接触での電気化学測定を可能にした。ISMとAg/AgCl参照電極はカーボンナノチューブフォレスト(CNT)スポンジ上に構築し、手首装着型デバイスとしての動作を検証している。
どのように活用する?
脱水・熱中症の早期予測やアスリートの水分管理への活用が見込まれる。粘着剤不要であるため、高齢者や皮膚疾患患者でも長期使用が可能である。在宅モニタリング市場への展開が見込まれるとともに、義手・外骨格などのヒューマンマシンインタフェースに電解質フィードバックを組み込むことで安全性と快適性の向上が期待される。
仕様・スペック
接触角 | 未処理ISMは90 度、バイオ模倣膜は76.8 度 |
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水保持量 | 静置試験で未処理比約3倍に増加 |
自己洗浄 | 動的試験で15 mgの荷重下でも4サイクル以上保持し、閾値超過で一括排出 |
表面積拡大 | Sensor Aで16%、Sensor Bで22%の実効表面積増加 |
Na⁺感度 | 約1.1〜1.2 倍、Nikolskii–Eisenman式理論値の76〜82% |
非接触ギャップ | 2 mmでも応答は1 s未満、自己洗浄機構によりドリフトを抑制 |
ウェアラブル実証 | 手首装着でトレッドミル8 km/h、20 分の試験。運動周波数一致ノイズは検出されず、ドリフトは静的条件と同程度 |
電極構成 | ISMおよびAg/AgCl参照電極をCNTスポンジ上に集積 |
その他
・研究の波及効果・社会的影響:医療・スポーツ分野での事故防止に寄与し、在宅モニタリング市場の拡大が見込まれる。義手・外骨格などのヒューマンマシンインタフェースに電解質フィードバックを組み込むことで安全性と快適性の向上が見込まれる。
・課題・今後の展望:PVC膜の微細転写限界(約5 µm)やCNTスポンジ電極の機械的耐久性、量産プロセスの確立が課題。今後はAIによる発汗データ解析と組み合わせ、個人最適化された脱水予測アルゴリズムを開発予定。
・論文情報:掲載誌「Cyborg and Bionic Systems」、オンライン公開日2025年8月5日、掲載URL:https://spj.science.org/doi/10.34133/cbsystems.0337、DOI:10.34133/cbsystems.0337
・研究助成:挑戦的研究(萌芽)「リアルタイム汗測定を行うための生物模倣したマイクロ流路の開発(24K21600)」代表:梅津 信二郎、基盤研究(B)「汗生理学構築のためのリアルタイムモニタリングシステム(23K26069)」代表:廣瀬 佳代、基盤研究(B)「成熟化した人工心筋細胞組織を対象としたスマート薬効評価システム(23K26077)」代表:梅津 信二郎
・用語解説:マイクロテクスチャ(数µmオーダーの微細凹凸構造の総称)、自己洗浄性能(水滴が界面を一括で滑落し表面を清浄に保つ性質)、ヒューマンマシンインタフェース(人と機械をつなぐ情報入出力系の総称)、バラの花びら効果(水滴が付着したまま落ちにくい一方、量が増えると滑り落ちる二面性を持つ現象)、イオン選択膜(特定イオンのみを選択的に透過させ電位変化を生じる薄膜材料)