できない人に合わせるとどうなるか?

できない人に合わせるとどうなるか?

1.若宮正子さん

若宮正子さん(85歳)は高齢プログラマーとして知られている方です。プログラミングを独学で習得し、シニア向けのゲームアプリ「hinadan」をつくって、米アップルCEOのティム・クック氏から賞賛され、招待されたことがあります。

昨年、ティム・クック氏が来日したとき「誰に一番会いたいか?」と問いかけたそうです。クック氏は「若宮さんだ」と答えました。

この若宮さんを中心にパネラーの方々が日本のITリテラシーについて議論するセミナーに先日参加しました。

現在、85歳の若宮さんが行政デジタル化の遅れを嘆いているのです。変化に対応する能力や意欲は年齢に無関係なのだなぁと強烈に感じた次第です。

新しいことに挑戦をしなければ!と大いに刺激を受けました。

若宮さんとパネラーの方々が繰り広げた議論のなかで、儲かる工場経営を考えるのに役に立つ論点がいくつかありました。

 

2.「できない人」に合わせる

パネラーの中にエストニアで仕事をしている方がいました。

エストニアは政府がデジタル化政策を次々と推し進めています。世界でも有数の最前線を行く「電子国家」として有名です。

ICチップ付きのIDカードで全ての行政サービスを受けられるそうです。老若男女全てがこうしたサービスの対象になっています。

すると1点気になることが出てきます。

「高齢者もデジタルサービスを活用し、恩恵にあずかることができているのだろうか?」

エストニアでは高齢者も含めて、デジタルサービスを使えるようにサポートもきちんとやられているようです。例えばスマホなどでは高齢者で使えない人がいれば家族全員で教えます。

とにかく使ってみて、教え合う雰囲気があるようです。「できない人」は「できる人」に教えてもらえばイイのです。

若宮さんが指摘していた日本での行政デジタル化の遅れは「できない人」に合わせているからだとの議論がありました。

つまりICTの普及が進んでいるエストニアは「できる人」に合わせているのです。

「できる人」に合わせる国と「できない人」に合わせる国では、どちらの国民のITリテラシーが伸びるかは言うまでもありません。

 

3.やっているところはやっている

新型コロナウィルスの一連の対応で国中がてんやわんやしている中、小学校でのプログラミング授業が4月からスタートしているそうです。デジタル教育を支援する活動をしているパネラーの話です。

このプログラミング教育が全国一律平等に展開しているかというと、実はそうではないらしいです。つまり、やるところはやっているけれども、やっていないところは全くやっていないとのこと。地区の首長や現場の先生方のスキルや意欲次第らしいです。

国は方針を示すだけで、その実行は地域に任されています。地域での対応力差はITリテラシーの格差を生むとの指摘をしていました。

全国一律に平等な教育を受けられるというのは幻想にすぎないとのこと。コロナ禍で子供の間でITリテラシーの2極化が進むのかも知れません。

 

4.現場改革に挑戦するのか?しないのか?

できる人に合わせるか、できない人に合わせるか?これはそのまま、生き残りをかけた多くの中小製造現場へ投げかけられている次の問いかけに通じます。

貴社は現場改革に挑戦するのか?しないのか?

コロナ禍で従来の受注量に戻るのか戻らないのか先が見通せなくなってきました。付加価値額人時生産性の向上をコスト削減だけで実現することは最早無理です。

製造改革、生産改革、モノづくり改革、現場の価値観・仕事観の大反転。従来の仕事のやり方に固執している限り、人時生産性を4,000円、5,000円、6,000円……と伸ばすことは不可能です。

現場改革に対する現場の姿勢が問われています。

経営者が現場改革を決断しました。現場のキーパーソンを呼び、自らの決意を語ります。

早速、現場改革を実践したい。ついてはあなたに旗振り役をお願いしたい。

貴社のキーパーソンへリーダー役を指示したとき、キーパーソンはどのような反応を示しますか?

1)「わかりました。さっそく、やってみます!」

2)「みんなの意見を聞いてみようと思います。」

 

5.みんなの意見を聞きたいと言うのではダメ

後者の回答は要注意です。なぜなら「できない人」に合わせている懸念があるからです。あるいは「やりたくない人、やらない人」に引っ張られている懸念があります。

みんなの意見を聞いて……。もっともらしいですが、これはキーパーソンがストレスを感じているからです。現場を「変える」ことに抵抗する雰囲気があります。

したがって、意見を聞こうという言葉が出てくるのです。

現場のキーパーソンの仕事は「みんなの意見を聞く」ではなく、「社長からの指示を伝える」です。そうして、それを実現させるために「みんなでどうするか考える」です。

「できない人、やりたくない人、やらない人」に合わせる雰囲気がある現場は伝えても指示をスルーします。どうするかを考えるどころの話ではありません。現場のキーパーソンも疲弊します。

・さっそくやってみましょうとノリよく経営者の言葉を現場へ伝え、すぐさま試行錯誤を開始するA社の現場

・経営者の言葉を耳にして「ああでもないこうでもない」と議論にならない話だけをしてそのままのB社の現場

変化への対応力はA社とB社の間で大きな格差が生まれるのは火を見るより明らか。

B社の現場は全く気がついていませんが、やっているところはやっているのです。それが競合のA社だったらB社は完全に負けます。

 

6.同調圧力の排除

個人では意欲的でも、チームでの積極性につながらないことがあります。同調圧力です。

経営者は、現場が「できない人、やりたくない人、やらない人」に合わせる雰囲気に陥っていないか常にチェックする必要があります。

それを認識したら正さなければなりません。

「あなたたちの考え方は誤っている。これから我が社が生き残るには……。」社長が訴えるのです。従業員は全員、耳を傾けます。トップの本気が伝わるからです。

現場改革に取り組み姿勢は経営者によってつくられます。

「できる人」にあわせ、競合に先んじて変化していくのです。

 


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)